フルート記事 kokoro-Neがお届けする〜フルートで彩る フィギュアスケートの世界〜
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第29回|「The Sound of Silence」

kokoro-Neがお届けする〜フルートで彩る フィギュアスケートの世界〜

LESSON

こんにちは! 2本のフルートとピアノのトリオ【kokoro-Ne(ココロネ)】です。シーズンも終盤に差し掛かり、世界選手権が楽しみな今日この頃。今シーズンのイチオシ! 鍵山優真選手の『The Sound of Silence』を取り上げます。ぜひご覧ください。

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サイモン&ガーファンクル

主に1964年〜1970年に活躍したアメリカのフォーク〜ロックのデュオ。ポール・サイモンが主に作詞作曲、アート・ガーファンクルがメインボーカルを務めています。『Bridge Over Troubled Water』『Scarborough Fair』『Mrs. Robinson』など名曲ズラり。デュオでの活動停止後は、それぞれソロで作品(※1)を発表したり、断続的に再結成を繰り返したりしながら音楽活動を続けていいます。

※1 アートのソロアルバム「Angel Clare(天使の歌声)」(1973年)収録の『Traveling Boy』名曲です。

『The Sound of Silence』

といえば映画「卒業」(1967年)のラストでダスティン・ホフマンが教会から新婦を掻っ攫うシーンが有名ですが、リリースはそれより前の1964年。サイモン&ガーファンクル(以下:S&G)のデビューアルバム「Wednesday Morning, 3A.M.(水曜の朝、午前3時)」(※2)に収録されていました。
アルバムにはギターの伴奏と2人のコーラスのみのアコースティックで録音されていましたが(※3)、これが当初はまったく売れなかったそうで。

その後、ラジオからじわじわと火がつき、1965年にシングルカットをする際に、プロデューサーのトム・ウィルソンがバンドセクションを重ね録りしました(※4)。世界的に知られているのはこのリミックス版です。

直訳すると“沈黙の音”……え、どっちよ?となりますね。文学的で難解な歌詞ですが、1960年代アメリカのカウンターカルチャー(主流の文化的習慣に反する文化)の影響があるようです。

歌詞のことは置いておいたとしてもこの曲、シンプルなメロディと曲構成、それが5回も繰り返されるのに不思議と最後まで飽きない……! ポール・サイモンの類稀なソングライティング力、“天使の声”と称されたアート・ガーファンクルの美声の真骨頂ではないかと思われます。

※2 良作揃いの素敵なアルバムです。是非聴いてみてください。
※3 ギターがよりクリアに聞こえて、5コーラス分のバッキングの変化も楽しめます!
※4 S&G本人たちに無断だったという話もあります(@_@)

鍵山優真2024-25 SP『The Sound of Silence』

(1月のユニバーシティゲームズの構成でお話をします)
鍵山選手のスケーティングが個人的に大好物で、何年も前からこのコーナーで書きたかったんですけど、なかなか吹きやすい曲が使われなくて.....ρ(。 。、 ) 今シーズン、やっと取り上げることができて嬉しい限りです。

振付はローリー・ニコル。冒頭はモンテネグロ(旧ユーゴスラビア)のクラシックギタリスト、ミロシュ・カラダグリッチの音源です(※5)。囁くようなストリングス、静かに一粒ずつ紡ぎ出されるギターの音色、そして静寂。氷に吸い付くように滑らかな鍵山選手のスケーティングだからこその選曲なんだと、すぐに気付かされます。既に名プログラムの予感!

大袈裟に蹴ってる素振りはないのに、あっという間に加速して4トゥループ+3トゥループ。高さ、回転軸、着氷、ゆとり、すべてが美しいジャンプ✩

音源にはストリングスも加わり、演技にも滑らかさに躍動感が加わったような雰囲気になります。1コーラス目の最後で軽やかな4サルコウ。フレーズが落ち着くタイミングに溶け込む4回転……(悶絶)。ちなみにこの着氷後のポーズ、2コーラス目を呼び込むようでいて、ゆまちらしさもあって好きです(*≧▽≦)

この後はストリングスが更に厚みやリズムを出した曲調に合わせるかのようにフライングシットスピン。低い姿勢でも曲の表現がキープされ続けていて、スピンの出方も好きです。

3Aに向かうまでの足捌きも垂涎。向かった先の3Aの一連に余裕があって、ミロシュがメロを溜め込んだ揺らぎまで吸収しているように見えます(о'¬'о)

次はカナダの歌手、ガルーの音源に変わります。アコギ掻き鳴らし、なんならエレキもちょっとキュイーンと鳴っている上に、ハスキー系パワフルヴォーカル。ミロシュの静寂から一転、ロックのような激しさともまた一味違った熱量を感じるアレンジです。

そして足替えキャメルからのステップが絶品です!⟡ ݁₊ .
スピードに乗って大きく深く伸びる度にGroove感が出て、ミロシュとガルーのアレンジの違いもしっかり引き出されています。左右に振れてもブレない体幹もお見事。丁寧に曲を歌い込む表現にはカロリーナ先生の影も垣間見えます(いいお仕事されてます、キスクラも毎回楽しみ!)。今回、門井にイラストお願いする時に「どこでもいい! どこ切り取っても綺麗なんだもん!!」という話をしたくらい、1歩1歩目が離せません!

ラストは駆け抜けるように足替えコンビ。あっという間のSP。既に名プロ確定ですが、この後ワールドに向けて熟成していくのが楽しみです!

※5 ミロシュのアレンジは3コーラスしかないんです!ズルいw

演奏動画

kokoro-Ne YouTubeチャンネル

楽譜のご紹介

ザ・フルート vol.170【ギター伴奏CD付】

巻末楽譜に掲載しています(Flソロ)。
詳しくはこちらから 

 

kokoro-Ne Libraryでは2種類ご用意しています。

フルート、アルトフルート(または、フルート2本)とピアノのための『The Sound of Silence』(es-moll)/ サイモン & ガーファンクル(製本版)

「せっかくやさしいアレンジなのに……♭6個?!( ノД`)」

ですよね、書いた本人もそう思います(笑)。
より多くの方に手に取っていただけるよう♭1個も書きました。

 

フルート、アルトフルート(または、フルート2本)とピアノのための
『The Sound of Silence』(d-moll)/ サイモン & ガーファンクル(ダウンロード版)

どちらもアレンジ自体は同じです。お好みでお楽しみいただけると幸いです。

これまでにご紹介したkokoro-Neの楽譜はkokoroneshopでお求めいただけます。
前回ご紹介したアナ雪の『ありのままで』は、公開までにど偉い時間がかかってしまって、先日やっと販売開始になりました。お待たせして申し訳ありませんでした。

アレンジの話

 

全体は、S&Gのフォーク〜ロックとも、ミロシュのクラシカルなテイストとも違う、おとなしめの室内楽の中に60〜70年代の洋楽っぽい雰囲気を混ぜてみました。

①5コーラス、どーすんだい!

いくらフルートが2人いるとて、歌詞がないものを5回も繰り返して、インストとして成立させるのはなかなかの苦行です(多分、聞く側も方もツラいです 笑)。

これはもう、どこかでピアノにメロディを弾いてもらうしかないよね……ということで、割と潔くピアノ始まりを決断しました。という建前と、「ミ♭シ♭ファシ♭」のギターのラインが好きなので、吹いてみたかったというのもありました。

2番はピアノにメロディとして残ってもらいつつ、フルートと入れ替わり立ち替わりに。フルートが本格的にメロディを担当するのを3コーラスまで引き伸ばして、残すところ2コーラス……思いつく限りすべての手口を投入したアレンジになりました。

②調性の大切さ
難易度控えめで書けたので「いっぱい演奏してもらえそうだね!」なんて3人で喜んでいたのですが、肝心なことを忘れていました。
“そもそも、es-mollがちっともやさしくないよね……”

半音上↑:e-moll
半音下↓:d-moll

半音移調するだけで、明らかに見た目が平和な楽譜になります。ということで試作してみたのですが、e-mollがっ……mollなのに……陽気なんです(・・;) #系の調号のせいでしょうか。「Hello darkness」感が皆無(ボツにしたサンプルをお聞かせしたいくらい衝撃でしたw)。

対して、d-mollは同じ♭系のせいかdarkness感が残る響きになりました!そう言えばミロシュもd-mollで素敵だし……。
とは言え、幼少期からの刷り込みもあって原曲のes-mollがもつ独特のdarkness感は替え難いものがあり、悩んだ末に2種類の調号で出版することになりました。

演奏のアドバイス

全体:フルート2本での8分音符の刻みは、滑らかすぎず、ブツブツにもならず『Strawberry Fields Forever』(The Beatles)のような、ぽふぽふ感を出してみてください。2コーラス目はピアノとフルートが縫うようにメロディが入れ替わります。お互いの動きをよく把握して、メロディをしっかり浮き立たせてください。

フルート:ひたすらにシンプルに吹くことを心掛けました。そうすることによって滲み出る切なさというか寂れた感じといいますか。歌いすぎないようにすると良いと思います。
♭6個ですが、「隣の人(アルトフルート)は♭7個な上に♭♭(ダブルフラット)もあるんだ! 私が間違えるわけにはいかん!」という気迫と集中力でがんばりましょう。

アルトフルート(2nd):es-mollバージョンは……ほんとごめんなさい、ソルフェージュ上の問題で記譜がas-moll(♭×7)になってます。音程だけならgis-mollでも同じなのですが、前出の通り#系で歌ってしまうとdarkness感が台無しになってしまいます(汗)。なので、技術面よりも集中力との戦い。頑張ってください(^^ゞ そして、ずっと8分音符を刻み続けるパターンは、ブレスが難しいですね。メロディが鳴っている時にちょこちょこ吸うなど、目立たないように工夫してみてください。

ピアノ:全体を通して、客観的にドライ気味に弾くと切ないメロディと編曲に合うと思います。ピアノがメロディの部分は、思ったよりしっかり弾いてちょうどよく聞こえます(フルート的には、ピアノの裏で分散和音を続けるのが地味にしんどいので助かります)。

 

コンサートのお知らせ

今年も7/6(土)に18周年コンサートを開催します。オリジナル曲からkokoro-Neカラー強めのアレンジ曲、フィギュアコーナーでご紹介した曲も演奏予定です(4月号vol.30のプログラムがバレてます)。
ご予約お待ちしております。

 

 

kokoro-Ne 18th Anniversary Concert─トリオ・アンサンブルの新境地へ─
[日時]7月6日(日)13:30開演
[会場]スタジオヴィルトゥオージ(東京)
[出演]kokoro-Ne〈門井のぞみ(Fl&Picc)、大和田真由(Fl&Alto Fl)、田仲なつき(Pf)〉
[曲目]A.ピアソラ:鮫、久石譲:映画「紅の豚」より、A.マルチェロ:オーボエ協奏曲 ニ短調 S.Z 799、大和田真由:2本のフルートとピアノのための夢現な小品 他
[料金]¥3,500 メルマガ会員¥3,000
[問合せ]kokoro-Ne Ticket

 

kokoro-Ne(ココロネ)プロフィール

kokoro-Ne (ココロネ)
門井のぞみ・大和田真由・田仲なつきによる、2本のフルートとピアノのトリオ。
クラシックで培った確かな技術と表現力を基に、色彩豊かなアレンジやハイレベルな演奏で好評を博している。
2007年結成当初より、ジャンルを超えたレパートリーに挑みながらも、リズムセクションや打ち込みなどを敢えて加えず室内楽トリオの可能性を追求し続けている。
TPOに合わせた演奏を得意とする一方、CD・楽譜・オリジナル作品の発表にも力を入れており、オーディエンスはもとより多くのプレイヤーからも支持を得ている。
主な作品
・2009年 1st Album 「 kokoroーNe/ココロネ 」
・2013年 「 コンサートで使えるフルートデュエット曲集kokoro-Ne編 」(ドレミ楽譜出版社)初版以降も増刷を重ね、ロングセラーとなる
・2016年 2nd Album 「 Microcosmos 」
同収録のオリジナル曲「 ミクロコスモス 」楽譜出版
・2017年 楽譜出版「 kokoro-Ne Library 」を立ち上げ、これまでに30タイトルを超える楽譜を発表。続々と新作発表を控えている。

kokoro-Ne公式HP https://www.kokoro-ne.net/
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