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堀田敏男のリペアマンへの道! クリーニング編

Wind-i mini29号 第2回

第2回 クリーニング編

今年4月から「島村楽器テクニカルアカデミー」と改称する代官山音楽院は、本格的なリペア・メンテナンスだけでなく知識、社会性・音楽性をも身につけることができる音楽技術学校です。そんな同校の管楽器リペア科で金管楽器を中心に修理技術を教えているのが堀田敏男先生。その堀田先生による金管楽器編の2回目はクリーニングについて聞きました。

 

ピストン楽器に起こる不具合は?

 

堀田敏男

ピストン楽器のお手入れ用品

ピストンの表面、管体内部に汚れやゴミが付着し、動きが悪くなることがあります。それを防ぐために、バルブオイルで皮膜を作るのですが、常にオイルを注さないといけません。練 習が長時間に及ぶ場合は、練習中であってもオイルを注します。そして、練習が終わったあとは、ガーゼなどでピストンを拭いてからもう1回オイルを注すんです。これは、防腐剤を含んだバルブオイルもあるのでサビ防止の意味もあります。また、オイルをケーシング内に注した時、余ったオイルは下に流れ、受け皿のような形状をした底ネジに溜まります。底ネジにオイルや水分が溜まった状態で楽器を傾けたり、逆さまにするとオイルとともに汚れも逆流して、さらに動きが悪くなるので、底ネジもきれいにしてください。

 

ロータリー楽器ではどんな不具合がありますか?

 

堀田敏男

ロータリー楽器のお手入れ用品

ロータリー部分の動きが悪くなるのがほとんどですね。これも汚れやゴミが原因です。ロータリー楽器では、真鍮に見られる緑しょうが発生することがあります。また、ロータリー部分の周りに付着した汚れが歯石のように固まってしまうんです。ロータリーに関しては常に湿った状態、常にオイルが付着している状態を維持しないといけません。乾燥したらアウトです。

 

クリーニングするうえでの注意点を教えてください。

本番前は基本的に管体内部のお掃除をしないのが鉄則です。本番があるからと急にお手入れをすると別の楽器になってしまうことがあるので、日頃のお手入れが大事になってきます。 私が経験したことを話しますと、30数年前、イタリア人トランペッターのニニ・ロッソさん(1926-1994年)の来日コンサートがあり、その前日にたまたまヘコみ直しで楽器を持ってこられました。作業中にマウスパイプの内部を見たところ、汚れやゴミで埋め尽くされていて内部の空間がひと回りも、ふた回りも狭くなっていたんです。掃除しようかとも考えましたが、本番前は現状のままお返しするのが基本なので思いとどまりました。

 

管体を自分で洗う時に気をつけることは?

 

堀田敏男

左上がブラシ(フレキシブルクリーナー)、右上がクリーニングロッド、左下がスワブ、右下がガーゼ

ピストン楽器は、コルク、フェルトしか交換パーツがなく、コルクは濡れてもそれほど問題ないので、フェルトだけを外せば丸洗いできます。ロータリー楽器は、特殊な工具がないと分解できません。その工具を持っていたとしても、組み立てる時に調整が必要なので自分では絶対分解しないでください。ロータリー部分は髪の毛1本入っただけで動かなくなるので、楽器店にお任せしたほうがいいですね。注意点としては、もし自分で管体を洗浄する場合、熱湯で洗わないことです。ラッカーなどが変色することがあります。必ずぬるま湯で洗浄してください。

 


Profile|堀田敏男

1975年ヤマハ株式会社入社。84年ヤマハ北海道管楽器サービスセンター勤務。管楽器リペア・メンテナンス業務と、特約楽器店担当者の育成に尽力。95 年ヤマハ銀座店配属。セ一ルスエンジニアとして都内音大・陸上・海上自衛隊音楽隊の担当。99年ヤマハ管弦打学校営業部勤務。北海道・東北・東海・関東 地区のヤマハ特約店若手技術者のサポート育成。各地区トップ校ブラスバンドのメンテナンス同行訪問。吹奏楽指導者講習会のメンテナンス研修会を企画担当し 講師も務める。2013年ヤマハ株式会社を退社し現在に至る。

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