フルート記事
バイエルン州立歌劇場管弦楽団の首席奏者を務めるパオロ・タバリオーネ

「美しい音楽」だということを忘れないで!

本誌148号のインタビューClose-upに登場してくれたパオロ・タバリオーネ氏。バイエルン州立歌劇場管弦楽団の首席奏者を務める彼は、プロフィール写真の少々老成したイメージとは違い(まだ30代前半である)、人懐こい笑顔がチャーミングな青年という印象。
本誌では、もともとはあまり気が進まないままフルートを始め、レッスンも“早く帰りたい一心”で受けていたという子ども時代のエピソードを語っていた。いつのまにか“フルート大好き”にまで変貌していたという彼を導いた当時の先生の思い出、オペラのオーケストラで演奏する醍醐味、表情豊かな演奏の秘訣……などなど、本誌から溢れてしまった話題の数々をここで紹介しよう。
(インタビュアー:清水理恵 取材協力:ドルチェ楽器 管楽器アヴェニュー東京)

 

パオロ・タバリオーネと清水理恵

インタビュアーでフルーティストの清水理恵さんと

―フルートを始めたばかりの頃、とにかく早く帰りたい一心で集中してレッスンを受けていた……というお話でしたが、そんなあなたをいつのまにか“フルート大好き”にさせた先生は、どんなレッスンをしていたのですか?

パオロ・タバリオーネ(以下P)  私が吹きたいと思っていたポピュラーソングなども、分け隔てなく教えてくれました。そしてクリスマスには、ランパルやゴールウェイなどの名曲のレコーディングを集めて、プレゼントしてくれたのです。冬休みが明けてレッスンが再開したので、聴いた名曲を先生にやってみたいと言ったら「まだ、君には難しいよ」となだめられたのですが、難しくてもとにかくやりたくて、レッスンで見てもらえるようになりました。

―12、3歳で、サッカーよりも迷わずフルートを選んだというのも、そんな先生との出会いが大きかったのでしょうね。
ところで、オペラのオーケストラで演奏するというのは、どんな感じなのでしょうか? 楽しさや醍醐味は?

P オペラのオーケストラでは、パートを持ち回りします。そこが交響楽団とは違うところですね。交響楽団では一度パートを決めたらコンサートごとにパートが変わることはあまりありませんよね。だから、メンバーのうち会わない人もいる。しかし、私たちは午前中にリハーサルをして晩にオペラを演奏するというようなことを、基本的に毎日やっているので、毎日みんなと顔を合わせます。また、オペラの本番では何が起こるか予想できないので、いつも和気あいあいとした雰囲気を保ち、気持ちをひとつにして演奏するということがとても大切なのです。

―来日されて2015年7月に行なったミニコンサートでは、pppをとても美しく演奏されていたのが印象に残っています。

P 若い人たちは、大きくて強い音を無理にでも出そうとして、小さい音は出したがりません。でも、実はpppがものすごく表情豊かな表現になるのです。小さい音では、音の緊張感が失われがちなので、fで吹いているような緊張感を保てれば、小さい音も魅力的になるはずです。 リサイタルでは、余裕を持って音楽的に自由に演奏できるよう、周到に準備します。そのため、本番ではインスピレーションで、自由自在に音楽を表現できるのかもしれません。タファネルの『「魔弾の射手」によるファンタジー』などもそうですが、「難しい」というイメージが先にたってしまうといけません。これは、とても美しい作品なのです。速いパッセージも、美しいアリアの変奏なのです。「美しい音楽」だということを決して忘れないでください。

―ところで、日本の食事をいろいろ楽しまれたそうですね。“食”に関して、普段気をつけていることはありますか?

P 日本食は大好きです。鮨、ラーメン、焼き鳥、酒などいろいろなものを食べたり飲んだりしました。日本食はとても健康的ですしね。イタリアでの食事は少し油っぽいので、そこは気をつけています。

 

パオロ・タバリオーネ

Paolo Taballione|パオロ・タバリオーネ
J.C.ジェラール、W.シュルツ、J.ズーンに師事。M.ラリュー、M.マラスコ各氏のマスタークラスに参加。サンタ・チェチーリア国立音楽院、ジュネーブ国立音楽院を満場一致の一等賞で卒業。V.ブッキ国際音楽コンクール、D. チマローザ国際コンクールをはじめ数々のコンクールで優勝。ソリストとしてミラノスカラ劇場、ローマオペラ劇場等ヨーロッパ主要劇場で活動するほか、様々な室内楽やフェスティバルに招聘される。2004年よりリッカルドムーティが設立した。ユースオーケストラ「ルイージ・ケルビーニ・ジョヴァニーレ管弦楽団」首席、その後フィレンツェ五月音楽祭管弦楽団首席を歴任し、2008年よりバイエルン州立歌劇場管弦楽団首席フルート奏者。


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