「何となく吹く」から脱出するために
ここからは、アンサンブル・リュネットなどで活躍している坂本 楽さんにアーティキュレーションを意識する考え方を提案してもらいましょう。
「先生は楽しそうに演奏している生徒を見つめた」
この文章を読んで、どういうシーンを想像したでしょうか? 生徒は必死で演奏しているのか、笑顔で演奏しているのか。
先生は真剣な眼差しで生徒を見つめているのか、ニコニコ見守っているのか。
ではこうするとどうでしょう。
「先生は、楽しそうに演奏している生徒を見つめた」
ウキウキと演奏する生徒の姿が浮かんでくるかと思います。
一方で、
「先生は楽しそうに、演奏している生徒を見つめた」
とすると、優しく生徒を見守る先生の姿が浮かんできますね。
こんなふうに、日本語の文章では読点(、)を打つ位置によって意味が変わるケースが多々あります。
音楽も、フレーズをどこで区切るのかによって伝わり方が変わってしまいます。
そう、今回はアーティキュレーションについてお話していきたいと思います。
アーティキュレーションを意識すれば、演奏がもっと立体的に
アーティキュレーション(articulation)の語源は、ラテン語の動詞articulāreに遡ります。
◉関節で区切る
◉部分に分ける
◉はっきり区別して発音する
といった意味をもち、まさに日本語の読点と似た働きをするといえます。 アーティキュレーションが不明瞭な演奏は、何が言いたいのかわからない日本語と同じです。
正しい音符を演奏していても、アーティキュレーションに血が通っていなければ、それは意味不明な単語の羅列にしか聞こえないのです。
また、要素をつなぎ合わせることをフレージングといいます。
楽譜通りってどんな演奏?
そもそも「楽譜通り」とはどういう演奏を指すのでしょうか?
ここで強調したいのは、譜面に書かれた音を間違えずに演奏すれば、それで「楽譜通り」になるとは限らないということです。
音符はすべて正しくても、アーティキュレーションやフレージング、ダイナミクスが疎かになってしまっている生徒さんなら、それは「楽譜通り」とはいえません。
同じ言葉でも、言い方が違えば意味が変わってきます。
元気な「ありがとう!」
気軽な「ありがとう~」
心のこもった「……ありがとう」
言い方で意味が変わってしまう一方で、言葉が「あざっす」でも意味は変わりません。つまり正しい音符で演奏するよりも、正しいニュアンスで演奏するほうが、「楽譜通り」に近い場合もあるのです。
もちろんコンクールなどでは一言一句正確に演奏することが求められますし、そういう練習は大切です。しかし音符の正しさに追われるがゆえに、本来表現されるべきニュアンスが二の次になってしまわないように気をつけたほうがよいでしょう。
坂本 楽
Raku Sakamoto
大阪府吹田市出身。京都大学文学部にて「伝統を現代に息づかせる」音楽観を培い、Live Spot RAGでのアルバイトを通して多様な音楽文化に触れる。2020年より、福永吉宏氏に師事。現在は関東を拠点とし、クラシックとポピュラーを自在に往還する独自のスタイルで活動する。原田知世ライブツアーに参加。第14回びわ湖国際フルートコンクール・アドヴァンス部門第1位など。多次元ロック・融解建築、アンサンブル・リュネット、京都・バッハ・ゾリステンなどのメンバー。












