第30回|「オーボエ協奏曲」
こんにちは! 2本のフルートとピアノのトリオ【kokoro-Ne(ココロネ)】です。世界選手権が終わり、来年はオリンピック!!ということで宇野昌磨さんが北京五輪で銅メダルを獲得した際のSPも記憶に新しい『オーボエ協奏曲』を取り上げます。ぜひご覧ください。

アレッサンドロ・マルチェロ 1669-1747
バロック時代に活躍したイタリアの音楽家でコンチェルトの作曲家として有名です。また数学者・哲学者として、多分野にわたって活躍したイタリア人貴族でもあります。
『オーボエと弦楽合奏のための協奏曲 ニ短調』
マルチェロの作品の中で恐らく最も有名で、オーボエ協奏曲全体の中でもよく知られている作品です。映画「ベニスの愛」でオーボエ奏者の主人公が演奏した事でも脚光を浴びました。J.S.バッハがチェンバロの独奏曲(BWV974)として編曲したことでも有名で、この時にバッハが書いた装飾をベースに演奏されることが多いようです。
宇野昌磨さんが使用した2楽章は単独で「マルチェロのアダージョ」と呼ばれるほど有名です。元々のマルチェロのメロディはかなりシンプルなので、バッハの装飾の素晴らしさを堪能できる楽章でもあります。
1・3楽章もかっこよく、全楽章捨て曲なし! このコーナーでもとっくにご紹介したかったのですが、協奏曲に着手するというのがアレンジ面でも曲の規模的にも難しくて……詳しくはアレンジや演奏動画のほうでお話します。
楽譜を書くにあたり、いろんな演奏を聴こうと調べたところ、
1.作品番号は[S D935]? [S.Z799]?
[時系列](諸説あるっぽいです)
・多分1708年まで(遅くとも1713年):マルチェロ(兄)が作曲
・1713〜14年頃:世に出る前(または紛失)のオーボエ協奏曲にJ.S.バッハがアレンジを加えて、チェンバロ版[BWV794]を書く(作曲を学ぶガイドとして編曲集(※1)を書いていた)
・1716年:マルチェロのオーボエ協奏曲[S D935]が出版される
ハ短調の変奏曲、S.Z799も書き留められる。
それ故か、作品番号を記載していない楽譜が多いみたいです。
2.ヴィヴァルディの曲? 弟の作品?
と長いこと、誤解もされていたそうです。
理由1:前出の(※1)が主にヴィヴァルディの作品を編曲したものだったため、このオーボエ協奏曲もヴィヴァルディの作品と誤解されてしまいました。
理由2:(※1)複製時にファーストネーム”アレッサンドロ(兄)”が書かれていませんでした(書き忘れた?)。当時は同じく作曲家のベネデット(弟)のほうが有名だったため、弟の作品だと思われていました。
理由3:マルチェロ(兄)は、ほとんどの作品をベンネームで発表していて、本名を使用したオーボエ協奏曲は例外だそうです。
宇野昌磨 2021-22 SP『オーボエ協奏曲』
振付は宮本賢治さん。1つ前の2020-21シーズンのエキシヴィションでも披露されていました。
演技冒頭の1拍目をカットして2拍目からスタートする編集に、原曲を知っていると「えっ!」とビックリしますが、そんなことを忘れるくらい、演技開始から惹き込まれます。8分音符単位の動きがたまりません!

あっという間に加速して4フリップ。ここまでが7小節です。
(上段:マルチェロの楽譜、下段:バッハの装飾)

音源は7小節目から20小節目に飛びます。


和音が明るくなった所で4トゥループ+3トゥループのコンビネーション。並行調のF-Durに行くと見せかけて、Esの長三和音に進行する粋なマルチェロ。ここを切らずに使った編集にも萌えです。明るく穏やかなフレーズに乗せて美しいフライングキャンメルスピン。3アクセルに向けて加速しながらも、メロディ起伏や和声の明暗を抱き込むような振付と表現がたまりません!

3アクセルのところで音源は最後のトリルの部分に飛びます。エンディング部分で足替えのシットスピン。深い姿勢と見事な回転数も美しく、「もっとマルチェロ×昌磨くんを拝みたいのに」と思いますが……。
後半は、ヴィヴァルディのチェロ協奏曲ハ短調 RV 401の3楽章に変わります。ここからのステップがまた素敵です。複雑なターンの組み合わせの連続を、そうは感じさせず優雅に、しょうまくんらしい振付も織り混ぜながらグイグイと進んでいきます。チェロの細かいフレーズの所でトドメを指されます!
そのまま最後のコンビネーションスピンまで駆け抜けます。クラシック、中でもバロック音楽をここまでの完成度で作品にできるスケーターも貴重です。これからの活動も応援しています!
演奏動画
kokoro-Ne YouTubeチャンネル
楽譜のご紹介
「オーボエ協奏曲ニ短調」(J.S.バッハの装飾音付)

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是非ご活用ください。
アレンジの話

腹を括ってバロックの大曲に取り組むと決めたものの、去年の夏ごろから口癖のように「マルチェロ」の名前を出していたと思います。コンチェルト(ソロとオケの曲)ですからね。当初、
まゆ「のぞみとなつきさん2人でアダージョ(2楽章)よろしくね!」
という話でした。一般的なオーボエとピアノのデュオ譜だと、ちょっと響きが寂しいので、バッハのアレンジとオケのスコアを見ながら、2楽章の調整をしたいたのですが……。
なつき&まゆ「マルチェロ、1・3楽章がかっこいいんだよね」
のぞみ「え、やる?」
まゆ「はい決まりー!よろしく」
この時点では完全に楽できると思ってたんです。ただ、コンチェルトのピアノあるあるなんですが、原曲のオケからかなり音は削られているとは言え、それでも結構難しいのです。
楽譜を見ていくうちに1・3楽章に関しては「これあと1ライン誰かいたらピアノが楽だし、泣く泣く削ったようなパートも再現できるのになぁ」なんて思い始めてしまい……。
試作してしまったのが運のツキ。結局トリオで演奏することになりました。アルトフルートは第1ヴァイオリンの音を担当したり、時にはチェンバロのフレーズを埋めたり……。
となると新たに悩ましいのが2楽章。やることがありません、もはや、邪魔(^_^)
「どうしたら気まずくなく3楽章までそこにいられるか」
を考え、音の長さをや、弦楽器複数名の厚みなど、ピアノを補うような音を選んでみたり……。
これまでと雰囲気の違う変則的なアレンジになりました。
演奏のアドバイス
フルート:本当に素敵な曲ですよね!! オーボエだけの物にしておくのはもったいない!ということでフルートで演奏しちゃいました。
オーボエならではのフレーズの長さ(特に二楽章)は笛吹きにはしんどいものがありますが、タンギングや運指などに関しては演奏しやすいと思います。美しいメロディをフルートで吹ける幸せを噛み締めながら演奏しました。
アルトフルート:全編通して、存在に大義名分を持たせるために、結構な役割になってしまいました。オーボエが途切れた所ではピアノとの完全ユニゾンで、音の立ち上がりに苦労しています。一転、オーボエの裏でチェンバロ風のフレーズを吹く時には、スッとフルートの裏に回れるように……と切り替えも大事です。
アレンジ面も演奏も手に負えなくなって、結局師匠のレッスンに駆け込んだ際に、ホリガーの音源を教えていただきました。ホリガーとオケ、ともに装飾などやり過ぎていないエレガントさがとっても素敵です。アレンジの面でもかなり参考になりました。是非聴いてみてください!
ピアノ:アルトフルートとの絡み豊富な伴奏はココロネバージョンならではです!
和音進行の萌えポイントが多くて2楽章なんてヨダレものです。是非味わって演奏してください。
今シーズンもご覧いただきありがとうございました。次回は10月号でお会いしましょう!
お知らせと読者プレゼント!
今年も7/6(土)に18周年コンサートを開催します。オリジナル曲をはじめ、kokoro-Neカラー強めのアレンジ曲、『オーボエ協奏曲』を含めてこれまでのフィギュアコーナーでご紹介した曲も演奏予定です。ご予約お待ちしております。
こちらのコンサートを、抽選で2組4名様にプレゼント!
ご応募お待ちしております!!


kokoro-Ne 18th Anniversary Concert─トリオ・アンサンブルの新境地へ─
[日時]7月6日(日)13:30開演
[会場]スタジオヴィルトゥオージ(東京)
[出演]kokoro-Ne〈門井のぞみ(Fl&Picc)、大和田真由(Fl&Alto Fl)、田仲なつき(Pf)〉
[曲目]A.ピアソラ:鮫、久石譲:映画「紅の豚」より、A.マルチェロ:オーボエ協奏曲 ニ短調 S.Z 799、大和田真由:2本のフルートとピアノのための夢現な小品 他
[料金]¥3,500 メルマガ会員¥3,000
[問合せ]kokoro-Ne Ticket
チケットプレゼントのご応募はこちらから↓↓↓
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kokoro-Ne(ココロネ)プロフィール

門井のぞみ・大和田真由・田仲なつきによる、2本のフルートとピアノのトリオ。
クラシックで培った確かな技術と表現力を基に、色彩豊かなアレンジやハイレベルな演奏で好評を博している。
2007年結成当初より、ジャンルを超えたレパートリーに挑みながらも、リズムセクションや打ち込みなどを敢えて加えず室内楽トリオの可能性を追求し続けている。
TPOに合わせた演奏を得意とする一方、CD・楽譜・オリジナル作品の発表にも力を入れており、オーディエンスはもとより多くのプレイヤーからも支持を得ている。
・2009年 1st Album 「 kokoroーNe/ココロネ 」
・2013年 「 コンサートで使えるフルートデュエット曲集kokoro-Ne編 」(ドレミ楽譜出版社)初版以降も増刷を重ね、ロングセラーとなる
・2016年 2nd Album 「 Microcosmos 」
同収録のオリジナル曲「 ミクロコスモス 」楽譜出版
・2017年 楽譜出版「 kokoro-Ne Library 」を立ち上げ、これまでに30タイトルを超える楽譜を発表。続々と新作発表を控えている。
kokoro-Ne公式HP https://www.kokoro-ne.net/
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