Hidenao Aoyama

青山秀直

2013年よりリリースされ続けている青山秀直さんのCD「クラリネット・ファンタジーシリーズ」。2020年に8作目、そして2021年5月には9作目を完成させました。今回のアルバムでは、シリーズ初の弦楽アンサンブルと共演し、プロ奏者を目指すきっかけとなったモーツァルトとブラームスのクラリネット五重奏曲を収録しました。日本国内では数少ないエーラー式(ドイツ式)クラリネット奏者として第一線で活躍している青山さんに、このアルバムについて語っていただきます。

コロナ禍もフル稼動!

青山秀直

─長引くコロナ禍で思うような活動ができていないと思います。ご自宅にいる時間が増えたことで新たに始められたこと、力を入れたことなどはありますか?
青山秀直(以下、青山):実は2020年4月から同志社女子大学の音楽学科も指導することになり、レッスンが始まりました。そのため平日はこれまでの大阪音楽大学や大阪府立夕陽丘高等学校音楽科、兵庫県立西宮高等学校音楽科に加え、同志社女子大にも通うことになり、学校間を移動しながらフルにレッスンをしている状態です。コロナ禍にあったのですが、オンラインレッスン期間以外は家にいることもなく忙しくしていました。ありがたいことです。

─ 2020年春以降、青山さんが指導されている学校は、やはりオンラインでの授業に変わりましたか?
青山:大阪音大は対策が早めに取られ、2020年4月からオンライン授業を行なっていましたが、5月の終わりごろからは飛沫防止シートやパネルなどを用いたり、空間除菌などもしながら対面レッスンを再開しました。学校によってコロナ対策への取り組みも違っていて、同志社女子大は座学が多いことや、学生の安全なども考慮して半年間ほどオンライン授業が続きました。ようやく対面レッスンが再開したときの学生たちは、目の前で先生の音が聴けること、またコミュニケーションがスムーズに取れることを喜んでいました。
一方で高校は、学内で感染者が出ると2〜3日保健所の調査が入りますが、感染対策を万全にするとともに、いろいろと工夫しながら対面レッスンを維持しています。夕陽丘高等学校音楽科では管楽器と声楽はなるべく広い部屋に移らせてもらうなど配慮してもらいました。

─ さて、ザ・クラリネット73号(2021年3月10日発売)のインタビューでは、すでに今回のアルバムのレコーディングが終わっていたとお聞きしました。レコーディングはいつ、どちらで行なわれましたか?
青山:2020年9月29日と30日の2日間で、場所は兵庫県立芸術文化センターの神戸女学院 小ホールです。この9作目は2021年5月1日に発売しました。

─ 今回録音されたのはモーツァルトとブラームスの『クラリネット五重奏曲』ですね。
青山:モーツァルトの五重奏曲は名手アントン・シュタードラーのために書かれたものです。今回、私はA管で演奏したのですが、実際はもう少し低い音が出るバセットクラリネットのために書かれています。当時ウィーンで活躍している名手に出会って書いたということと、その名手を連れて一緒に演奏会をまわるというメリットがあったと聞いています。曲自体は無駄が削ぎ落とされた、エッセンスだけが残ったような曲です。モーツァルトの曲では『クラリネット協奏曲』より、この五重奏曲のほうが好きだと言う人が多いかもしれませんね。演奏しているだけで幸せになれるような曲です。この曲はクラリネットがはっきりメロディを取っていたりします。
ブラームスの曲は弦楽器のほうが響きも音量も分厚くなっていて弦楽四重奏の中にクラリネットが入っているイメージです。クラリネットは一つの要素という感じになることが多いです。もちろん二楽章などは美しいメロディのソロもありますけどね。あと、音楽自体の熱量もこちらのほうがあります。

─ 青山さんにとって、この2つの作品は思い出のある曲でしょうか?
青山:そうです。僕がプロになりたいと思ったきっかけになった2曲です。この2曲と、モーツァルトの『クラリネット協奏曲』をライスターが演奏していました。実はこの2曲をレコーディングするなら、もう少し年齢を重ねた60代になってからと考えていたのですが、コロナ禍でいつも共演しているピアニストが日本に帰国できなかったことに加えて、弦楽カルテットとの出会いなどがあって今回レコーディングしました。このタイミングで録って良かったと思っています。

─ レコーディング前に取り組んだことはありますか?
青山:この録音をするにあたって、ライスターがウィーン弦楽四重奏団と演奏した録音を聴いてみたんです。それはブラームスとウェーバーのクラリネット五重奏曲のカップリングだったのですが、特にブラームスを聴いて驚いたのは、僕が高校生の時に初めて聴いて涙した、ライスターとアマデウスカルテットの演奏とはまるで違うんです。僕はずっとライスターに憧れてクラリネット奏者になったと思っていましたが、アマデウスカルテットとクラリネットが溶け合っていて特にいい曲と感じたのだと思います。音楽的にはアマデウスカルテットがリードしていて、ライスターのクラリネットが包まれるような感じです。もちろん僕はクラリネットの音色にはとても感激したのですが、アマデウスカルテットの音楽が僕の心を刺激したのだと思います。僕はアマデウスカルテットの演奏に影響を受けたのだと今になって改めて気づきました。一方、ウィーン弦楽四重奏団のほうはライスターの演奏が前面に出ているのが特徴ですね。

─ この「クラリネット・ファンタジー」シリーズで弦楽アンサンブルと共演するのは初めてですか?
青山:弦楽のみのアンサンブルとは初めてですが、3作目にクラリネットとヴァイオリンとピアノという編成でレコーディングしています。この時は、ミュンヘン・フィルの第1ヴァイオリン奏者だった清岡正子さんにお願いしました。実は清岡さんはクラリネット奏者の四戸世紀さんの奥様で、僕がドイツに留学していた時からお世話になっていた方です。

─ レコーディング時のエピソードなどあれば教えてください。
青山:一緒に演奏したYEAH Quartet(ヤー・カルテット)のメンバーと僕は年齢が親子ほど離れていて(笑)、大学を卒業したばかりの子たちです。僕の弟の青山映道(クラリネット奏者)がこのアルバムのディレクションをしているのですが、リハーサルの時、「君たち、昨日も一緒に練習したんだよね。見ていると数年ぶりに会った人との会話を聞いているようだよ(笑)。よくそんなに話すことがあるね」というくらい、とにかく仲が良くて、よくしゃべるし、よく笑っているという印象でした。アンサンブルは上手というだけでは長く続きませんので、とてもいい雰囲気のカルテットでした。リハーサルの時の僕は、あまり細かいことを言い過ぎないようにしていて、僕に慣れてもらいながら一緒に音を出すようにしていました。

 

レコーディング風景

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CD Information
Hidenao Aoyama Clarinet Fatasy vol.9

clarinet fantasy vol.9

[発売元]ムジークリーベ【MLCD-2101】
[収録曲]W.A.モーツァルト:クラリネット五重奏曲 イ長調KV581〈Allegro、Larghetto、Menuetto、Allegretto conVariazioni-Adagio-Allegro〉、J.ブラームス:クラリネット五重奏曲 ロ短調 作品115〈Allegro、Adagio、Andantino-Presto non assai ma con sentimento、Con moto〉
[演奏]青山秀直(Cl)、YEAH Quartet〈栗林衣李(Vn)、萩原安里紗(Vn)、桂田光理(Va)、梶原葉子(Vc)〉
[問合せ]https://www.aoyamahidenao.com/

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