

今も音楽を追い続ける─現代のレジェンド・フルーティスト
昨年80歳を迎えたアンドラーシュ・アドリアン氏。昨年秋に来日したときは、80歳には思えぬほど凛とした姿勢で接してくれた。その夜に開催されたユ・ユアン氏とのデュオコンサートでは訪れた聴衆に感動をくれたのも記憶に新しい。
フランスで発刊されているフルート専門誌Traversières Magazineでは、2号にわたりアドリアン氏の特集を組んだ。そこで、本誌はTraversières Magazineに掲載されたアドリアン氏のインタビューを抜粋してお届けする。全文はTHE FLUTE ONLINEで、ほかのアドリアン氏の記事とともに連載で順次公開する予定だ。
表紙・扉写真:橋本タカキ 翻訳:齊藤佐智江 取材協力:Traversières Magazine/La Traversière
フルートの精髄
J.P.ランパル協会会長:Denis Verroust
それはずっと前から誰もが知っていることだった。アンドラーシュ・アドリアンは近代の偉大なフルーティストたちのなかで、特別な地位を占めていた。彼特有のソノリテ、洗練されたフレージングで奏される独特の美しい演奏が彼ならではの長所であるならば、彼の芸術からは、J.P.ランパルとA.ニコレからそれぞれ吸収した、フランスとドイツの個性を総合したものが同様に映し出されている。後者のニコレもフランスのフルート奏法をドイツに“持ち込み”、この分析的なあらたな次元はドイツのフルート奏法をより豊かにした。
アドリアンはこの道を歩き続け、多くの世代のフルーティストたちに著しい影響を与えた。国際的な素晴らしいキャリア、軽く100を越える録音、そして40年にわたり、ヨーロッパの主要なアカデミー(講習会)で教え、そのうちの三つはフランスのレ・ザルク、ニース、プラドであり、アジアや、また最も権威ある教育機関のうちの二つ、ドイツのケルンとミュンヘンの音楽大学と、彼のその豊かな威光は容易に垣間見ることができる。
しかも、彼は例外的な長寿のヴィルトゥオーゾだ。フルートを完璧に知り尽くして見事に使いこなすだけでなく、そこに同じくらい情熱が存在しているのだ。デビューした最初のころからそれは消えることなどほど遠く、フルートに関する文献への飽くなき彼の好奇心は昔も今も、インスピレーションの参考にも源にもなっている。ドップラーからファルカスにいたるハンガリー音楽、クーラウからニールセンまでのデンマークの音楽、古典音楽、ロマン派音楽の作品を見出し、いったい幾十の、いや百にも及ぶ数の曲に光をあてたことだろうか。正確な数はわからないが、老いも若きも、自分たちのコンサートのプログラム用に新しい曲を探すなら、彼のディスコグラフィーや出版物に目を向けることをお勧めしたい。
30もの作品、とりわけVagn HolmboeやHaral Genzmer、Gunnar Berg、Edison Denisov、Jöeg WildmannまたはAlfred Schnittkeによるものは彼のために書かれたものであり、レパートリーを拡大させる目的のために編曲するという彼の賢い考えは、多くの実を結び、フルーティストたちが重要なレパートリーを演奏できるようにする、という究極の目的からは一歩たりとも引かなかった。
80歳になる直前、彼に特別な敬意を表するため、独・ザールブリュッケンでのFlute Days(2024年9月21、22日)と、スイス・グランでのGolden Flute Classic(2024年10月3~6日)の機会に、私たちのためにこのインタビュー(2部構成からなる)が行なわれた。彼の心に残るテーマに沿って、たくさんの寄り道で区切られた彼の軌跡をここで私たちに紹介してくれる。
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・音楽家と運動選手のみに許された移動の自由
・ハンガリー音楽に母国語を聴く

András Adorján