クラリネット記事
「基礎知識」のガイドライン

マウスピースの基礎知識 -意外と知らない11のこと-

04ティップ・オープニングとフェイシング

「ティップ・オープニング」とは、マウスピースにリードを装着したときの先端の開きのこと。各メーカーでは1/100ミリ単位で異なるモデルが設定されている。一般的に、ティップ・オープニングが広いとダイナミクスレンジが広く大きな音が出るが、安定したコントロールが難しく、吹く際は大量の息を必要とする。逆に狭いと、大きな音が出しづらく、細かなコントロールが難しいと言われている。
「フェイシング」は一般的にマウスピース先端からリードが接する点までの長さを言うが、広義ではテーブルも含めて、リードと向き合う面をフェイシングと言うこともある。フェイシングは1/10ミリ単位で異なり、長さによって大きくロング、ミディアム、ショートに分けられ、さらに細かく分けたものにミディアムロング、ミディアムショートが存在する。一般的にロングだとダークな音色の傾向で、音のコントロールが難しくなると言われ、ショートだとブライトだが音は細く、低音が出しづらい傾向にあるようだ。
このティップ・オープニングとフェイシングの関係、そしてフェイシングのカーブの形状が音色や吹奏感に大きく影響する。

 

05サイドレールとティップレール

サイドレールの重要性について十亀氏は、「リードを調整するときに重要なのは左右のバランスなんですが、リードが接地するフェイシング部分、つまりサイドレールの左右のバランスが悪いと、リードを調整しても意味がない。だからサイドレールも重要です」と語る。
ティップレールは、一種の安全装置の役割を果たす。レールの幅が狭いほど音の立ち上がりが速いがコントロールは難しく、幅が広いほど安定するものの反応が鈍い傾向にあるようだ。

 

06マウスピースとリードの関係

忘れてはならないのが、マウスピースとリードとの相性について。先に挙げたマウスピースの各部は、このリードとのマッチングに深く影響を与えているが、リードとの相性は簡単に説明できない。一般的に傾向としてはマウスピースの先端部であるティップ・オープニングが広いとリードは柔らかめ、逆に狭いと硬めのものが合うとされている。また、リードの両端が薄く、中央が厚いものはフェイシングの長いもの(ロング・フェイシング)が合うと言われている。

 

07バラつきについて

マウスピースの仕上げは手作業の部分も多く、同じモデルでもバラつきが出てくる。「同じモデルでも各部のサイズが若干異なることもあり、個体差はありますね。ただし、そのばらつきは善し悪しというより、奏者の好みの問題です。だからマウスピースを一度吹いただけで“このマウスピースはダメだ”と決めつけるのは良くないのです。重要なのはそのマウスピースにとって最適なリードを探すということです」。 十亀氏が言うように、そのマウスピースにマッチしたリードを選ばないと、本当のマウスピースの良さはわからないかもしれない。

 

08マウスピースを見てみよう!

マウスピースにおいて、バッフルやチェンバーなど内部に関しては目視で良し悪しはわからないと言っていい。ただし目視で、ある程度の造りを確認できる部分もある。例えば、サイドレールの幅が左右で大幅に違うものや、ティップ・オープニングの左右の開きの違いは一つ目安になるのではないだろうか。
ティップ・オープニングの左右の開きが均一でないマウスピースの場合、一般的に良いとされるリードが合わない場合も多く、リード選びが難しくなるだろう。
そこで、実際にティップオープニングの左右の開きを調べる方法として、図のようにマウスピースをティップ側から正面に見てみよう。ティップレールの左右両端とテーブルが平行になっているかを確認してみて、この開きが大幅に違うものは、精度が高いとは言えない。

 

09自分に合うマウスピースとは?

自分に合うマウスピースは人それぞれ違ってくる。こればかりは実際に吹いて確かめるしかない。
「クラリネットは音が出しにくいという人がいますが、それは間違いで、出しにくいと感じたのはそのマウスピースにリードやリガチャーが合っていないからです。必ず合うものがあると思います。そのためにもいろいろなマウスピースを吹いてみて吹きやすいと感じた、“自分に合うマウスピース”を見つけることです。吹きやすいというのは、自分の思ったとおりに吹けること。ただ、人それぞれ骨格や筋肉の付き方が違うので、吹きやすいと思うマウスピースもそれぞれ違います」
十亀氏が語ったことを踏まえ、自分に合うマウスピースの目安として、

1、吹き心地がよい
2、音程がとりやすい
3、発音がしやすい
4、よく響く音が出せる
5、音色に幅がある
6、自分好みの音


試奏の際には、上記の6項目を目安にしてみよう。また十亀氏は、初心者はまず“吹きやすい状態”を知ることが重要と語る。「この音が出ない、タンギングができないということが自分のせいなのか、楽器のせいなのか、楽器を始めてすぐの中学生や高校生はわからないと思います。だから、初心者は必ず“これが吹きやすい状態だ”というのを経験しなければいけないんです」。

 

10マウスピースは消耗品? 替えるタイミングは?

マウスピースは消耗品なのか、そうではないのかは意見が分かれるところ。
十亀氏は「マウスピースは消耗品と考えたほうがいい。マウスピースはリードのように急激に悪くなることはないのですが、徐々に悪くなっていきますから、どの程度劣化しているのか自分では気がつかないんです。だから、定期的に自分の使っているものと、それと同じモデルの新品を吹き比べてみるのがいいと思います」と言う。
そこで音色に違いがあれば、そのときがマウスピースを替えるタイミングだといえるだろう。
「初心者の人がマウスピースを替えるときは、必ず上級者に選んでもらわないといけません」(十亀氏)

 

11マウスピースの扱い方

マウスピースのお手入れの仕方は人それぞれ違うだろう。扱い方について十亀氏は、「むやみにスワブを通さないこと。汚れてきたと思ったら、表面をキズつけないように水洗い(編集部注:変色するので水洗いはダメだという説もある)をすればいいと思います。また、マウスピースは意外と軟らかいのでリガチャーを締めた状態でリードを下に動かすと、マウスピースのフェイシングが削れてしまうことがあるので注意してください。そしてリガチャーを取り付けるときは最後まで締めず少し緩めておいて、リードをセッティングしたあとにリガチャーを締めるようにする。そして片付けるときは必ずキャップをすること」と語ってくれた。
マウスピースはゴム製や樹脂製のものが大半を占める。触った感触は硬くても、意外と衝撃や摩耗に弱いと認識しておこう。

 

スタンダードと呼ばれるバンドーレンについて

ライヤーモデル
通常のモデルよりもティップ・オープニングが広く、フェイシングも長くなっているのが“ライヤー”モデル。5RVやB40のほか、M13、M30、B45などに設定されている。モデル名の後に竪琴(ライヤー)のマークが入っている。

 

トラディショナルとプロファイル88
それぞれのモデルにトラディショナルとプロファイル88が設定されている。その違いはビークの角度。トラディショナル(左)のほうが角度がきつく、プロファイル88(右)は緩やかになっている。見た目の違いとしては、プロファイル88にはビーク側から向かって左側に「88」の文字が刻まれている。

 

なぜバンドーレンに人気が集中するのか?
全国的に見てもやはりバンドーレン製のマウスピースに人気が集中している。「中学・高校などの吹奏楽部では楽器を統一する傾向があるからだと思います。これは音色感やピッチ感などを合わせるために、全員が同じマウスピースや楽器に統一するようです」(十亀氏)
比較的クセがなく吹きやすいマウスピースで、さらには価格なども考慮されてバンドーレン製のマウスピースを採用することが多いようだ。バンドーレンでは5RVライヤーとB40の2モデルの人気が高いが、それはなぜだろうか。
「これは好みの問題。奏者によっても違うので一概には言えませんし、ひと言でこのマウスピースがどうだというのも難しいのですが、音色の傾向としては5RVライヤーが基本的に明るく、B40が少しダークな感じ。また吹奏感は、同じ番手のリードを使って吹いた場合、5RVライヤーはB40よりもティップ・オープニングが狭いため息の通りが良いのですが、音が開きやすい。一方、B40はティップ・オープニングが広いため、息が少しつまると感じる人が多いでしょう」(十亀氏)

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