サックス記事 須川展也&田中靖人 サクソフォンデュオ・コンサート ~ピアニスト、小柳美奈子と共に~
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須川展也&田中靖人 サクソフォンデュオ・コンサート ~ピアニスト、小柳美奈子と共に~

亡き盟友の愛奏曲をテナーで! アルトの定番曲をバリトンで!!

田中さんが珍しくテナーサクソフォンを披露されますね!
須川
トランペットのティーネ・ティング・ヘルセットさんとの共演曲『エターナル・ストーリー』でテナーを吹いた記録がYouTubeにも残っていますけど、ヤックンのテナーは、なかなかレアですよ。素晴らしい音色で、この機会にそれをみなさんに堪能してもらいたいですね。
田中
実は吹奏楽部で最初に吹いたのはテナーだったんですが、プロになってからは意外に吹く機会がなくて……。この楽曲は、トルヴェールのコンサートではソロ・コーナーというのがあって、そこで新井くん(故・新井靖志氏)がよく吹いていた曲なんです。すごく素朴で美しい曲で……吹いているといつも、すぐとなりに新井くんがいてくれるような気持ちになるんです。当日はきっと、そばにいてくれると信じています。
そうですね! そしておなじみのクレストンをバリトンで!?
須川
もちろん原曲はアルト。これをバリトンで演奏するのは珍しい。
田中
誰もが知っている名曲で、サクソフォンの美味しいところが山盛り。リズミカルな要素や、ポップな甘さも盛り込まれている。それを1オクターブ低いバリトンで吹くとなると、また違った雰囲気になるのが面白い、と思って組み込みました。以前、佼成ウインドのバリトンサクソフォンのオーディションで、この曲を選んだこともありました。
須川
栃尾(克樹)くんが入団したときの課題でしたね。
この曲をオーディションに用いるというのはよくあることなんですか?
田中
とんでもない(笑)。あ、バリトンのオーディションに使用するのが、です。アルトのオーディションではもちろん定番曲で、プロのサクソフォン奏者に求められる様々な要素がバランスよく盛り込まれている曲です。それをバリトンでどう表現するかを聴きたかったんですね。
須川
佼成ウインドでバリトンを吹くのは大変な仕事ですからね。チューバやユーフォニアムなどが醸し出す豊かな低音に、くっきりしたエッジをつくる大事な楽器なんです。コントラバスの最初の弓の引っかけのような、低音の輪郭をつくる楽器です。ましてやサクソフォン四重奏ではスター! もう、バリトンで決まるようなものなんです。ヤックンのバリトンはもう35年近く、我々を支えてきてくれました。我々は幸いなことにこの凄い音をごく当たり前のようにずっと聴いてきたわけですが、それを今回はソロで楽しんでもらおう、ということなんです。
田中
実は、この曲をバリトンで吹くことはかなりなチャレンジなんです。息がなかなか続かないんです。そういう楽器の事情があるんですが、それを含めて自分でもとても楽しみにしているんです。これから練習がんばります!
「THE SAX」最新4月号では、この曲の伴奏音源が定期購読会員の付録にあるから(https://www.alsoj.net/sax/magazine/view/1106/4418.html)、読者の方でバリトンサクソフォンをお持ちの方なら誰でも挑戦できますね。
田中
それはすごい。ぼくもぜひ演奏してみたいですね!

コンサートでは笑ったりドキドキしたりする要素が大事

このデュオコンサート最大の見せ場が、お二人でバリトンを吹くシーンですね。
須川
後半の冒頭。ここは笑いを取るところです(笑)。
田中
二人でバリトンを持って登場した瞬間に、笑いが起きてほしいですね(笑)。
須川
やっぱりコンサートではこういう場面もないとね。トルヴェールで学んだのはそういうことです。もちろん練習や本番はミスしないよう一所懸命やるんですが、それでもミスは発生する。ところがそれが「面白い!」と思える瞬間があるんです。もちろん、わざとミスるわけじゃないですよ。一所懸命やったあげく生まれたハプニングを、それでもニッコリ笑って表現の一つに取り込む……ぼくはトルヴェールでそういうことを学びました。そして、ひとつのコンサートの中ではそういう、笑ったりドキドキしたりする要素が、とても大事だ、ということも。もちろんそればっかりじゃダメですけど(笑)。後半のオープニングで、バリトンを持った二人が出てきたときに、ほっこりした雰囲気が生まれるといいなと(笑)。
お二人とも新製品のバリトンですか?
須川
ぼくは自分で「展覧会」の『ビドロ(牛車)』をやったとき(ひとりで「展覧会の絵」全曲を吹いたアルバム「エキシビジョン・オブ・サクソフォン」に収録)の古いバリトンですが、ヤックンは先述の新しいバリトンで演奏します。新旧聴き比べ……とか、そういう意味じゃなく、堅くならずにほっこりしてもらいたいなあと。純粋に楽しんでもらいたいですね。
田中
2時間というコンサートを笑いなしでやるというのはどうなんだろう、とかなり前から考えるようになりました。

今回のコンサートのために委嘱された新作2曲を世界初演!

映画「道」から、ジェルソミーナのテーマとして知られる有名な旋律……これは田中さんがアルトで。
須川
この曲は仲間でもあるTrio YaS-375のみんなが得意な曲でもありますが、ここでヤックンにアルトを吹いてもらおうと。
愚問かもしれませんが、持ち替えはさほど苦労は感じないものなんでしょうか?
田中
以前は神経を使ったんですが、ソプラノからバリトンまで使うソロの曲をやっていたときに学んだんですが、あまり気にしないことにしようと思って。そしたら普通に持ち替えられるようになりました。慣れてくると楽器を構えた感じで、自然にアンブシュアが変わってくるようになるんですよね。
さて、これまでのお話では意図的に後回しにしちゃったんですが、須川さんは薮田さんの新曲『Delos』を世界初演されますね。
須川
今回のために委嘱した作品で、タイトルはギリシア語で「輝く」とか「明るい」という意味。無事完成して、小柳美奈子と既にリハーサルを重ねています。中間部に現代音楽的な箇所もあるけれど、美しくて強い、魅力的な楽曲です。
田中さんも既にお聴きになったんですか?
田中
いえ、まだ聴いていないですね。ぼくたちトルヴェールには信義則みたいなものがあって、仲間がソロで新作を披露するときは本番まで聴いちゃいけない……みたいなことを、別に誰が決めたわけじゃないけど、みんなごく自然に守っているんです(笑)。
須川
実はヤックンのバリトンによるクレストンも、たぶん本番まで聴かないと思う。すごく楽しみです。
長生さんの新作委嘱作品は?
須川
いま絶賛作曲中ですね(笑)。トルヴェール的には“行列の出来る作曲家”ということで有名でして(笑)。『カルメン・ラプソディ』「トルヴェールの《惑星》」などで四重奏、『天頂の恋』でソプラノとテナーとピアノの表現力の可能性をつきつめてもらった感がありますが、今回は満を持してアルトとバリトンとピアノということになりました。『カルメン・ラプソディ』の頃は録音直前に完成して、あの頃はそれでもなんとか勢いで演奏できたけど、いまはそれ無理だから(笑)。だいたい譜面が見えづらくなってきているし……あ、いきなり老眼鏡かけたら、笑いを取れるかも。
それにしちゃ髪も黒々として……二人ともぜんぜん老けないですね。
田中
フケるのはサックスくらいで。
須川
お後がよろしいようで(笑)。
 
登場するアーティスト
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須川展也
Nobuya Sugawa

日本が世界に誇るサクソフォン奏者。そのハイレベルな演奏と、自身が開拓してきた唯一無二のレパートリーが国際的に熱狂的な支持を集めている。デビュー以来、長年にわたり同時代の名だたる作曲家への作品委嘱を続けており、その多くが国際的に広まっている。近年では坂本龍一『Fantasia』、チック・コリア『Florida to Tokyo』、ファジル・サイ『組曲』『サクソフォン協奏曲』等。東京藝術大学卒業。第51回日本音楽コンクール、第1回日本管打楽器コンクール最高位受賞。出光音楽賞、村松賞を受賞。98年JTのTVCM、02年NHK連続テレビ小説「さくら」のテーマ演奏をはじめ、TV、ラジオへの出演も多い。89年から2010年まで東京佼成ウインドオーケストラのコンサートマスターを務めた。最新CDは16年発売の「マスターピーシーズ」(チック・コリア/ファジル・サイ/吉松隆)。トルヴェール・クヮルテットのメンバー、ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督。東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。

登場するアーティスト
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田中靖人
Yasuto Tanaka

1964年和歌山市に生まれる。 国立音楽大学在学中、第1回日本管打楽器コンクール第2位、第4回日本管打楽器コンクール第1位を受賞。 1990年東京文化会館でデビューリサイタルを開催。以来、国内外でリサイタルなど幅広い活動を行なっている。東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、札幌交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団など、ソリストとしてオーケストラとの共演も多数。 2000年より(一財)地域創造主催の「公共ホール活性化事業」のアーティストとして、リサイタル、アウトリーチ コンサートも意欲的に行なっている。2003年和歌山県より「きのくに芸術新人賞」を受賞。 ソロ・アルバムに、1991年「管楽器ソロ曲集・サクソフォーン」(日本コロムビア)、1995年「ラプソディ」(EMI music japan)、1997年「サクソフォビア」(EMI music japan)、2003年「ガーシュイン カクテル」(佼成出版社)、2012年「モリコーネ パラダイス」(EMI music japan)をリリース。 また、サクソフォーン四重奏団 トルヴェール・クヮルテットのメンバーとして活躍し、これまでに10枚を超えるアルバムをリリース。2001年文化庁芸術祭レコード部門“大賞”を受賞。 現在、東京佼成ウインドオーケストラコンサートマスター、国立音楽大学、愛知県立芸術大学、昭和音楽大学、桐朋学園大学各講師、札幌大谷大学客員教授、名古屋音楽大学客員教授。

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