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ローマン・ギュイヨ

The clarinet 53号 Close Up ローマン・ギュイヨ

2001年にパリ・オペラ座管弦楽団を退団したローマン・ギュイヨさんは、その後マーラー室内管弦楽団を経て、ヨーロッパ室内管弦楽団でも首席奏者として活躍した。このヨーロッパ室内管弦楽団は日本では認知度は高くはないが、1981年にクラウディオ・アバドが創立した、とてもレベルの高いオーケストラであることは本誌でもお伝えした。
「私は2006年に演奏者として指名されました。通常のオーケストラと違って、サラリーではなく演奏会ごとのギャラが発生します。自主運営の要素が大きく、拘束日数も少なくてすむので、リハーサルを含めて私は年間60日〜70日ほど、このオーケストラの活動に当てていました。指揮者を自分たちで選んでいましたから、理想的な活動ができる場所でしたね」
日本でもその録音の多くは手に入れることができる。その録音のラインナップをみてもらうとわかるが、ベートーヴェン、ハイドン、モーツァルト、シューベルト、ブラームス、シベリウスなどオーケストラの定番曲はもとより、ルイジ・ノーノ、カールハインツ・シュトックハウゼンなどの現代音楽までレパートリーとしている。さらに指揮者は前述のクラウディオ・アバドのほか、ジェームズ・ジャッド、ニコラウス・アーノンクール、ゲオルグ・ショルティ、マウリツィオ・ポリーニなど、巨匠たちがずらりと並ぶ。オーケストラを知り尽くしたオケマンたちが、オーケストラを知り尽くした指揮者・ソリストと作り上げるオーケストラ。一流にならないはずがないのだ。
「今はヨーロッパ室内管弦楽団と似たような運営・スタイルのオーケストラがいくつか出てきました。すばらしい奏者を集めて演奏旅行をする……、そんなオーケストラがね」

ローマン・ギュイヨ

これらのオーケストラを退団した後、現在はジュネーブ高等音楽院で教鞭をとるギュイヨさんは、若い人はもっと音楽を聴いてほしいと何度も繰り返して言う。
「若い人は、音楽ではなく“楽器”を練習する人が多いと思います。商業音楽を聴きすぎているからでしょうか、“楽器”と“音楽”がリンクしていないと思います。すべての音楽は一生かかっても全部は聴けません、人生は短いのですからね。
私のところには世界のいろんな国から若い人たちが勉強しにやってきます。でもベートーヴェンやシューベルト、ハイドン、モーツァルト……の代表曲すら知らない人が多いのです。
モーツァルトのような昔の作曲家は、いろんな国に行って音楽を勉強しました。今のようにユーロで統一されるよりもはるか昔から音楽は統一されていたのです。シューマンぐらいからドイツ音楽というスタイルがはじまり、国によってスタイルの違いが確立しました。フランス的なスタイルが確立したのは、ドビュッシー以降です。ヴィドールがその典型ですが、とてもフランス的な作品を書きます。ヴィドールのような作品を書く作曲家はドイツにもロシアにもイタリアにもいません」

本誌で述べたように、イタリア・オペラを知ることなく、ウェーバーの『小協奏曲』を演奏できるとは思えないとギュイヨさんは続ける。
「ハイドンはオペラを書いていませんし、ベートーヴェンは1曲のみ書いています。その点でもモーツァルトは他の作曲家と区別ができます。そのモーツァルトに近づこうとして、作曲家たちはモーツァルトのコピーをしたのです。かのブラームスだってそうなのです。

 

ローマン・ギュイヨ

 

ここでウェーバーの話に戻りましょう。モーツァルトの『クラリネット協奏曲』が1790年、ウェーバーの『小協奏曲』は1810年に書かれています。ここには20年の歳月があります。我々にとっての20年は長く感じますが、音楽の歴史の中ではそれほど離れた時代でないのです。だからウェーバーもイタリア・オペラの影響を受けているのは間違いありません」
オペラといえば歌が欠かせない。クラリネットは人間の声に近い楽器だから、作曲家は歌手の役割を当てはめることが多い。だからクラリネットの勉強に歌を模倣することは欠かせないという。
「とてもやわらかい、ミステリアスな雰囲気を出すことができるのがクラリネットです。ロマンティックな表現、ピアニシモでの表現、暗さ、深さ──様々な音色を出せる唯一の楽器です。ベルリオーズはロマン派の中で初めて登場するフランスの作曲家です。彼の『幻想交響曲』でのクラリネットは、完璧で最大の表現力を出す書き方をしています。彼はクラリネットのことをよく知っていたのでしょう」
作品を表現するために30種類以上もの理想の音色を持っているというギュイヨさん。音色はコントロールされたものであるべきだと考え、バラエティに富んだ音色を持つことを意識しているという。
これからどんな音色、表現を聴かせてくれるのか、次の来日が待ち遠しい。

ローマン・ギュイヨ│ Romain Guyot 
フランス国立パリ高等音楽院をクラリネット、室内楽ともに1等賞を得て卒業。22歳の若さでパリ・オペラ座管弦楽団の首席奏者となり、2001年までの10年間務めた。2003年から2006年までマーラー室内管弦楽団、2008年からはヨーロッパ室内管弦楽団において首席奏者を務めている。ソリストとしては、ヨーロッパをはじめ日本、韓国、南米や北米など世界各国でリサイタルを行なうほか、オーケストラとも数多く共演。室内楽にも熱心に取り組んでおり、ロジェ・ムラロ、児玉桃、イザベル・ファウスト、イリア・グリンゴルツ、レジス・パスキエ、チョン・ミュンフンなどの優れた演奏家たちと共演している。2009年よりジュネーヴ高等音楽院教授を務めるほか、世界中でマスタークラスも行っている。CDも数多くリリース。スポーツと山を愛し、2004年にはモンブラン(4810メートル)に登り、その頂上で演奏を行なった。
[使用楽器:Buffet Crampon “Tosca” Green Line]








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