Hidenao Aoyama

青山秀直

YEAH Quartet

─ 今回、一緒に演奏されたYEAH Quartetとの出会いは?
青山:僕の妻は中・高校で音楽の教員をしているのですが、ヴィオラの桂田光理さんは教え子の一人です。彼女はその学校のオーケストラクラブの部員でした。とても上手な子で、僕も夏休みの期間などにそのオーケストラクラブを指導していたので知っていました。 そして、9作目の制作を始める時、ベルリン在住のピアニストである山口研生さんがこのコロナ禍で来日できないことがわかりました。そこで、このような機会に若い世代と共演することも意味があるのではないかと考え、桂田さんに連絡を取ってみました。その時に大学の仲間とカルテットを組んでいることを知り、彼女たちの演奏している映像なども見せてもらい、レコーディングをお願いすることにしました。

─ 共演された感想をお願いします。
青山:2曲とも大曲なので、曲から求められることがとても多く、それを一緒に演奏しながらどう深めていくかがポイントでした。元々彼女たちが持っている表現力だけでなく、理解力や音程も良かった。再現力も高いです。それに、四重奏をずっとやっているので問題を解決するための手際の良さも感じました。

音自体の純度を上げる

─ CDではドイツクラリネットの澄んだ音色が印象的でした。青山さんはドイツに留学したあとにドイツ管を使い始めたそうですね。
青山:そうです。ドイツ留学前にドイツクラリネット、エーラー式をどのくらい理解していたのか、今思うと疑問が残りますが、中・高校生ながらにいろんな人の演奏をたくさん聴いていたので、感覚的には多少理解していたのかもしれません。ただ、当時は音楽関係に進むとは思っていなかったので、それほど興味をもっていなかったと思います。そして、ライスターの演奏を聴いたときだけ強烈なインパクトがあって、涙してプロになりたいと思ったのですが、その感動がドイツ式の音からきているのか、ライスターの演奏からきているのか、そのときはまったくわかっていませんでした。留学した時もそうだと思います。 ドイツに行ってから四戸世紀さんに教わったことが大きいですね。当時、四戸世紀さんはドイツ式やリフォームドベームを使っていたのですが、ドイツクラリネットやエーラー式のクラリネットを吹くとはどういうことなのか、これができなかったらドイツ式を使う意味がない、という技術的なことを一つずつ教わりました。それをしっかり学んでいくと、ライスターのような心を揺さぶる演奏ができるということがわかってきました。
最初に教わったのはディミヌエンドでした。ベルリン芸大で師事したペーター・リークホフ先生にも何度も言われたのですが、四戸さんはディミヌエンドを光に例えて説明してくれました。四戸さんがカメラータから出している「シューマン:夜曲集〜ドイツ・ロマン派の光と影」というCDで、ブックレットの表紙を飾っている絵がドイツ・ロマン主義の絵なんですけど、光の加減がとても美しいんです。そういう絵を例えに使っていました。四戸さんの自宅近くにあるシャルロッテンブルク宮殿にドイツ・ロマン主義の絵が飾られていて、それを一緒に見に行ってその場で絵を見ながら音で表現するならどうするかを説明してくれました。暗いところに光が収束して集まっていく感じとか、一点から光が漏れてくる感じとか、暗い部分と明るい部分の陰影とか、そういうものを音で表現するために必ずゼロまでディミヌエンドする必要があると。これができなかったらドイツクラリネットを吹いている意味がないということです。そういうことを細かく教わりました。
とにかく雑音を減らすことが大事で、音そのものの純度を上げるという感じだと思います。 そこまでの透明感を目指すと、曲自体の色が音に反射します。どんな曲を吹いてもその奏者の色が出るというタイプの方もいるかもしれませんが、僕は音自体の純度が上がることによってその音楽がもっている色が自然と音に染まるような音楽を目指しています。

─レコーディングに使用された楽器、マウスピース、リガチャー、リードを教えてください。
青山:楽器は2018年に購入したH.ヴーリッツァー100C/SのA管です。
マウスピースはヴーリッツァー3WZの特注品になります。通常はアクリル製なのですが、僕のはドイツラバー製です。加工と仕上がりがとても美しく、ヴーリッツァーの技術はさすがだなと感心しました。
リガチャーは紐タイプ。紐は2層構造になっていて、中に芯のような物が入っています。伸縮性が高いので締め方によって響きも変わってきます。今はドイツ人でも紐タイプを使っている人は少ないそうです。僕はベルリンにある楽器店が販売しているものを使っていますが、楽器店のスタッフには「ウチで紐を買っていくのはライスターと、秀直くらいだよ」と言われます(笑)。その楽器店に行くたびに大量に購入しているので、自宅に未使用のものが相当数ストックしてあります。
リードはバンドーレンV12の3.5+。これはフレンチのリードです。ヴーリッツァーの3WZはフレンチのV12で吹けるように開発されたマウスピースなんです。フレンチのリードならどこでも買えますし、マウスピースの3WZは流通数が多く、いくつかの中から選んで買えるようになったのがメリットですね。「クラリネットファンタジー」シリーズの3作目から3WZのアクリル製で、8作目からはドイツラバー製を使用しています。

─ 今後のご予定、展望などありましたらお願いします。
青山:まず今年9月にレコーディングした次のアルバムの制作を進めていって、来春(2022年)ごろにリリースできればと考えています。YEAH Quartetにコントラバスを加えた弦楽五重奏とクラリネットでモーツァルトの協奏曲、それとウェーバーのクラリネット五重奏曲を録音しました。
そして、今後はピアノとのリサイタルだけでなく、弦楽四重奏との演奏会やクラリネット四重奏団アンサンブル・ソノリテの演奏会も企画していきますのでご期待ください。

─ ありがとうございました。


青山秀直 Hidenao Aoyama
クラリネット奏者。ベルリン芸術大学卒業。在学中よりドイツにて南西ドイツ放送オーケストラ、ベルリン交響楽団、イェーナー・フィルハーモニーなどの客演奏者を務める。1995年クラリネット四重奏団アンサンブル・ソノリテを結成し、ドイツ各地でコンサートを行なう。1996年に帰国後、オーケストラとの共演、NHK-FMへの出演の他、日本各地でリサイタルを開催し、カール・ライスター、ヤン・ギュンスの各氏と共演するなどソリスト・室内楽奏者として活動を繰り広げる。1999年クラリネット四重奏団アンサンブル・ソノリテの日本デビューコンサートを開催。2001年、2004年に同アンサンブルのCDをリリース。これまでに日本各地で「クラリネット四重奏団アンサンブル・ソノリテ 名曲コンサート」シリーズを数多く開催。兵庫芸術文化センター管弦楽団、日本センチュリー交響楽団、大阪交響楽団、群馬交響楽団などの客演奏者を務める。2005年国際クラリネットフェストTAMA東京、2010年台湾International Festivalに出演、2014年台湾国立中山大学International Conference on Wind Instrumentsに招聘される。2013年より録音活動にも意欲的に取り組み、CD「Hidenao Aoyama Clarinet Fantasy」シリーズでは幅広いレパートリーを収録。クラリネットを村井祐児、和田尚裕、四戸世紀、ペーター・リークホフ、ヘルナート・フェレンツの各氏に、室内楽をエヴァルト・コッホ氏に師事。現在、大阪音楽大学、同志社女子大学学芸学部、大阪府立夕陽丘高等学校音楽科、兵庫県立西宮高等学校音楽科で後進の指導に当たる。
https://www.aoyamahidenao.com/

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