恩師ベネット先生への思い。私は「その瞬間」の音に集中し、息で歌い、語る。
首席フルート奏者の役目とは
指揮者の思っていることを自分できちんと理解して、それを音で表すということですね。それを通して指揮者も自分に対して信頼が生まれてくる、そういった良い循環を生むことがまず第一です。そしてフルートはいつも鳴っているし、高音域で聴いている方々の耳にもすぐに届くから、常にポジティブなエネルギーを届けていなければならないという気持ちでいます。
あとは、自分の仲間をどうサポートし、どういうふうに彼らの音をブレンドさせていくか。自分が助けてリードしていく、そういった役目を担っていると感じます。同じフルートのセクションでいえば、いつ入らなければいけないか、どういうようなピッチで吹けばいいのかなどを、彼らが不安にならないよう常に自分がリードしていくことも気を付けています。そして自身の演奏も高いレベルで維持していかなければならない重責は常に感じます。少しでも陰りがあると、周りの同僚や仲間が、自分のリードに対して懐疑的になってしまうからです。「今、合図したけど本当に入っていいの?」ということに繋がってしまうので、これは最大のプレッシャーであり責任だと思っています。ですから練習をたくさんします。

良い音楽を作るために
私はロングトーンを吹いているときもそういったことは常に考えているし、自分がどんどん集中していけばいくほど、瞑想のような状態になっていきます。そのほかに何かしなければいけないことがあるわけでもない、大事なことはなにもない。ただ一瞬、その瞬間にいい音を奏でることだけに集中していく。それが禅などに通じるものだと思います。あとは“わびさび”の表現方法。そこから出てくるものづくりや、枯山水などもすごく好きです。
もう一つは、フルートの教本を作りたいと考えています。私はアレクサンダー・テクニークを取り入れているので、それに関連付けて書きたいです。息をどう使うかということが、私が楽器を吹くうえでの一番の哲学になっているので、そこを中心にお話しする本を作りたいです。
絵を描く方は絵の具を使うし、陶芸をやる方は粘土を使うし、私たちは音楽を作るために息を使う。だから息というものが本当に大事なのだと感じています。
CONCERT REVIEW
ローナ・マギー フルートリサイタル2022(東京公演)
12/15(木)Hakuju Hall(東京)
[出演]ローナ・マギー(Fl)、石橋尚子(Pf)
[プログラム]J.S.バッハ(ストールマン編曲):イタリア協奏曲BWV971、C.ドビュッシー(E.バイノン編曲):牧神の午後への前奏曲、T.A.ヴィターリ (シャルリエ/L.マギー編曲):シャコンヌ、C.シューマン (L.マギー編曲):3つのロマンスOp.22、上林裕子:クリスタルの時、J.ゲーゼ:タンゴ・ファンタジア、アンコール/E.エルガー:朝の歌、R.アーン:クロリスに、P.タファネル:アレグレット グラジオーソ
冬の寒さも本格的になった12月、ローナ・マギーさんのフルートリサイタルが行なわれた。コロナ禍の影響もあったことから、近年はなかなか叶わなかった来日、待望の日本ツアーだ。東京公演が当日までに完売となるあたり、聴衆の期待値の高さも感じられる。
公演当日、その演奏に“想像以上”の感銘を受けたのは、きっと私だけではないはずだ。
1曲目のJ.S.バッハ『イタリア協奏曲』では快活さから緩徐楽章の嘆き悲しむ様子まで余すことなく表現され、楽器、身体、ホールの空間すべてが共鳴して響く。溶けるように混ざり合うマギーさんのフルートと、阿吽の呼吸で演奏するピアノ・石橋尚子さんとのアンサンブルがなんとも素晴らしい。
2曲目の『牧神の午後への前奏曲』。誰もが必然的に注目するだろう冒頭のフルートソロを朗々と歌い上げるマギーさん。その演奏はとても幻想的で、1曲目のJ.S.バッハとは違う質感を味わう。オーケストレーションとソリスティックな要素の両方をバランスよく感じさせるのは、マギーさんの音楽性が際立っているからこそであろう。
3曲目の『シャコンヌ』はマギーさん本人の編曲。ヴァイオリンが原曲の本作品を、フルートの幅広い音域を使って表現。ヴァイオリンの跳躍やボウイングを彷彿とさせる場面もあり、これがフルートで実現可能なことに大変驚いた。繰り返し現れるテーマを飽きさせず、毎回多様なニュアンスで訴えかける演奏は、和声感・技術ともに持ち合わせるマギーさんだからこそなしえるのだろう。
休憩をはさんでC.シューマン『3つのロマンス』。こちらもマギーさんご自身による編曲で、「この曲はクリスマスプレゼントとして作曲されたロベルトの同名曲に対する“お返し”だったのかもしれない」というプログラム・ノート(マギーさん執筆)も大変興味深かった。甘美なメロディをフルートで見事に作り上げ、音の質感や輪郭へのこだわりも感じ取れる。重厚感のある中低音と澄んだ高音が印象的だった。
続いて邦人作品『クリスタルの時』。今(12月)の季節にぴったりなこの作品をマギーさんの生演奏で聴けるのはとても幸運である。フルートにとってどんなに高音域でも、マギーさんの演奏には必ず「歌」があり、フレージングはもちろんのこと、テクニックもブレスも、すべてが音楽の中にある。残響までもが美しく、この作品の透明感が会場中に浸透していくようだった。
最後は『タンゴ・ファンタジア』。プログラム・ノートをあらかじめ熟読したが、大元となる曲にはなかなかに残酷で悲しい背景があることが分かる。実際に聴いてみても哀愁が漂いメランコリックな雰囲気が印象に残るが、中にはユーモアも少なからずあるように感じた。語るようなニュアンスが味わい深く、マギーさんの演奏は間も沈黙も絶妙で、まさに“自由自在”である。
ご本人の内面から溢れ出す「歌」や「語り」が大変魅力的なマギーさんの音楽。そして国内レーベルのアルバムをともに収録した石橋尚子さんとのアンサンブルは必聴だろう。これほどのボリュームにも関わらず「もっと聴いていたい」と思う、音楽を心から楽しんだ公演だった。











