THE FLUTE vol.168

【第3回】新・国産フルート物語 ニッカンからヤマハへ ─製作現場の試行錯誤

本誌THE FLUTE vol.166より連載がはじまった「新・国産フルート物語」。THE FLUTE CLUB会員限定でオンラインでもご紹介します。

書籍「国産フルート物語」
アルソ出版社内にたった1冊だけ残る、貴重な1冊

1998年に、アルソ出版より刊行された書籍『国産フルート物語』。日本のフルートメーカーを丹念に取材し、トップメーカーから個人経営の工房まで、その黎明期から現代に至るまでの歴史と道のりをつぶさに書き連ねた貴重な記録だ。
しかし現在はすでに絶版となっており、社内にある在庫もたった1冊のみ。大変貴重な資料となっているが、20年の時を経ているだけに、このままでは風化し埋もれた存在になってしまうという危機感もある。世界中にその品質が認められるようになった現在の日本産フルート─ここまでそれらを先導してきた技術者たちと、メーカーや工房のあけぼのを知る人々も高齢化し、またすでに亡くなった人もいる。
そんな状況を迎えている今、あらためて日本のフルートとそれを創り支えてきた人々の足跡を記すべく、「新・国産フルート物語」としてあらためて記録を残しておきたい。さまざまな国内メーカーが創業50年の節目を迎えるこの時期に、“日本で唯一のフルート専門誌”であるTHE FLUTEの使命の一つと考え、新たなフルート物語を紡いでいく。
前回、ヤマハの前身であるニッカン時代から製作に携わった技術者・山口光雄氏による、1970年前後のフルート開発についての手記を紹介した。今回は手記の続きを掲載する。当時、実際に製作現場でどんなことが行なわれていたのかを振り返ってみたい。

第3回:ニッカンからヤマハへ —製作現場の試行錯誤

—ヤマハフルートの開発担当者 山口光雄氏の手記より—

新たな試みがもたらした失敗 

山口光雄管楽器の開発に携わって間もない頃の山口光雄氏

〈Eメカニズムについて〉
フルートの運指は、第一オクターブ、第二オクターブ、第三オクターブ、ともにだいたい同じですが、第三オクターブは音が出しにくいので、その音から4度離れた音の音孔を開けてやる、するとその音の倍音が、出そうとする音の周波数とほとんど同じになる、というのを利用して音を出しやすくする運指になっています。ところが、Eの音だけは、そのようにすると、Eの音までの管の途中の音孔が二つ開いてしまうので、本来のEの気柱振動が阻害されて、音が出にくくなるという問題が起こります。この開いてしまう音孔の一つを塞いで、他の音と同様に途中で開いている音孔を一つにして、同じように演奏できるようにする。というのがEメカニズムです。
音響機能上は元来必要な機能ですが、フランス系の楽器では、音質の好みからも、シンプルにし軽量化するという狙いもあってこの機構が付いていません。ここは奏者の技量でカバーするものとして割り切ったのでしょう。

この機構は、ヨーロッパで以前からあったものですが、日本ではこのような楽器を使っている演奏家はいらっしゃらなかったと思います。
慣れればできることという反対意見も強かったのですが、普通に演奏される音域の範囲ではどの音も同じように出せるのが望ましい、という考えに立って、この機構を標準装備することに決めました。当初、市場の受け入れを危惧する声も強かったので、最初のモデルはバネ板を使って、取り外しも容易な簡易的な設計にして実施しました。

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