クラリネット記事 理解を求める心の葛藤「ユナボナー」
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木村奈保子の音のまにまに|第96号

理解を求める心の葛藤「ユナボナー」

“ユナボマー事件”と言えば、アメリカではよく知られた実話の事件で、これまでドラマ、ドキュメント含めて3~4本作られている。
特に今年9月から公開されたばかりのNetflix新作「ユナボマー」は、この爆弾犯を育てるきっかけになった大物教授役として、ラッセル・クロウが登場。大作仕立てになっている。
まずユナボナーとは、UNABOMBERで、FBIがつけた事件のコードネーム、ユナボムを人名にしたもの。
犯人の標的がUN(Univ大学)、Airlines(航空会社)、BOM(爆弾)で、大学や航空会社を狙った爆弾魔という意味からきている。

ソルトレイク市の雪山で犯人は、メッセージの文体を見た弟の通告により、犯人として見つかった。
16歳でハーバード大学の天才と言われた主人公テッド・カジンスキーが、いかに数学者から爆弾魔となったのか?
知的なレベルと心の問題、外圧との摩擦、未来への希望……微妙にからんでいく果てに?

主人公の犯罪は、爆弾を大学から飛行機会社、コンピューター会社へと的を変えながらぶつけていくものの、被害は17年間で死者3人のみ。理不尽な怒りや暴力や多大な欲望のために事件を犯すとは思えない効率だ。

ユナボナーは大事件の趣はなく、それより犯人と周囲の人間の心理学的な絡み方が特殊すぎて、興味深い。
映画は1958年~62年、主人公テッドのハーバード時代と1990年のFBIから捜査されている時代に分けて描かれている。
頭のいい静かな少年テッドは、コミュニケーション能力が低く、だから理解されない親や他人に対する反発も強い。
そんなときに、大きな理解ある教授(ラッセル・クロウ)と出会い、強度な心理学テストの治験者になるが……。
ネトフリでは、ラッセル・クロウをアンソニー・ホプキンスにしたかったのか?
たくましい体形と俳優としての大物ぶり感がいっぺんに作品の大きさを決定づける。
これまでの小作品にはない期待が上がるのは当然だ。

主人公のテッドも、教授を見て同じような大海の魚の気分で、大物の空気に酔う。
父も母も友人からも理解されない知能を持つ少年が、安定できるのは知能だ。
テッドは、「現代の産業社会は、本当に人間を幸福にしたか?」というような前向きな考えを抱く知的少年だった。

そこで、大物教授は、少年を脳と心の実験に導く。
獰猛な目つきをしたヘビー級チェンピオンのようなディベート相手を前に、テッドは自信たっぷりに歯向かう。
しかしそれは学生同士のディベートではなく、人格破壊工作の方向へと誘導する巧妙な作戦のようだった。
教授がテッドを支配しているつもりが、実はテッドもさらに教授を支配しているというどんでんがえしがありここは、じっさいのところあったのかどうかわからない心理対決描写が、これまでの作品に加えられている。
いづれにしても、テッドが心を支配されることに対する恐怖感がテーマと思えるところ。

このとき複雑な心理ゲームのような強い刺激が、テッドの脳と心に焼き付かれたことはまちがいない。
カルト教祖とは異なる教授は、テッドに治験の診断を下す。「統合失調症だ。」

テッドの爆破事件は、そもそも爆破よりもほかに目的があった。
自分の考えを主張すること、そのためには自分が注目される必要があって、方法の一つが爆破事故だった。
彼の思想は、「人間が科学や技術の力を誇っても、最後には自然や現実の力の前では無力だ」など、まともな考えに取りつかれている。
決して、ありがちな自己愛的な目立ちたがりではないのだ。

それでも、親は彼を理解せず、受け入れづらかった。

世の無理解は、いかに犯罪者を作っていくのか?
世の無理解は、いかに虐待を生むのか?

まったく別のジャンルではあるが、世界のアーティスト、マイケル・ジャクソンも才能にめぐまれながら、幼いころから親に理解されなかった。
自ら振り払う全エネルギーを使い果たすまで、支配され続けた。
全世界のファンに幸せを与えたが、自らそれを得たかどうかは疑わしい。

私は凡人だが、支配されることには過敏だ。
ビルゲイツが警告するように、人はAIに支配される日が遠くないのだろうか。

そんな実験に巻き込まれているエリートらが、すでに支配される道に向かっているのだろうか。

 

MOVIE Information

「ユナボマー」
Netflixで公開中

監督:ヤヌス・メッツ
出演:ラッセル・クロウ、ジェイコブ・トレンブレイ、シェイリーン・ウッドリー、アナベル・ウォーリス、アレクサンダー・ルドウィグ、スティーブン・オッグ、マーク・メンチャカ
原題:Unabomber
配信:Netflix
【2026年製作/97分/アメリカ】

 
木村奈保子

木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com

 

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