フルート記事 ただただフルートが好きだったから─とにかく一生懸命に上を目指していれば結果は後からついてくる
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酒井秀明│THE FLUTE vol.206 Cover Story

ただただフルートが好きだったから─とにかく一生懸命に上を目指していれば結果は後からついてくる

ARTIST

ドイツで18年間活動し、1995年に帰国後は洗足学園音楽大学の教授・客員教授として多くの後進を育てた酒井秀明氏。教授退官後も、演奏活動のほかに一般社団法人日本フルート協会会長、そして今年開催される第11回神戸国際フルートコンクールの審査員長を務めるなど重責を担っている。日本フルートコンヴェンションin KOBE、KOBE国際音楽祭2025、神戸国際フルートコンクールと、神戸ではフルートのイベントが目白押しの今年、すべてに関わる酒井氏にそれらの魅力、そして酒井氏自身のことを訊いた。
写真:橋本タカキ

スコアには演奏するためのヒントがたくさん隠されている

 
酒井さんは国立音楽大学卒業後、ドイツに留学されました。
酒井
大学に入ったのが1973年で、その年の夏から高橋安治教授がパウル・マイゼン先生を毎年夏休み中に招聘して、富士山の裾野にあった大学のセミナーハウスで講習会をやっていたんです。僕は大学4年生まで毎年参加していたのですが、当時はよもや留学できるとは思っていませんでした。漠然と卒業後はどうしようかな、と思っていたくらいです。4年生のときに、マイゼン先生が「君は卒業したらどうするの? 来たかったらドイツに入学試験を受けに来てもいいよ」と言ってくれて、僕も留学できるんだとわかってマイゼン先生のもとで学ぶことにしました。大学時代はとにかく一生懸命練習していたので、マイゼン先生が気に入ってくれたのでしょう(笑)。
留学して思い出深いことはなんでしょうか。
酒井
カルチャーショックというほどではないと思いますが、ドイツの大学は先輩後輩の上下関係がありません。ドイツの教授たちも、学生を一人前の人間として扱っていましたね。
日本では先生と学生、先輩と後輩が明確に分かれていますから。
酒井
もちろんドイツにも礼儀はありますけどね。
マイゼン先生の思い出といえば、レッスンで先生が吹いてくれるのですが、とにかく目の前で聴ける演奏をじっくり観察して奏法を盗んでいました。聴いて、見て、「一体これはどうやって吹いているんだろう?」と観察するのです。だから毎回学ぶことは多かったですね。
あとはマイゼン先生に限ったことではないと思いますが、「自分のパート譜だけを見てもダメ。スコアに何が書いてあるか見てごらん」とよく言われましたね。オーケストラの楽譜であれ、ピアノの楽譜であれ、スコアに書かれていることを理解することが大事なのです。スコアには自分のパートをどう吹くべきなのかというヒントがいっぱい隠れているからそれを見なさい、と。
それから教えるときの目的は生徒たちが自分自身の先生になれるようにすること、という言葉も印象深く残っています。つまり生徒たちにとって最終的な目標は自立することなのです。
と言っても実際に教えるようになってからは、どう教えれば学生たちが自立できるかはわかりません。わかるためには長い時間も必要ですし。だからレッスンするときは、はっきりその意識を持っていたわけではありませんでした。ただ学生たちがなるべく余計な回り道をしないように、ある意味で先生は道標を教えるということを心がけていました。

次ページに続く
・帰国のきっかけは洗足学園音楽大学からのアプローチ
・常識と思われていることを疑ってみる
・コンヴェンションと音楽祭のコラボイベント
・“感激する演奏”は5つ目の要素が加わることで生まれる

 
Profile
酒井秀明
酒井秀明
Sakai Hideaki
1977年、国立音楽大学を首席で卒業。同年渡独し、北西ドイツ音楽院デトモルト、ミュンヘン国立音楽大学で研鑽を積む。石原利矩氏、パウル・マイゼン氏に師事。 1979年ミュンヘン国際音楽コンクールで第3位(1位なし)入賞。1983年、ジュネーヴ国際音楽コンクールで第2位(1位なし)に入賞。1984年から1995年まで、フィルハーモニア・フンガリカの首席フルーティストを務める。
1995年に帰国。以降、リサイタルや、室内楽、またコンクール審査員としても幅広く活動する。現在、一般社団法人日本フルート協会会長。
 
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