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第18回|「シンドラーのリスト」

kokoro-Neがお届けする〜フルートで彩る フィギュアスケートの世界〜

皆さまこんにちは!
北京オリンピック、世界選手権と今季の大きな大会が終了しました。様々な事情で出られなかった選手もいましたが、名演もたくさん見られた激アツのシーズンでしたね。
今回は、その表現力で音楽家からの圧倒的な支持率(私たちの周りでは……!みなさん、どうですかね)を誇るジェイソン・ブラウン選手の「シンドラーのリスト」をご紹介します。北京オリンピックでは、映画のシーンを彷彿とさせる世界観を繊細に演じ、4回転を跳ばずとも世界中を魅了しました。是非、感動の反芻にお付き合いください!

映画「シンドラーのリスト」

時代は第2次世界大戦中。主人公はドイツ人実業家のシンドラー。迫害されていたユダヤ人を安価で工員として雇い、その利益をナチス親衛隊の将校への賄賂に使って、更なる利益を……と、彼の頭には金儲けしかありませんでした。しかし、ナチスによる理由なきユダヤ人の殺戮を目にしていくうちに、シンドラーは変わり始めます。労働力という名目のもと、ユダヤ人を収容所から従業員として自腹で買取り、自分の故郷の安全な工場に移動させます。工場内では、従業員たちの人間らしい暮らしを守る一方、戦争に加担しないために、利益を顧みず敢えて不合格品の軍需品を生産します。ドイツの敗戦で終戦を迎えて……というお話です。

映画音楽の巨匠、ジョン・ウィリアムズが手がけたサウンド・トラック

プログラムの中で使用されている曲はすべて「シンドラーのリスト」のサントラです。ジョン・ウィリアムズと言えば、「STAR WARS」「ハリーポッター」シリーズなど、誰でも一度は耳にしたことがあるキャッチーなテーマ曲が有名ですが、映画全編を通してストーリーにぴったりと寄り添ったサントラは神業としか言いようがありません。楽器の使い方も好きです。痒い所に手が届くように鳴らされるホルンや、ページをめくるようにシーンの切り替えで鳴るハープなど……映画を観ていても、いつの間にか内容よりサントラに夢中になってしまうこともありました。

ジェイソン・ブラウン 2019-20、21-22 FS「シンドラーのリスト」

ユダヤにルーツがあり、日頃から社会福祉活動も行なっているジェイソン。「シンドラーのリスト」は、“何年も前から滑りたかったけれど、表現するためには自分自身が精神的にも技術的にも熟成してから”と考えていたそうです。2019-20シーズンに満を持して挑み、今シーズンは更にブラッシュアップ。珠玉の名作となりました。

冒頭は「アウシュビッツ強制収容所」という不穏な雰囲気の曲が使用されています。この間にジャンプが3本。前後の流れがスムーズで、繋ぎも工夫が凝らされています。ちょうど1年前の第12回で「Reel around the Sun」(2014年のFS)をご紹介した時に、そのグルーヴ感や表現力にベタ惚れなのはお伝えしましたが、8年経って更にスケートの伸びや滑らかさ、ジャンプの余裕や着地後のスムーズさが増して、より密度の高いプログラムになっているように思います。

この後が、2019-20シーズンと今シーズンで違いがあります(デヴィッド・ウィルソンさんの振り付けが素晴らしくてどちらも好きです!)。19-20シーズンは「ユダヤ人街」という重々しい曲を挟んで「シンドラーのリストのテーマ」を繋ぐ編集がされているのに対して、今シーズンは「追憶」(※1)が30秒弱流れて「シンドラーのリストのテーマ」に入ります。ここが、映画のクライマックスで、ドイツの敗戦後にシンドラーが従業員たちと別れるシーンのサントラと同じ流れで編集されています。音楽面でも切れ目がなくなって、作品の完成度が上がっています。

「追憶」は、シンドラーが助けた従業員たちから、全員の署名付きの手紙(もし逮捕されてしまっても罪に問われないよう、シンドラーのしてきたことが記録されている)を渡されるシーンに当てられる、テーマ以上に切なく美しい曲です。ジョン・ウィリアムズの「STAR WARS」や「インディジョーンズ」を知っていると、「同じ人が作った曲!?」と思ってしまう作風の幅広さに圧倒されてしまいます。

そして、ここでのスピンが素晴らしい……シットポジションで頭を抱えると同時に回転数が上がって、「もっと救えたのに……」と苦悩するシンドラーに見えます。ポジションとその変化の美しさ、ブレない軸、回転数は言うまでもありませんが、1回転たりとも表現を逃さないようなジェイソンのスピンに撃ち抜かれてしまいます。

そのまま「シンドラーのリストのテーマ」に入ります。映画では手紙に続けて、シンドラーと一番交友のあった会計士から指輪を手渡される。という泣きのシーンで、ジェイソンのプログラムも涙腺崩壊ポイントだらけです。いつの間にか跳んでしまっているようにプログラムに溶け込んだジャンプ、d-mollからa-mollに転調してからの大サビ「ミラミラ~」(←フルートで吹くにはすごーく嫌なフレーズ。笑)でイナバウアー(※2)からの美ポジスパイラル、バレエジャンプ……こういう魅せ方してくれる選手はホント痺れます。

終盤は、愛してやまないジェイソンのステップ。曲調は、ざっくり♩=50前後のスローテンポ。そこに1拍や8分音符単位で細かく複雑なターンが入っていて、それらがパールマンが弾くヴァイオリンの伸び縮みまでも包み込んでいます。テンポや音数に合っているけれど、刻んだ感を出さずに曲調に寄り添う、legatoでcantabile、これぞ音ハメを超越した音楽との一体化!という感じです。細かい動きや、エッジを切り替える度にスケートがグンと伸びて氷に描かれるたくさんのカーブに悶絶したところで、メロディで一番ヤマになる「♪ソファミレ」では両手を後ろに。

最後のロングトーンでも美しいキャメルスピン……

フィニッシュの氷に伏せるポーズも印象的です。映画では、指輪に刻印された「一つの命を救う者が世界を救える」というユダヤ聖書の言葉を聞いてシンドラーが「もっと努力していれば……」と泣き崩れてしまいます。従業員たちが寄り添ってシンドラーを抱き抱えるシーンを彷彿とさせます。

エキシビジョンやショーでの振り切ったプログラムも、どんな曲でも深く表現するジェイソンのグルーヴ感が大好き! ずっと見続けたいスケーターです。

(※1)テーマと同じくパールマンのヴァイオリンが堪能できる曲です。が!プログラムで使用されているのがオケだけの部分なので、是非全体を聴いてみてください!

(※2)この部分は2019-20シーズンも捨て難い!「ミラミラ~」のきれいに開いたケリガンスパイラルは、今季同様に涙腺崩壊ポイントなのですが、そこから更に膝をついて何かを拾う振り付けがあります。映画で、シンドラーが感極まって贈られた指輪を一旦落としてしまい、暗闇の中で地面を探して拾うシーンを彷彿とさせて泣けるんです! お時間があれば、映画を観た上で、2019-20シーズンと今シーズンを見比べると更に楽しめると思います。

名プログラムいっぱいの『シンドラー』

個性あふれるプログラムが他にもいっぱい! 語りきれない「シンドラー」を簡単にご紹介します。

●宮原知子さん 2019-20 FS
引退のニュースを観た時は、それはそれはもうショックでした……(泣)。曲はテーマとラフマニノフの「前奏曲」がMIXされたアレンジです。このプログラムでも最後のコレオで膝を着いて回る振り付けがあって、号泣モノです。今後の活躍をお祈りしてます!

●ユリア・リプニツカヤ 2013-14 FS
今見てもスピンのポジションと回転数はエグい……!
見事なキャンドルスピンは、映画の中で祈りの蝋燭に火を灯すシーンも彷彿とさせます(モノクロ映画ですが、赤い服の女の子と蝋燭を灯すシーンは映像がカラーになります)。

●ミハイル・コリヤダ 2021-22 FS
シンドラーになりきって演じられるプログラム。テーマのサビの部分を多用する編集がされています。本来ならシーズン終盤にかけて熟成されたプログラムだと思うのでオリンピック、ワールドと観られなくて残念です!

楽譜紹介

ソロ・ピース『シンドラーのリスト』
(アルソ出版刊)
ジョン・ウィリアムズ 作曲/鹿野草平 編曲
編成:Flute&Piano
価格:¥1,980(税込)

 

演奏動画

 

実は、アレンジが今までとは違った難しさで、相当病みました(笑)。同じヴァイオリン+オケの編成でも、第1回でご紹介した「ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジー」のような曲は、重音のところでハモりを入れたり、オケは細かいピアノの細かい動きに置き換えたりしやすいのですが、「シンドラーのリスト」はそれが通用しませんでした。

2ndフルートの居場所に苦戦したり、ピアノを持て余したり、その割にはサウンドがペラっペラになってしまったり……

今日のところのリハーサル風景はこんな感じで、ここからリハのたびに試行錯誤が続きます。そして、7/3のkokoro-Ne15周年記念コンサート(下記参照)では、さらに改良した状態で皆様にお届けしたいと思っています!

演奏のポイント

この「ミーラーミーラー♪」のフレーズはめちゃめちゃ笛吹き泣かせですよね……。

1つ目は跳躍です。離れた音と音をmolto legatoでつなぐには、次の音に移行する前に体の準備(重心を早めに下げる)をすることが大切です!
ミを吹いているときにはすでにラのイメージをして、ラを吹いているときには次のミの準備を……。
そしてフレーズを大きく取るためには、車の運転をする時のように少し遠くを見るのも忘れずに…
「次の音をイメージ」しつつ「遠くを見る」というと、なんだか両極端ですね(笑)。

2つ目はテンポ。とってもゆっくりなのでフルートにとっては息が苦しい!! 循環呼吸がうまくできる方は取り入れてみるのもいいかもしれませんね。
私は練習します!!(byのぞみ)

次回は10月を予定しております。次のシーズンでお会いしましょう!

 

読者プレゼント!

これまでにご紹介したフィギュア音楽から、ここではご紹介できないkokoro-Neカラー全開のオリジナル曲やアレンジ曲まで、15年分の渾身のプログラムをお届けします。
もちろん、今回の「シンドラーのリスト」も当日まで推敲と練習を重ねてお届けする予定です。
是非、会場でお楽しみください!

 

kokoro-Ne 15周年記念コンサート“Feast!!”
[日時]2022年7月3日(日)13:30開場 14:00開演
[会場]パウエル・フルート・ジャパン アーティストサロン“Dolce”(各線「新宿駅」西口より徒歩5分)
https://www.dolce.co.jp/salon/tokyo/
[出演]kokoro-Ne:門井のぞみ(Fl)、大和田真由(Fl)、田仲なつき(Pf)
[編曲]大和田真由&kokoro-Ne
[料金]一般¥3,500 学生¥2,000 kokoro-Ne メンバーズ会員様¥3,000
(いずれも税込、全席自由)
こちらのコンサートを、抽選で2組4名様にプレゼント!
ご応募お待ちしております!!


[応募締め切り]5/30(月)
※無料のアカウント登録が必要になります。

 

kokoro-Ne(ココロネ)プロフィール

kokoro-Ne (ココロネ)
門井のぞみ・大和田真由・田仲なつきによる、2本のフルートとピアノのトリオ。クラシックで培った確かな技術と表現力を基に、色彩豊かなアレンジやハイレベルな演奏で好評を博している。2007年結成当初より、ジャンルを超えたレパートリーに挑みながらも、リズムセクションや打ち込みなどを敢えて加えず室内楽トリオの可能性を追求し続けている。TPOに合わせた演奏を得意とする一方、CD・楽譜・オリジナル作品の発表にも力を入れており、オーディエンスはもとより多くのプレイヤーからも支持を得ている。
主な作品
・2009年 1st Album 「kokoro-Ne/ココロネ」
・2013年「コンサートで使えるフルートデュエット曲集kokoro-Ne編」(ドレミ楽譜出版社)初版以降も増刷を重ね、ロングセラーとなる
・2016年 2nd Album 「Microcosmos」同収録のオリジナル曲「ミクロコスモス」楽譜出版
・2017年 楽譜出版「kokoro-Ne Library」を立ち上げ、これまでに45タイトルを超える楽譜を発表。続々と新作発 表を控えている。
kokoro-Ne公式HP https://www.kokoro-ne.net/
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カバーストーリー
フルートコンサートガイド

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