中高生のための「クラリネット演奏法」

最終回 音楽とは遊び心だ

最後に、P.ジャンジャンの『ヴェニスの謝肉祭の変奏曲』。終曲の途中までですが、これは右手の楽器を支える親指と左手の人差し指のためには良い訓練になります。この場合G(実音F)の音は開放の運指で指は全部離して練習してください(譜例)。

譜例
※2音あるところは両方勉強してください

以上、指のテクニックについてそのポイントを練習しましたが、本当にうまくなるためには、段階的に基本からエチュードや音階の練習をしっかりやらなければなりません。
初級から中級くらいでおすすめの音階と教則本を参考に挙げておきます。中高生には少々難しいエチュードもありますが、できたらプロの先生に個人的にレッスンを受けられるほうがベストです。

音階の本

G.Dangain(ダンガン):Cahier de Gammes(G.Billaudot)
G.Hamelin(アムラン):Gammes et Exercices(A.Leduc)

エチュード

G.Dangain(ダンガン):L'ABC du jeune clarinettiste 2vol.(G.Billaudot)
H.Klosé:A la portée du jeune clarinettiste(G.Billaudot)
H.Klosé:EXERCICES JOURNALIER(A.Leduc)
V.Gambaro(ガンバロ):20Caprices(A.Leduc)
C.Rose(ローズ):32 Etudes(A.Leduc)

音楽は遊び心だ

音楽に限らずスポーツやあらゆる芸術は、それを表現するために、その基本やそれに必要な技術を学ばなければなりません。しかし、それをマスターしたからといって必ずしも良い表現ができるとは限りません。音楽の美しさや素晴らしさをたくさん聴いてその喜びや感動を知ることが必要です。
演奏会に出かけて生の音楽を鑑賞したり、テレビやFM放送あるいはCDやDVDなどでいろいろな音楽をたくさん聴いてください。音楽は繰り返し繰り返し聴くことによって、さらにその良さがわかってきます。最初は真似事でも耳と体が実感し、だんだん音楽の表現の仕方を覚えていき、音楽性が育まれていきます。
オランダの学者J.ホイジンガが書いた本の中に「ホモ・ルーデンス」(遊ぶ人)という名著があります。彼は芸術やスポーツ、ひいては文化的な創造や宗教的儀式などはすべて遊びから始まっていると言っています。日本語の「演奏する」という語は、英語でPlay、フランス語でJouer、ドイツ語でSpielenといい、全部「遊ぶ」という意味です。これは偶然でもなんでもありません。
この遊び心が創造性につながるのです。ちょっと飛躍的な言い方で誤解を招くかもしれませんが、これは大切なことであり、たいへん興味のあることです。皆さん、おおいに遊び、おおいに勉強し、おおいにクラリネットの練習をしてください。

これまでクラリネットのいろいろな勉強を皆さんと一緒にしてきました。なかなか思うように伝わらないところもありましたが、これからクラリネットを吹いていくときに困ったことがあったら、いつでもお便りください。それではお元気で、また会いましょう。Au revoir!

 

今まで参考にした主な文献を挙げておきます。

「Singen und Spielen」(演奏の原理) H.P.シュミット
「Clarinet」J.ブライマー
「Prestige de la Clarinette」(クラリネットの本)G.ダンガン

登場するアーティスト
画像

野崎剛史
Takeshi Nozaki

東京芸術大学卒業後、渡仏。パリ市立音楽院にてクラリネットを学ぶ。フランス国立管弦楽団の首席クラリネット奏者ギイ・ダンガン氏に師事。帰国後、東京佼成ウインドオーケストラで演奏活動を続けた。またジャズサックス奏者の坂田明、クラリネット奏者の鈴木良昭、ピアニストのF.R.パネ、谷川賢作らとジャンルを越えた音楽活動も行なった。


クラリネット ブランド