知られざるクラリネット・ギアの世界

革新的アイデアが生んだ次世代クラリネット・ギア24選

製作者アンケート

ここからは、各製品を手掛けられた方々のお話を掲載する。
独創的なアイデアが生み出される原点はどこにあるのか……その秘密に迫る。

【設問】
①この仕事をされてどれくらいになりますか? また、前職について教えてください。
②製品のアイデアは、どのようにして生まれるのですか?
③一つの製品を仕上げるまでに、おおよそどれくらいかかりますか?
④製作をする上でのこだわりや、貫いていることがありましたら教えてください
⑤クラリネットの特性上、オリジナル製品を製作するうえで苦労していることなどあれば教えてください。
⑥今回紹介させていただく製品につきまして、以下の3点をそれぞれ教えてください。
 1.製作にいたったきっかけ
 2.製品の特長
 3.製作/開発時のエピソード
※敬称略・順不同

りぺかん

①『りぺかん』という名前では20年ほど前から、主にインターネット上で管楽器にまつわる製作活動をしています。
②基本的には「あったらいいな、面白そうだな」を実際に形にして楽しんでいる感じです。アイデアはやはり自身で楽器を触っている時に思いつくことが多いです。
③製品の種類や一度に製作する数でいろいろです。短いものだとご依頼を受けた当日にバレルを完成させますし、長いものだと、例えば木製バスクラネック「ブラックスワン」は約4〜5ヶ月ほどかけて製作しています。
④機能、性能、精度は常に意識して高くありたいと思っています。その上で、楽器は単なる道具という訳ではなく、自身を表現するための体の一部分にもなりえる物なので、手にしただけで嬉しくなるような外観の美しさもとても重要だと思い製作しています。
⑤木は湿度と温度、時間によって変化する材料なので、その点を踏まえての加工を心掛けています。

1.木管楽器奏者は木への愛着、関心が高いのにリガチャーのほとんどは金属製か革製で、木製のリガチャーがあっても良いのでは?という考えから「では木製だとどんな仕組みができるか?」と考え出したのがきっかけです。
2.ネジで締める仕組みではなく、テーパー同士の嵌め合いの力と木の持つ柔軟性を利用し、必要以上にリードを締めつけず響きを殺さない固定方法を持つ。
3.リガチャーの中間部(くびれた部分)の木をかなり薄く仕上げているのですが、どの程度の厚みが響き的にも強度的にも最適かを模索するのが大変でした。

 

りぺかん チューニングリングセット(The Clarinet Shop)

②以前から興味深い小物を制作している、りぺかんさんの制作技術が高いことは存じ上げていました。しかし、接点がなく何度かお店のほうにも来ていただいたことがありますが、ビジネス的な話にはなりませんでした。それからウチで小物も扱うようになり、専門店ならではの「こういう商品があったらいいな」と思うものの制作をお願いしました。(The Clarinet Shop店長 仕田敬一)
③ 依頼してから3日くらいで制作してサンプルを送ってくれました。ただ、木製でこの薄さでは水分を含むとたわんでしまいます。それをできる限り防ごうということで、表面には強力な撥水加工を施しています。いろいろと探して、ウッドデッキなどに使う撥水剤を使いました。撥水加工をすると張りつきにくくなり、水も吸わなくなるので安定度が高まったと思います。(仕田敬一)

1. チューニングリングは以前から販売されていますが、この商品をご存じの方が本当に少ないです。例えば、バレルと上管の間にすき間を作ってチューニングするとき、もちろんそのすき間がないほうが良い音だと思います。また、すき間を作ったとき上管がグラグラしたりします。コルクを厚くして接合部をキツめにすれば安定しますが、抜き差しするのが大変なのと、響きが少し窮屈な感じになってしまいます。それが好きだという方もいますが、アマチュアの方は組み立てるのも大変なので楽器を安定させるためにこのチューニングリングを使います。(仕田敬一)
2. 市販のものは金属製ですが、管体と同じグラナディラで作るというのが私のアイデアです。当然、同じ材料のほうが響きが良くなると思います。(仕田敬一)
3. 私が想定したのは、バレルと上管、上管と下管の両方に使える1タイプだけでしたが、りぺかんさんが内径用も作ってくださいました。(仕田敬一)

 

管工房「ゆかり」

①趣味程度の製作を開始してから6年ほどになります。管楽器修理の専門学校を卒業してはいますが専門職には就いておらず、専門学校時代に培った楽器の基礎知識と修理技術を応用して独学で製品製作を始めました。本格的に事業として始める前はメッキ工場の検査員やペットショップのレジ打ちをしていました。
②基本的に自分自身で「こんなものがあったら便利なのではないか」と思い立っては試作して誰かに試してもらって、その感想を元に改良。トライアンドエラーを繰り返して製品が出来上がっていきます。最近では周囲から「こんなものを作れないか?」という相談を受けて製作する機会も増えてきました。嬉しい限りです。
③バレルを一例にすると、角材の状態から販売できる状態に仕上げるまで大体1.5時間〜3時間くらいかかります。GoldLineやTrinityのように樹脂の硬化に時間がかかるものやパーツの多い物は特に時間がかかります。お客さまに直接工房までお越しいただいた際は大抵の場合、その日のうちに製品を完成させてその場でお試しいただき、微調整をしてお持ち帰りいただけます。
④製作する上でというか、お客さまにご提案する上で大切にしていることはあります。お客さまにとって最良の選択ができるようご案内することを心掛けています。他者さまの製品が合いそうだと感じた場合は積極的にご紹介しますし、物を変えるよりも奏法による改善が必要だと感じた場合は無理に物を勧めないようにしています。もちろん自分の製品が最適だと感じた際には理由も踏まえて強くお勧めします。
⑤ありきたりかもしれませんが、アイデアを捻り出すことが一番苦労します。他者さまの製品を見て「あー! その手があったか!」と感服しつつ、別の方法でより良い効果が得られないかと思案する。なんてことも多々あります。
⑥各製品についてそれぞれ記載いたします。
クラリネットバレルについて
1.元々自分自身が仕掛けに悩み、凝るタイプだったので、自分で納得のいくものを探究したいと考えたのが製作のきっかけです。
2.当方のバレルは、材質・設計(内径や外形)・オプションの膨大な組み合わせから一人ひとりの需要や好み、こだわりに合わせて細かいカスタマイズに対応しているのが特長です。今回ご紹介いただいているバレルたちはその一例です。
3.製作していて特にやりがいを感じたエピソードといえば……楽器の音色はとても気に入っているのに市販品のバレルではどうしても合う長さがなくて周りとの合わせに苦労しているというお客さまから「これでこの楽器を無理なく使ってあげられる、ありがとう」と言って貰えたとき、この仕事やってて良かったなぁと思いましたね。

W&M Hybrid Screwについて
1.きっかけはサックスのネックスクリューで要望があったところから、試作を開始しました。作って自分で試したところ可能性を感じ、ほかのネジ類も作ってみようと思ってエンドピン留めネジ、サムレスト留めネジと種類を増やしていきました。
2.総金属製のものと比べるとどうしても華やかさは劣りますが、木材による温かみのある柔らかい響きが得られるのが最大の強みですね。特に、音の角が立ちすぎてキンキンした音になりがちでお困りの方にはオススメです。
3.セルマー用のエンドピン留めネジを開発した際、とあるプロ奏者の方にご協力いただいて各部分(軸やツマミ)のサイズを試行錯誤して現在の形になりました。なので特にこだわり抜かれた逸品になっています。

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