2019年7月1日〜7月7日

Prague Clarinet Days 2019レポート

2019年の7月1日から7月7日まで、チェコ共和国のプラハ芸術アカデミー(HAMU)にて「クラリネット・デイズ」が開催された。これは世界各国から講師と受講者が集まる国際的なマスタークラス。日本からは田中正敏氏が講師として、また同氏の教え子でもある3人が受講生として参加した。今回、受講生の3人が「クラリネット・デイズ」の様子をレポートしてくれた。

Prague Clarinet Days に参加して

文:尾方 優佳、添石 紗静、大沼 博子

 

師匠である田中正敏氏がプラハクラリネットデイズの先生として参加することがきっかけで、今回このアカデミーを受講しました。2019年7月1日〜7月7日の7日間で開催され、チェコ、スイス、フランス、そして日本から来た計5人の先生のレッスンを、計7回受けることができました。受講生は22人、チェコ、フランス、ドイツ、スペイン、ポーランド、日本から集結しました。年齢も様々で、16歳から29歳の受講生がいました。


世界各国から集まった29名の受講生たち
先生たち
講師陣、左からモリナリ先生、ルチエック先生、田中先生、ヴェニシェ先生
 

プラハ芸術アカデミー

会場はプラハ芸術アカデミー(HAMU)。旧市街からカレル橋を渡り徒歩5分の場所にあり、歴史を感じられる趣がある校舎でした。ご飯は学食、宿泊は大学のホテルでした。日にち毎に振り返ってみようと思います。

学校ロゴ

6月30日:出国、プラハへ

0:01の羽田発の飛行機に乗り、私たちは飛び立ちました。ドーハで乗り換えをし、午後プラハに到着。その日の夜は歓迎会があり、チェコの料理、音楽を楽しみました。

3つ並び

7月1日(1日目)

いよいよレッスンが始まります。私たちはレッスンがありませんでしたが、他の受講生のレッスンを聴講することができました。同じクラリネットでもみんなそれぞれの音、演奏がありました。さらに海外の同年代の演奏を聴くことができたのはとても良い経験でした。アカデミー全体の雰囲気も、様々な国の講師、受講生がいたこともあり、色々な空気感や意気込み、目標が混ざりあっていて私にとってとても心地よいものでした。

 

午後はピラティスの先生によるワークショップが開催されました。演奏家にとって大切な呼吸、身体の使い方や、ほぐし方、さらにはメンタル面の課題について学ぶことができました。身体を動かすことが好きなので、興味深い内容でした。


ハンドメイドクラリネットで有名なドイツのSchwenk&Seggelke社の展示ブースが数日間設けられており、古楽器モデル、ソプラノクラリネット、バセットホルン、バスクラリネットまで様々なモデルを試すことができました。

夕食後には、近くの施設でチェコの先生によるクラリネット5重奏を聴かせていただきました。クラシック音楽が生まれた土地で学ぶことがどれだけ有意義なことか、再認識しました。


チェコの先生によるクラリネット5重奏

 

また、チェコの日本大使館の参事官にお会いすることができ、チェコをより身近に感じることができました。


チェコの日本大使館の参事官と
 

7月2日(2日目)

尾方レッスン:私がはじめに受けたのはチェコのVenyš(ヴェニシュ)先生のレッスンです。前夜のモーツァルトの演奏に感銘を受け、協奏曲の1番を見ていただきました。Venyš先生には特に、楽器を吹くときの息と身体の使い方を教えていただきました。私は緊張すると身体や喉を締めてしまいがちになるのですが、彼のレッスンを受けた後は解き放たれたような感覚があったのを覚えています。常にもっと自然に、もっと自由に吹けるよう研究を重ねたいです。


尾方優佳さん
 

添石レッスン:私の最初のレッスンは、ヴェニシュ先生のレッスンでした。やっぱりチェコに来たらマルティヌ(チェコ出身の作曲家)は見ていただかないと!と思い最初のレッスンに見ていただきました。最初は言葉が心配でしたが、実際に吹いてみせてくれる場面もあり充実したレッスンを受けることができました。個人的なことですが、楽器の角度のアドバイスを一言いただいただけで大きな変化があり、普段なんとなくになっていることを見直してみようと思いました。今回のレッスンの中でなんだかんだ一番の収穫だったかもしれません。


添石紗静さん
 

この合宿の醍醐味といえば、他国の受講生と交流できることにあると感じました。午後は、最終日の前日に行なわれるクラリネットクワイヤーの練習があったのですが、国が違えば練習の雰囲気も多様性に富んでいるなあと感じました。それぞれの個性が激しく調和し合う空間だったように思います。様々な国の言葉を同時に知ることができたのも、楽しかったです。

7月3日(3日目)

尾方、添石レッスン:この日はチェコ人のMareš(マレシュ)先生にクラリネット・デュオをレッスンしていただきました。

 

デュオの曲はチェコの作曲家が1999年に作曲したもので、音源もなければ今まであまり吹くことのなかった現代曲です。練習段階は音を並べることで精一杯でしたが、彼のレッスンによって光が見えてきました。

あるフレーズへのイメージ、アゴーギグ、強弱のつけ方などすべてが理にかなっていて、目から鱗の40分間でした。

私は曲のイメージを明確にして頭の中で音が鳴らないと、その曲の表現ができないと考えているので、その道筋が明確に見えたことで演奏のクオリティが格段に上がったと思います。

Mareš先生はシンプルな言葉だけれど確実に伝わってくる、そんなレッスンだったと感じました。

午後は前日と同じくアンサンブルの練習が行なわれました。


7月4日(4日目)


アカデミーの折り返し日です。日が経つのが早くなってきたように感じました。

右に配置1モリナリ先生と

尾方レッスン:この日は3人の先生からレッスンを受けることができました。1人目は、スイスからいらしたMolinari(モリナリ)先生です。モーツァルトのクラリネット協奏曲2楽章を見ていただきました。

Molinari先生もレッスン中にたくさん前向きな言葉をかけてくださり、私自身リラックスして受けることができました。そして先生がおっしゃることがすべてロジカルな内容だったことが印象的でした。

ある表現をするにはここの音をどういう音程で、どういう息の使い方で、この倚音はこう吹くといいよ、と具体的なアドバイスで、計画的ではあるけれどそのように吹くことで最高の表現に出会いました。

もっと多くの曲の彼の吹き方を教わってみたいと思いました。


2人目は、田中先生です。

レッスンではリュエフのコンチェルティーノを吹きながら、気候などで変化したリードや楽器によって崩れてしまった私のバランスをなおしていただきました。

大学在学中もそうでしたが、先生の一言で吹奏感や音色が変わるので、田中先生のレッスンは本当に興味深いです。

また、他の国の学生たちも田中先生のレッスンに興味をもち、とても勉強になると言っていて、嬉しい気持ちになりました。


3人目は、前日にも受けたMareš(マレシュ)先生のレッスンです。このアカデミーに向けて練習してきたマルティヌーのソナチネを見ていただきました。やはりMareš先生のかけてくださる言葉は温かく、音楽を楽しみながら受けることができました。

マレシュ先生

 

またピアニストも来てくださいました。ピアノの前奏の美しさに息をのみ、吹きながらしっかりと和声の移り変わりに耳を傾けました。いままで聴いてきた以上にこの曲を堪能することができました。マルティヌーの曲をチェコで学ぶことができたことは、今後の自信になると思います。

 

添石レッスン:Molinari(モリナリ)先生のレッスンでは、ウェーバーの一番の一楽章を見ていただきました。Molinari先生はいつもすっごくハイテンションな方で、その性格が曲の中にも見えるなと思いました。ここは劇的に悲しいとかハッピーとか曲の表情をたくさん教えてくださいました。でもそれは何となくではなく、ハーモニー等、ロジックがちゃんとあって何でこの音が重要なのか、悲しいのかハッピーなのが理由まで教えてくださったので、すごく分かりやすかったです。


モリナリ先生と田中先生
 

コンサート『THE BEST OF』

この日の夜は、受講生によるコンサート『THE BEST OF』が教会で開催されました。国も年齢も演奏する曲も様々で、仲間たちの熱い演奏に心を打たれました。

そして私は田中先生と日本人の受講生の計4人でアンサンブルを披露しました。曲はJ.セムレ・コルリのカルテット、西上和子さんの『さだめ』、そしてB.スメタナの『売られた花嫁』です。日本でも2回ほど合わせをして、チェコに来てからも何度か練習を重ねました。

私たちのアンサンブルは海外の方々にとって本当に衝撃的だったようです。一音目から驚かれました。また、多くの人に喜んでいただきました。その反応が本当に嬉しかったです。


左から田中正敏氏、大沼博子さん、添石紗静さん、尾方優佳さん
 

7月5日(5日目)

アカデミーも終わりが見えてきました。

 

アカデミー終わり尾形

尾方レッスン:この日はニースからいらしたLethiec(ルチエック)先生に教わりました。とても気さくな先生です。

ガロワ・モンブランの曲を見ていただきましたが、やはりフランス人の曲の捉え方はとても合理的であると感じました。

例えば、長い連符があったときにただ闇雲に練習するのではなく、レの音に注目してそこに重心を置いてみる、ある音で区切ってみる、などという練習方法です。私には思いつかないようなアイデアをたくさん教えていただきました。

一見、なぜこの音で区切るのだろう?と疑問に思うのですが、2・3度そのように練習してみると、譜面通りに戻して吹いたときに簡単に吹けるようになっています。まるで魔法のようでした。


添石レッスン:Lethiec(ルチエック)先生には、フランスの作曲家ルベルのファンタジーをみていただきました。

Lethiec先生も隣で吹いてくださるので、息の使い方や音のアタックの仕方がとても分かりやすかったです。大胆に出るところ、繊細に出るところ、そのメリハリをつけるためのコントロールの仕方を肌で感じることができました。


7月6日(6日目)

尾方、添石レッスン:レッスン最終日です。最後のレッスンはVenyš(ヴェニシュ)先生でした。以前Mareš先生に見ていただいたデュオの初演をVenyš先生が務めたそうで、絶対に見ていただきたいと思いレッスンしていただきました。

前のレッスンをうまく消化できたのか、曲の表現についてはたくさんのお褒めの言葉をいただきました。その中で、Venyš先生は実際に吹いたときの細かい表現や、技術面でのアドバイスをくださいました。この多くの学んだことをぜひ、皆様に聴いていただきたいです。私たちが日本で演奏した場合、日本初演になることでしょう!

添石レッスン:ボーナスレッスンとして、Molinari先生のレッスンをもう一度受けることができました。ウェーバーの続きで2楽章を。前回のレッスンと同様のハーモニーのことに加えて、音程の取り方、その場面にあった指使いなどすぐに実践できることも教えていただきました。


クロージング・コンサート

夕食後はクロージング・コンサートがあり、何度か練習してきたクラリネットクワイヤーの演奏を発表しました。クラシックからジャズまで5曲ほど、本番でもいい意味で個性があふれていて、色んな国から集まったアンサンブルはとても楽しい演奏になりました。

コンサートの後は、アカデミー参加者全員での打ち上げがありました。チェコビール(ピヴォ)で乾杯!

ここまで来るとみんなと仲良くなっていてお別れがとても悲しいなと。お開きの後、トラムに乗り2次会で夜中まで盛り上がりました!

7月7日:最終日、日本へ帰国

朝食はいつも通り学食へ行きましたが学校は静謐を湛えていて、本当に終わってしまったんだなあと感じました。お世話になった方々に最後の“さよなら”をし、私たちは夕方の便の飛行機に乗って日本へ帰りました。これにてPrague Clarinet Daysは幕を閉じました。

5人の先生によるレッスンから多くのことを学び吸収し、仲間からも刺激を受けた1週間でした。受講生同士でアドバイスをし合ったり、一緒に運指を検討したり、好きな音楽を共有するなど、どの場面も印象深いです。

また、5人はまったくタイプの違う先生だったので、同じ曲を違う先生に見てもらうことで新たな発見があったり、まったく違うレッスン内容なのに通ずるものがあったりと、かなり深い学びがありました。

ある目標があり、それを達成するには道がいくつもあるのだろうと私は感じ考えています。そしてこの経験は今後の私の人生において、あらゆる場面で心強い味方となるでしょう。お世話になった皆様、支え応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

 

2019年8月 尾方 優佳、添石 紗静、大沼 博子

 

田中正敏 WEBサイト
https://www.masatoshi-tanaka.com/


田中正敏


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