木村奈保子の音のまにまに | 第1号 

平昌オリンピックと音楽

2018年の平昌、冬季オリンピックは、大いに盛り上がりを見せて閉会した。政治的利用や危うい思惑なども伝えられたが、結局選手たちの輝かしい成績や清々しい力が、すべてを一掃したようだ。選手たちのいちずなエネルギーと観客の熱狂的な想いが一体となって、美しい時を刻んでいく。素晴らしい時間を共有できた。

スポーツも、音楽と同じようにエネルギッシュなエンタテイメント。ただスポーツは、競技であり、点数が付き、勝負が明確になる。

そこが、誰にもわかりやすい。「金」を取ると、報奨金もさまざまに発生するが、日本はまだまだ少ないほうではないかと私も思う。大して援助もしていないのに、メダル受賞者たちの人気にあやかろうとする政治家たちのはしゃぎぶりには首を傾げたくもなる。そこまで喜ぶなら、国の援助がもっとあってもいいはずだろう。ハードには多大な予算が発生し、ソフトにはまだまだ、と思うのはスポーツにも音楽に対しても、そうだと常々感じるところだ。

さて、オリンピックで音楽に関わるのは、なんといってもフィギュア・スケート。いまだにルールを詳しく把握していない私の場合は、選手の動きと音楽がマッチしているのかどうか、が最も気になるところ。回転がなくても、ミスがあっても、選んだ曲と選手の体のリズムがマッチしてダンサブルかどうかを自分勝手に評価している。

その点でも、天才、羽生結弦氏は、自分の表現できる’サウンド’まで完璧に把握している。きっと自分勝手な趣味で、ラテンを選んだり、マイケル・ジャクソンを選んだりは今後もしないのだろう。ナルシスティックな性質にも見えるが、以外と表現力の客観性も備えている。「表現力」が問われる音楽的なスポーツの代表だ。

日本人男性の繊細さと海外の女性、タイガー・ザギトワのワイルドな美女ぶりが対比的で、まさに時代の流れを感じさせる。

こんなエンタテイメントな競技を盛り上げるための開会式や閉会式のプログラムはいつも、興味深い。韓国の伝統的なリズム、サムルノリをベースにしたミュージカル「NANTA」の演出家と、映画「焼肉ドラゴン」の監督がコンビで、伝統、文化を実に洗練した表現で見せた。また閉会式では、選手たち以外のアーチストによるショーが延々と展開したが、とりわけ伝統アーチストらの出し物は、衣装も含めて、もっと見たいと思わせるものばかり。合間に、ポップシンガーのグループやらDJやら、盛りこみすぎの感もあったが、そのあたりは、音楽業界の事情もあったのだろうか?

中国オリンピックによるチェン・カイコー監督による圧倒的な芸術志向に比べると、プロジェクトマッピング含め、韓国は現代若者指向の感覚が強い。ただ、盛り込み過ぎで、最後の方は、選手も疲れているというのに、まだ呼び込んで踊らせようというシーンが気になった。本来楽しそうな内容だが、たぶん構成上のタイムオーバーではないのか。もちろんその要因は、真ん中に挟まれたスピーチだ。式典だから、最も重要なポイントかもしれないが、疲れさせる。

せっかくのエンタテイメントの流れを完璧に遮るのは、実行委員などの権力者で、裏方の方々のスピーチ。もちろん、おかげさまの気持ちで裏方を讃える気持ちは大切だが、残念ながら、「話が長い。面白くない。リズムがない。」というのは世界の共通言語らしい。

スポーツ選手ともアーチストとも存在が異なるため、大きく流れを遮ってしまうのは確かだ。これは、オリンピックに限らず、すべてのステージにおいてありがちで、誰も言えないのが現実だろう。

だいたい、しゃべりのプロであっても、自分のリズムに気づかないことも多い。例えば、クラシック演奏会のMCで、アナウンサーもタイプによっては、音楽の邪魔になる。静かに段取りと案内だけでよいのに、腹式呼吸で大声を張り上げる、自己アピールや知識を吹聴するなど、音楽家がだまっているのをいいことに、ウケ狙いまでする。(ちょっと、他人事ではない気がしてきたが……)

そういえば私も、あろうことか、指揮者と手を繋いで、花束をもらったり、お辞儀をしたりするカーテンコールに参加したこともあったが、こういうのも解説出演したものとしては、実に恥ずかしい。自分は指揮も演奏もしていないのに、音楽家と達成感を共有するに値しないと思うからだ。

確かに、しゃべりというのも、芸の一つだ。ただプロでも、場をわきまえるのは難しい。もっとも、場をわきまえた’しゃべりて’とは誰か?それはいま、漫才師、芸人さんに多いと思う。昨今は、インテリの芸人さんも多い。

クラシック演奏会に、クラシックネタの漫才をはさむのはどうか。クラシック演奏会にはMCではなく演出家を入れて、ショー構成にする。なにより、説明の要らない演奏会にする。そうだ、今年は映画音楽演奏会用に、シネマネタの漫才原稿をちょっと書いてみよう。

 


N A H O K  Information

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第1回:平昌オリンピックと音楽
第2回:MeTooの土壌、日本では?
第3回:エリック・クラプトン~サウンドとからむ生きざまの物語~
第4回:津軽のカマリ、名匠高橋竹山の物語
第5回:ヒロイックな女たち
第6回:アカデミー賞2019年は、マイノリティーの人権運動と音楽パワー


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