フルート記事
kokoro-Neがお届けする〜フルートで彩る フィギュアスケートの世界〜

第7回│「鮫〜Escualo〜」

皆さま、こんにちは!2本のフルートとピアノのトリオ【kokoro-Ne(ココロネ)】です。
緊急事態宣言が解除になり、新しい生活が始まりましたね。子どもたちとの自粛生活にやつれたアラフォーおかんトリオの私達も、少しずつ日常を取り戻しながら前進したいと思います。
今回ご紹介するのは、ピアソラ作曲の「Escualo(鮫)」です。これまでもピアソラの楽曲は2曲取り上げましたが、2年目に突入したこのコーナー。

・【パトリック・チャン】精密機械レベルの美しいスケーティングとその魅力
・メンバー全員大後悔?!アレンジ秘話
・攻略するか、翻弄されるか。高難度kokoro-Ne版「鮫」演奏のヒント

などをテーマに今まで以上にディープにお届けします。お楽しみください!

「鮫」〜Escualo〜 実は…

この曲は、ピアソラ五重奏団のヴァイオリニストであるフェルナンデス・スアレス・パスのために書かれました。彼の技術をふんだんに活かした作品になっています。

「鮫」というタイトルを見ると、ホオジロザメのような大きくて獰猛な鮫を想像してしまいますよね。しかし、この「鮫」というのはピアソラの趣味であったスポーツ・フィッシング(鮫釣り)で釣れる、小型のチョウザメやコバンザメのことなんです。実はどちらも、分類では鮫ではないんですよ〜。鮫なのに鮫じゃないなんて、なんたる衝撃!!

この曲、基本は4拍子で進行しながらも6/8、4/5のブロックが入ったり、緊迫感の高まる中間部には2/4の休止が多用されています。鮫の動きの緩急や、狙いを定めて捉える間が表現されているのでしょうか……。タンゴとしてはとても躍りにくそうですが、もう聴くために洗練されたタンゴと捉えた方が良さそうですね(笑)。

鮫

パトリック・チャン×Escualo(2014-15 EX)

このプログラムはソチ五輪後の休養シーズン中にショーなどで披露されていました。競技に出ていませんでしたが、「一歩がすごく伸びる」と数々のトップスケーターが絶賛するスケーティング技術は圧巻です。
演技開始早々、「この鮫、食べ過ぎじゃないか?!」とツッコミたくなる衝撃的なスローテンポに最初は驚きましたが、それだけあって、踏み換えやエッジワークが8分音符単位で音を取っていたり、「そういうことか!」と納得してしまいます。

水泳のクロールで言うと、手をかく回数が少ないのにすごく進む、みたいな感じなんですね。一度蹴ると、ターンやエッジを変えてるのにスピードを落とさずどこまでも伸びていきます。とにかく滑らか、速い、きれい! スピンに入る前のちょっとの瞬間でも、氷に力を伝えてグンと加速しているのが観ていてよくわかります。技と技の間も繋ぎではなく、その滑り自体が見どころです。
また、それまでフィギュアの王道や優等生的な選曲をするイメージでしたが、年齢を重ねて大人の魅力を増した演技が印象的でした。

パトリック・チャンの魅力

パトリック・チャンの魅力

当時「高難度」と言われていた4+3回転の連続ジャンプの安定感もあって、2010年バンクーバー五輪後〜2014年ソチ五輪の間は、羽生結弦選手が台頭してくるまで「これミスなくやられたら敵わないだろうなぁ」という印象でした。(その羽生選手もパトリックの滑りに影響を受けて、演技やインタビューを追って研究したそうです。)

高いスケーティング技術があるだけに、クラシックの演技が圧倒的にうまい!ヴォーカル曲も解禁になって、個性的な選曲で魅力を発揮するスケーターも多い中、正統派のクラシックでここまで魅せられる、勝負できる、となると、なかなか難しいことではないかと思います。フルートで言うと、武満徹とかすごい吹きこなすけど、モーツァルトはイマイチだよね……みたいな。(私はどっちも無理です!笑)演技中の蹴る回数が少ないのも「なんかわかんないけど、きれいだなぁ」と多くの人が感じる点かもしれません。

無敗(国別対抗以外)の2011-12シーズンの「アランフェス協奏曲」、2013-14「四季」など、名プログラムはたくさんあるけれど、個人的に印象に残っているのは2016年4大陸FS「ショパンメドレー」
(ぜひ動画探して見てみてください!!)
平昌オリンピックに向けて「4回転をどれだけの本数・種類、入れられるか」という雰囲気になっていた男子シングル。その4回転時代に一石を投じる様な完成度の高いプログラム。ストーリーを訴えかけたり、ものすごく曲を歌い込むような演技ではないのですが、ジャンプへの助走ですら美しさのあまり「革命」の左手の流れるような16分音符と一体化しているようでした。釘付けになって、気付いたら4分半。フィギュアスケートの魅力の真髄を改めて見せつけられたようで、鳥肌が立ったのを今でも覚えています。

kokoro-Neメンバー×フィギュアスケート

門井のぞみ
【担当】フルート、ピッコロ
【好きなスケーター】高橋大輔、ネイサン・チェン
【好きなパトリック・チャンのプログラム】2011年FS ファンタジア〜「オペラ座の怪人」組曲
ダイナミックな滑りと曲がすごくマッチしていて感動しました!スケーティングにスピード感があるからこそ、あのスケールの大きさを表現できるんですね。振り付けもとっても素敵でした!

 

大和田真由
【担当】​フルート、アルトフルート、作編曲
【好きなスケーター】​ジェイソン・ブラウン、パパダキス&シゼロン
【好きなパトリック・チャンのプログラム】2015-16 FS「ショパンメドレー」

 

田仲なつき
【担当】ピアノ
【好きなスケーター​】浅田真央、高橋大輔
【好きなパトリック・チャンのプログラム】2013年SP ラフマニノフ /エレジー
この曲を聴くだけでも泣けてくるのに、パトリック・チャンが舞うと正に芸術の真骨頂ではないですか!!息をのむ緊張感のある演技が堪らず、思わず拝みました(笑)

「鮫」アレンジ秘話〜kokoro-Ne座談会〜

のぞみ(以下:の)「鮫やりたいって言ったの誰だっけ?」
なつき(以下:な)​「私です〜。でも真由ちゃんのアレンジが出来上がってきてから猛烈に後悔したさ」
まゆ(以下:ま)「毎回言ってるかも知れないけど『わざわざこの編成で演奏する意味』を私なりに考えた、結果があれでした。笑」
​「普通には書いて来ないと思ったけど、想像の斜め上だったわ!」

この楽譜を書いた2017年当時、kokoro-Neの10周年記念コンサートに向けて曲の準備してたんです。と言っても、オリジナル曲だけでコンサートを構成できるほど曲数もない。しかも、2016年に2ndアルバムを出した後で、脳味噌が抜け殻みたいになってたんです。

「もう今、なんも書けない」

そこで、半分はピアソラの曲でプログラムを構成しようという話になり、曲を探していたときに

「『鮫』やりた~い

……と言い残して産休に入った田仲(←第3子出産)。

あんなに「シ」ばっか言ってて、Bmのワンコードの曲、どーしろって……(泣)
伸び代を見出せずに撃沈する私を横目に、

「楽しみ~

羨ましいまでの能天気。

「書いてさえくれればいくらでも練習するから任せて~

ネックだったシンプル過ぎるテーマ。その「シ」を封印して尺を稼ぐアレンジがふと降りてきた。
「鮫」独特のバッキングを借りて、その上に思いつくがままに音符を散りばめていく。

そして、田仲の産休明けにリハ再開。
軽く音出しをするはずが、まったくもって最後まで通らない。

これまでに経験したことのないアンサンブルの崩壊……

「ヤバイな、これ」

私はどこで何を間違えたんだろうか……
この時、ようやく致命的な忘れ物をしていたことに気づく。

【この曲は2/2拍子】

曲は熟知している。
頭の中で鳴った音も間違いなく書けている。

しかし、それは理想の世界だ。

2分音符画像=108。♩で換算すると倍の216。
16分音符=32音符相当……

2/2拍子ということを念頭に改めて楽譜を見ると、見慣れた16分音符や3連符の一粒ずつが悪魔の手先のように見えてくる。

そういえば、5分程度の仕上がりなのにパート譜が5ページもある。
なんで音出すまで気付かなかったんだ……!

当時、小1(前代未聞の問題児)×1、園児×2、未就園児×2、新生児×1、計6人を抱えていたアラフォーおかんのトリオには、実際の月日以上に残り時間が少ない。
今さら曲を差し替えるのも、アレンジをやり直すのも間に合わない。
引き返すことのできない我々は、このまま腹をくくって練習することになったのでした……。

参考動画 「鮫」

「kokoro-Ne も『鮫』で変わったよね」
「リハの気合いも凄まじかったね。緻密な動きと、情熱に負けないコントロール……いやはや、勉強になります」
「トリオでの限界も見てみたかったんだよね。リズム隊を入れないでどこまでグルーヴが出せるかとか……」
「いろんな人に演奏してもらいたいね」
「ほんと、私もこれをみんなどういうふうに演奏してくれるんだろう、って新たな世界を見てみたい」
「テーマに入る前までのゾクゾクする感じ。一度やったら病みつきになるので是非トライしてみてください!」

フルートの楽譜

2本のフルートとピアノ「鮫」 / A. ピアソラ
「Escualo」for 2Flutes and Piano / Astor Piazzolla

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演奏のポイント

・とにかく録って聴いてを繰り返しました。どこでズレるか、走るか、もたつくか、グルーヴが崩れていないか、間に合わせるために雑になってないか……もう粗探しです。笑 重箱の角をつつくようにリハ音源を聴くと、今でもキリがありません。
・展開部に入ってから、2/4の休止に向けて緊迫感が高まるようなフレーズが出てきます。その間の1小節ごとに3、4拍目がズルッと滑って加速したり(最後が吹けなくなります、マジで。笑)小節に食い気味に突入しがちですが、落ち着きのない演奏になってしまいます。こういった所を余裕をもって安定した流れを作れると、聴き手に心地よい演奏になると思います。
・曲本体に入るまでが3人バラバラの動きをしているので、合わせもゆっくりから練習してみてください。
・8分音符で♪休符画像休符画像休符画像  ♪休符画像│♪休符画像休符画像休符画像  ♪休符画像のリズムは休符を大事に、正確に演奏しましょう。

の(1st)「熱くなりがちな曲ですが、熱くなるのは気持ちだけで頭と身体は常に冷静でいられるといいですね。指が忙しい所は、力を抜くために冷静に。ハイトーンやアクセントが強い所は、熱くなるとヒステリックになるので、これまた冷静に。淡々と同じテンポの上に乗っていく緊張感がスリリングですが、自分以外のパートもしっかり把握して流れを作りましょう!」

ま(2nd)「2音単位のスラーやアクセントがたくさん出てきますが、口先だけ強さや繋ぎをこなそうとすると音が潰れてニュアンスも出ません。お腹を使って、最初はタンギングしないでお腹の力でゆっくりアーティキュレーションを練習するとかいいかもしれません。」

な(pf)「ピアノにのしかかる、テンポキープの重圧。とにかくメトロノームとお友達になることが最善策です!」

kokoro-Ne(ココロネ)プロフィール

kokoro-Ne (ココロネ)
門井のぞみ・大和田真由・田仲なつきによる、2本のフルートとピアノのトリオ。クラシックで培った確かな技術と表現力を基に、色彩豊かなアレンジやハイレベルな演奏で好評を博している。2007年結成当初より、ジャンルを超えたレパートリーに挑みながらも、リズムセクションや打ち込みなどを敢えて加えず室内楽トリオの可能性を追求し続けている。TPOに合わせた演奏を得意とする一方、CD・楽譜・オリジナル作品の発表にも力を入れており、オーディエンスはもとより多くのプレイヤーからも支持を得ている。
主な作品
・2009年 1st Album 「kokoro-Ne/ココロネ」
・2013年「コンサートで使えるフルートデュエット曲集kokoro-Ne編」(ドレミ楽譜出版社)初版以降も増刷を重ね、ロングセラーとなる
・2016年 2nd Album 「Microcosmos」同収録のオリジナル曲「ミクロコスモス」楽譜出版
・2017年 楽譜出版「kokoro-Ne Library」を立ち上げ、これまでに10作品を超える楽譜を発表。続々と新作発 表を控えている。
kokoro-Ne公式HP https://www.kokoro-ne.net/
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