クラリネット記事
Close Up Interview

本濱寿明 & 岡本知也 インタビュー Part.1

互いが互いを〇〇

言葉にせずとも

演奏中のお二人の立ち位置はどのように決められましたか?
岡本
僕、藝大で半年間だけクラリネット科の伴奏助手をやってたんです。奏楽堂でリハーサルをしたときに、クラリネットも立ち位置で結構変わるなぁと思ったんですけど……そういえば、本濱とやるときはほとんど気にしていないですね。こちらから言う必要もないくらいにいろいろと聴いて試しているんだろうなと思ってます。
本濱
なんとなくリハをやってみましょうかって入って、どう? あ、じゃあ。みたいな感じですね。
岡本
日ごろのリハーサルも、なにか言葉で確認することが極端に少ない。
本濱
僕が普段福岡で岡本さんが東京なので、新しいことをやるにしても合わせることは難しくて。だけど継続的にアンサンブル演奏してほしいので、年に一回は必ず東京に来てリハーサルをしてもらうんです。
けど、そのときに「こうしたいからこうしていただけますか」って、言うのはもう……。最初に言葉にしないといけない時点で音楽として終わっているなって僕思っているんですね。
岡本
怖いなぁこの人……(笑)。
本濱
どっかでそういうのありませんでした? お互いがお互いを試すっていうか。
岡本
あ、でもそう。それこそピアノを弾けるし、そもそもの彼の音楽に対する姿勢がそうなのだと思いますけど、ピアノパートというか、スコアを本当に熟知しているんです。なので、怖いんですよ。ふわっと曖昧だったり、ちょっとでもいい加減な状態で合わせをするとすぐに見抜かれるだろうな、という怖さがある。
譜面をさらったとかではなく、その曲に対して向き合って準備を重ねてからのリハーサルじゃないと、もう到底太刀打ちできないとずっと思っています。本人に言ったことないんですけど。
本濱
あれですよね、お互いリハーサルの初回、一音目がなかなか出ないですよね。
岡本
なかなか出ない。
数ヶ月、長い時は一年くらいの間、ちゃんと自分はやってきたのか、その答え合わせをさせられているようなものがある。
本濱
まったくその通り!
お互いがお互いを律しているんですね。
岡本
そうですね、そういう意味では本当にありがたい存在ですよね。
本濱
ありがたいですね、本当に。
岡本
僕の最初のリサイタルで、ショパンの『ピアノソナタ 第3番』を演奏したんです。そのリサイタルの前に、高校のときに習っていた先生の発表会で弾かせてもらったのですが、そのときたまたま(本濱さんが)聴きにきてくれたので、彼に何か言ってもらいたいと思って。
そうしたら、「習っていた先生の顔がそれぞれ見えるし、いろいろ考えて弾いていることも分かるんだけど、僕はトモさんの本音が聴きたいですね」って言い残して去っていった。
本濱
どこのどいつだって感じですよね。
岡本
大学の先生と、パリで習っていた先生、お二人ともリサイタルで演奏されていたり、CDに入れていらしたりと、きっと大切なレパートリーのはずで、両方に憧れに近い感覚があって。その結果、自分の中でわけわからなくなってたんですね。学生を卒業して、自分で演奏を作っていかなきゃいけないときで、それぞれのレッスンをなんとか消化して自分の演奏を、と思っていたところをまさに突かれた、衝撃の一発でした。
どんな時も取り繕うのでなく、“本音を喋る”ということに絶妙なタイミングで立ち戻らせてくれた出来事でした。

Part2へ続く……。

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