トランペット 記事
佛坂咲千生×原朋直

クラシックとジャズが交差する時

同じ楽器のプレイヤーであっても、交わる機会は稀で接点があまりないということが多いクラシックのトランペッターとジャズのトランペッター。そんななかで例外的にと呼べるほど長年親交を温め続けている二人がいる。それが、元NHK交響楽団の花形奏者である佛坂咲千生と、今や日本ジャズ界のリーダーとなった原朋直だ。ヤマハの楽器を長年愛用しているという共通点もある両人だが、それぞれがクラシックとジャズの垣根を超越した活動をしてきたというキャリアからも興味深い関係性が浮かび上がる。名手同士の友情対談が実現した。
インタビュー・文:埜田九三朗/写真:井村重人(アーニーズ・スタジオ)/ 取材協力:ヤマハ株式会社、株式会社ヤマハミュージックジャパン

30年来の付き合いのなかで教え合った時期も10年間

まず、最初にトランペットを吹き始めた頃のお話をお聞かせください。
佛坂
私は佐賀の田舎の商店街にある文房具屋の息子で、当時は今のように小学校からトランペットを吹くような環境はありませんでした。最初にこの楽器を見たのは街中でのパレードですね。コンクールが終わった団体はパレードで練り歩くというのが当時の風習だったのですが、そこではトランペットがキラキラと輝いていて、いいなあ!と思ったんです。中学になったら絶対やろうと思いましたが、プロになろうなんて全然考えていなかったですね。
僕は千葉県の沼南町(現在は柏市)出身で、小学校時代に入った鼓笛隊がきっかけです。一年生の時に聴いた上級生の演奏に衝撃を受け、以来マイ楽器を持つことだけを夢見て過ごしていましたが、いざ入団すると学校には既に楽器があってマイ楽器は要らなかったのです。でも親にせがんで無理やり買ってもらったのがヤマハのトランペットだったんです。嬉しくて家でテキトーに「太陽にほえろ!」のテーマなどの番組主題歌をいろいろと吹いていたら、水道工事のお兄さんが窓から覗いてきて「君ね、きっと将来いいトランぺッターになるよ」と言われたことがありました。11歳くらいのころでしたね。
すごい預言者でしたね(笑)。ところで、お二人は2008年に『H.H.blues』を共演されていますね。
『H.H.blues』、懐かしいですね! ジャズとクラシックがすれ違う、というあの撮影、面白かったです。あれから、もう10年以上経ってますね。あの企画は、僕と佛坂先生がお互いに勉強会をやっていたのがきっかけです。なぜ先生に教わろうと思ったかというと、20代のころに東京に出てきていざジャズシーンに飛び込んでいこうと思った矢先、いろんな人に目をかけていただいたなかで、「トランペットをきちんと勉強したほうがいい」ということで紹介されたのが佛坂先生でした。武蔵野音大の地下で一時間くらい教わったのが最初でした。それから数年が経ち再会、あらためて僕がクラシックを真剣に教えていただきたいとお願いし、代わりに佛坂先生にジャズを教える……みたいな、教え合いっこする関係が生まれたんです。10年くらいやってましたね。
佛坂
そうそう! 武蔵野音大でのこと、よく覚えてますよ。原さんとはアーバンとかクラークとかの基礎的なメソッドを一緒に吹いたんです。
10年以上も教え合いっこしていたというのは、相性がよかったんですね。
佛坂先生の心が広かっただけですよ。僕は子どもの頃から人のいうことを聞かないどころか、誰かになんか命令されると頭にきちゃうという、ほんとめんどくさい人間でしたが(笑)、佛坂先生は僕が黙っていうことを聞く数少ない一人です。音を聞いてまずこれがプロの音だ!とびっくりして、さらにお話してみて人間性の高さにまたびっくりしました。普通あれだけ高い音楽性を持っている人は「上から目線」なことが多いなと感じていたので、すごくナチュラルに接してくれて感激しました。
佛坂
原さんが確固たる信念を持っていることは知っていたけれど、そんなに人の言うことをきかない人だとは感じたことないなあ(笑)。僕のことをいろいろ褒めてくれたけど、僕もまったく同じことを原さんに感じています。お互いに尊敬しあっているからこそ、これまで教え合いっこできたんじゃないかな。僕はすごい年下のひとでも、すごいなと思ったらいろいろ聞いちゃうんです。この世界ってともかくうまい人が上じゃないですか。だから「うまいな!」「すごいな!」と感じて、その技を少しでも学びたいと思ったら頭を下げて教えてもらいます。学生にも聞きますよ、すごいと思ったら。そこには必ず上達するヒントがある。発見があるんですね、だから教えるふりして訊くんです。若い人には恐縮されちゃうんだけど、すごいなと思ったら正直にそういいます。

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・クラシックとジャズ、ここが違う!? ここが似ている!?
・ジャンルを跨ぐことで巻き起こる批判について
・いろんな音楽の体験で生まれるジャズでもクラシックでもない音楽

佛坂咲千生

佛坂咲千生

1956年生まれ。佐賀出身。中学生よりトランペットを始める、高校卒業後 武蔵野音楽大学に入学。大学4年時に東京佼成ウインドオーケストラに入団。1979年パリで行なわれたモーリス・アンドレ国際コンクール ブラスアンサンブル部門入選 。同年、日本フィルハーモニー交響楽団に移籍。1982年西ドイツ・ミュンヘン留学。バイエルン放送交響楽団首席奏者C.ゲッティング氏に師事、同オーケストラにエキストラとして出演。帰国後、日本フィルハーモニー交響楽団に復帰。1990年NHK交響楽団に移籍、2016年2月定年退職。現在、武蔵野音楽大学教授、洗足学園音楽大学客員教授、平成音楽大学客員教授。ザ・トランペットコンサート、J'z Craze(ジェイズ クレイズ)、 Cowardice Paradise(クワダイス パラダイス)など、多くのジャンルで活躍中。

 
原朋直

原朋直

1966年神奈川県生まれ。千葉県立鎌ケ谷高校を経て愛知県の日本福祉大学に入学。在学中は名古屋のジャズシーンで活躍、卒業後東京での活動開始。 1990年代、当時の若手を起用した「ジャズ維新」ブームで頭角を現し、 初リーダー作「Evidence for My Music」(1996)以来多数のリーダー・アルバムを発表。自身の音楽活動の他にも「サントリー1万人の第九コンサート」「ヤング・ピープルズ・コンサート」、『情熱大陸』(TBS系)『題名のない音楽会』(TV朝日系)への出演、映画『BROTHER』(北野武監督)『ふたたび』(塩屋俊監督)でのテーマ演奏など多方面かつ国内外で活躍。また、2018年にスタートした東京証券取引所を中心に展開する金融とジャズの融合イベント『Jazz EMP』では音楽監督を務める。2015年Gaumy Jam Records(ゴミ・ジャム・レコード)を設立。最新作は2020年リリースのレーベル4作目「Circle Round/Tomonao Hara Group」。洗足学園音楽大学教授 ジャズコース 代表。

 

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