知られざるクラリネット・ギアの世界

革新的アイデアが生んだ次世代クラリネット・ギア24選

【設問】
①この仕事をされてどれくらいになりますか? また、前職について教えてください。
②製品のアイデアは、どのようにして生まれるのですか?
③一つの製品を仕上げるまでに、おおよそどれくらいかかりますか?
④製作をする上でのこだわりや、貫いていることがありましたら教えてください
⑤クラリネットの特性上、オリジナル製品を製作するうえで苦労していることなどあれば教えてください。
⑥今回紹介させていただく製品につきまして、以下の3点をそれぞれ教えてください。
 1.製作にいたったきっかけ
 2.製品の特長
 3.製作/開発時のエピソード
※敬称略・順不同

ART工房Nob/株式会社佐橋

①16歳の吹奏楽から始まり、18歳からビッグバンドにてトランペットを吹き、2000年ごろにモーリス・ベンターファの2ピースマウスピース(カップ部が木でレシーバー部が金属)を知りました。前職で入手していた銘木を利用した1ピースの木製マウスピースを製作し、テストを重ね2003年から趣味の延長戦で自己流の金管楽器用の木製マウスピースをインターネットで紹介し、インターネットのみで製造販売をスタートしました。
大学卒業後、家具屋でセールス及び販売担当としてサラリーマンをスタートし、ここで木の魅力と出会いました。その後営業職をメインに63歳まで勤め、2021年から個人事業主として木製マウスピース製作に本格的に取り組んでいます。
②これまでの経験と人や物との出会いから、趣味のトランペットで自分に合ったマウスピースを作りたいから始まり、加工技術への挑戦から、より精度の厳しいクラリネットのマウスピースへと行きました。付随するアイテムもより使いやすい物へとイメージを創造し、具現化するにはどうしたら、と考えます。老化防止も含め、日ごろのウォーキング中にも、花や木々、空を眺めながらも……何事にも興味を持てる事かな?
③なかなか一つの物を一気に作り上げる事ができないため明確な時間は分かりませんが、だいたい金管楽器用で1ヶ月ほど、クラリネットですと2~3ヵ月いただいています。
④1.木の素材:上質で美しい杢目 2.体に優しいこと 3.手作り
⑤サイズ的制限が多い楽器のため、工程ごとでの寸法確認と、加工手順、道具選択は常により良くなるよう考えています。特に中低音での鳴りがより木製の温かみがある深い響きとなるよう、各部の形状作りをしています。

1.昔にユーザーさまから来た「ポマリコのブビンガ材のクラリネットに同色のマウスピースが作れないか」というメールがきっかけで作ってみましたが、チューニングが低くなり十年以上中断していました。その後、クラシカル・クラリネットをご使用のユーザーさまが、世界でも作る職人さんがいないと私のところへたどり着かれたことがきっかけとなり、定年退職後で時間も取れるようになっていたので、中断していたクラリネット用木製マウスピースに着手しました。1年近く試奏を繰り返し、情報のやり取りをしながら2022年に完成させ、ベーム式、エーラー式、クラシカル用の販売を2022年5月からスタートさせました。
2.特に日本のクラリネットの世界は、かなりのこだわりを持たれている奏者さまが多く、硬派な楽器のイメージが強く感じられました。最近に来て少しずつ個性を表現されるようになり、リガチャーを始めとするアクセサリーを変えられる奏者さまが多くなってきています。一番変える事を可能とするマウスピースは発音の根源であるため、硬派の演奏者さまから見るとなかなか手が出せない(怖いような)物のように感じていますが、見た目の美しさはもちろんの事、特に中低音部での音の響きは他では出せない物と思っています。
3.1で記した物を参照ください

 

平埜空(スィエル・G製作者)

①大学のころから自分で少し楽器の修理や調整をしたり、リードやマウスピースを削ったりしていました。大学院を卒業した2007年ごろからリガチャー製作を試し、商品にできたのは2010年ごろからです。
②リガチャーの種類には金属派と革派の二つで大きく分かれています。昔、金属や革のリガチャーも作ってみましたが、その二種類の間の素材はどうなるかと思い、このリガチャーの製作を試してみました。今の形になるまでの失敗作リガチャーが家にたくさんたまっていますが、そのおかげでデザインには自信があります。
④リガチャーは楽器の一部として、演奏者が常に扱いやすく、望み通りの音を可能な限り長い期間作れるのが大変重要です。できるだけ長く使えるよう、変形しないように努めています。リガチャーの一つひとつを手作り、試奏しているのです。
⑤最初は自分のために作って吹いていましたが、他の方に試してもらったとき、何回も合わないと言ってくれました。製作者として、自分にとって吹きやすいかどうかは関係なく、最終的に使われている方の吹き方を想像しないといけません。自分のことは置いておいて他の方の好み、吹き方を研究することで今まで知らなかった奏法を知ることができ、勉強になりました。一人ひとり吹き方が異なりますが、多くの方に使っていただきたいと思いますので、いろいろ工夫してできる限り種類を増やしたいと思います。

1.②と同様です。
2.リードが安定しながら、自由に振動ができます。素材や巻数の種類が多いからどなたにでも合うものがあると思います。

 

高尾哲也(T-シリーズリガチャー製作者)

①広島交響楽団に入団して27年になります。その前はフリーで活動していました。リガチャーは製作し始めて三十数年になります。
②金属のリガチャーはよく響くが音が硬い。革や糸のリガチャーは音色が柔らかいが響きにくい。銅は響きが柔らかいがよく響く。その中でも銅線がもっとも音色が柔らかくよく響く。リードに接触する部分だけ銅線にしてもいいが、それ以外の部分も音色や響きに影響する。それならすべて銅線にしてしまえばいい。こういう発想です。
③1個あたり6~7分で製作し、鍍金業者に送ってメッキしてもらいます。
⑤通常のリガチャーとはまったく異なるため、使用方法に慣れてもらう必要があります。多くの人が響きや音色がいいと感じていますが、使用方法になじまない方もいらっしゃいます。

1.リードに接触する部分に銅線を渦巻き状にしたものを挟んだリガチャーを知り合いに作ってもらい使用していたが、すべて銅線にしたらどうだろうと思い製作した。
2.金属のリガチャーはよく響くが音が硬い。糸や革のリガチャーは音色が柔らかいが響きにくい。このリガチャーは銅線のみで作られているため、音色が柔らかいが同時によく響く。
3.1と同じ。

 

JLV(The Clarinet Shop)

① 元々はプロのサクソフォン奏者だったフランス人のジャン=リュック・ヴィニョオさんがリガチャーをはじめとするJLV製品を開発しています。(The Clarinet Shop店長 仕田敬一)
② ジャン=リュック・ヴィニョオさんは若いころから効率よく音を鳴らす研究をしていました。私が伺った話では、あらゆるものは締めつけると響きが止まってしまうということでした。例えば、ガラス製コップの表面を握りながらコップを叩くと音が響きません。マウスピースとリードもこういう関係であってほしいのですが、締めつけをゆるめていくとリードを押さえることができなくなるのと、マウスピースと密着していないから鳴らなくなります。この両方を同時に実現するための形として、あの独特のマウスピース2点支持、リードは4本足で支え、フレキシブルに動くものを考えました。今でも少しずつ改良していますので、初期のものとは加工法や材質など違う部分があります。(仕田敬一)
リガチャーについては、リードが波打つことを解決するために6年、リガチャーの開発には4年を費やしました。ジャン=リュック・ヴィニョオ
完成したあと、生徒、アマチュア、プロに試してもらい意見をいただき、皆さんが吹いている音を聴かせてもらいます。この3つのグループが同じ感覚を持ち、同じ意見になるように調整します。ジャン=リュック・ヴィニョオ
⑤ 苦労というわけではないですが、どうすれば少ない息の量で豊かな響きが得られるのかを常に考えています。(ジャン=リュック・ヴィニョオ)
⑥各製品についてそれぞれ記載いたします。
リガチャーについて
1. 楽器を吹き続けていくとリードが波打ってきます。これをどうにかしたいというのがきっかけです。(ジャン=リュック・ヴィニョオ)
2. 豊かな響きが得られ、リードが長持ちします。また、使えるリードが増えます。(ジャン=リュック・ヴィニョオ)
3. いろいろな素材を使っていますが、リング部分は仕上げが違うだけではなく組成から変えているそうです。見分けが付きやすいようにメッキの色を変えているだけだと聞いています。プラチナが高額なのは、リガチャー全体の金の含有量が非常に高いからです。リードを押さえるパーツなどもプラチナ用は他と金の含有量が違いますが、金メッキ用と見た目がほとんど同じなので見分けがつきません。触った感じだとブラックエディション用はかなり堅く、厚みは薄いです。(仕田敬一)

フォニック・リングについて
2. 上管と下管の間などを密着させるためのリングです。想像の域を出ないですが、響きのロスが非常に減っている印象を受けます。おそらく接合部がしっかりとジョイントされていないことでのロスをなくすとまではいかないと思いますが軽減させています。上下管の間にこのフォニック・リングを挟むと、上管と下管の響き方の差が小さくなっていると思います。特にベルの部分に着けると1番抵抗感が大きくなりますが、ラクに吹けて音が豊かになる感じがします。(仕田敬一)
3.どんな材料を使っているのか教えてもらえないので表面の黒いコーティング部分が何かわかりませんが、剥げた部分を見てみると素材は真鍮製だと思います。仕田敬一)

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