フルート記事 恩師ベネット先生への思い。私は「その瞬間」の音に集中し、息で歌い、語る。
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THE FLUTE vol.192 Special Interview

恩師ベネット先生への思い。私は「その瞬間」の音に集中し、息で歌い、語る。

ARTIST

首席フルート奏者の役目とは

現在ピッツバーグ交響楽団で活躍されていますが、首席フルート奏者として日々心掛けていることを教えていただけますか?
L
まずは物理的にオーケストラの真ん中に座っているということがありますね。指揮者の真正面に座っているので(笑)。音楽的にリーダーとして引っ張っていかなくてはいけない、そういった気持ちは常に感じています。あとはやっぱり前向きに、決してネガティブにならないこと。
指揮者の思っていることを自分できちんと理解して、それを音で表すということですね。それを通して指揮者も自分に対して信頼が生まれてくる、そういった良い循環を生むことがまず第一です。そしてフルートはいつも鳴っているし、高音域で聴いている方々の耳にもすぐに届くから、常にポジティブなエネルギーを届けていなければならないという気持ちでいます。
あとは、自分の仲間をどうサポートし、どういうふうに彼らの音をブレンドさせていくか。自分が助けてリードしていく、そういった役目を担っていると感じます。同じフルートのセクションでいえば、いつ入らなければいけないか、どういうようなピッチで吹けばいいのかなどを、彼らが不安にならないよう常に自分がリードしていくことも気を付けています。そして自身の演奏も高いレベルで維持していかなければならない重責は常に感じます。少しでも陰りがあると、周りの同僚や仲間が、自分のリードに対して懐疑的になってしまうからです。「今、合図したけど本当に入っていいの?」ということに繋がってしまうので、これは最大のプレッシャーであり責任だと思っています。ですから練習をたくさんします。
お使いの楽器を教えてください。気に入ってる部分はどんなところですか?
L
Altus AL model です。音が一番素晴らしいですね。巻き管で作られているということもあります。古いルイロットと同じような感じの製法です。やっぱり音に温かみが乗る感じがします。それが一番ですね。
 

良い音楽を作るために

2014年に本誌のインタビューを受けてくださったときに、日本の禅は音楽にすごく通じるものがあるとおっしゃっていました。今でも日本の文化に触れることはありますか?
L
もちろんです。禅自体がアートに関連しているようなところがあります。禅の調和の取れた瞬間というのは、音楽にも通ずるところがありますね。例えば音楽を演奏するときに、その先にどんなに難しいフレーズが待っていても、そのことは考えない。そのときその瞬間、目の前にある自分が奏でている音に全神経を集中します。集中することはすごく大切です。「ここをうまく吹いて聴いている人たちによく思われたい」とかそういう余計なことではなくて、今この瞬間、この音をどういうふうにしたら綺麗に吹けるか、表現できるかにフォーカスしていくことが一番大事だと思います。「言うは易く行なうは難し」という話です(笑)。
私はロングトーンを吹いているときもそういったことは常に考えているし、自分がどんどん集中していけばいくほど、瞑想のような状態になっていきます。そのほかに何かしなければいけないことがあるわけでもない、大事なことはなにもない。ただ一瞬、その瞬間にいい音を奏でることだけに集中していく。それが禅などに通じるものだと思います。あとは“わびさび”の表現方法。そこから出てくるものづくりや、枯山水などもすごく好きです。
コロナのパンデミックを経て、音楽活動は以前の形に戻ってきていると思います。これからどんな活動をされていきたいですか?
L
いくつか考えているプロジェクトがあります。同じピッツバーグ交響楽団の2番フルートのジェニファー・スティールさんと一緒に、デュエットのCDを米国内で発売したいなと思っています。彼女は、もうこれ以上望めないっていうくらいに最高の2番フルート奏者です。私がやっていることに反応してくれて、そこが一番いいなと思います。
もう一つは、フルートの教本を作りたいと考えています。私はアレクサンダー・テクニークを取り入れているので、それに関連付けて書きたいです。息をどう使うかということが、私が楽器を吹くうえでの一番の哲学になっているので、そこを中心にお話しする本を作りたいです。
絵を描く方は絵の具を使うし、陶芸をやる方は粘土を使うし、私たちは音楽を作るために息を使う。だから息というものが本当に大事なのだと感じています。
ありがとうございました。
 

CONCERT REVIEW

ローナ・マギー フルートリサイタル2022(東京公演)

12/15(木)Hakuju Hall(東京)
[出演]ローナ・マギー(Fl)、石橋尚子(Pf)
[プログラム]J.S.バッハ(ストールマン編曲):イタリア協奏曲BWV971、C.ドビュッシー(E.バイノン編曲):牧神の午後への前奏曲、T.A.ヴィターリ (シャルリエ/L.マギー編曲):シャコンヌ、C.シューマン (L.マギー編曲):3つのロマンスOp.22、上林裕子:クリスタルの時、J.ゲーゼ:タンゴ・ファンタジア、アンコール/E.エルガー:朝の歌、R.アーン:クロリスに、P.タファネル:アレグレット グラジオーソ

冬の寒さも本格的になった12月、ローナ・マギーさんのフルートリサイタルが行なわれた。コロナ禍の影響もあったことから、近年はなかなか叶わなかった来日、待望の日本ツアーだ。東京公演が当日までに完売となるあたり、聴衆の期待値の高さも感じられる。
公演当日、その演奏に“想像以上”の感銘を受けたのは、きっと私だけではないはずだ。
1曲目のJ.S.バッハ『イタリア協奏曲』では快活さから緩徐楽章の嘆き悲しむ様子まで余すことなく表現され、楽器、身体、ホールの空間すべてが共鳴して響く。溶けるように混ざり合うマギーさんのフルートと、阿吽の呼吸で演奏するピアノ・石橋尚子さんとのアンサンブルがなんとも素晴らしい。
2曲目の『牧神の午後への前奏曲』。誰もが必然的に注目するだろう冒頭のフルートソロを朗々と歌い上げるマギーさん。その演奏はとても幻想的で、1曲目のJ.S.バッハとは違う質感を味わう。オーケストレーションとソリスティックな要素の両方をバランスよく感じさせるのは、マギーさんの音楽性が際立っているからこそであろう。
3曲目の『シャコンヌ』はマギーさん本人の編曲。ヴァイオリンが原曲の本作品を、フルートの幅広い音域を使って表現。ヴァイオリンの跳躍やボウイングを彷彿とさせる場面もあり、これがフルートで実現可能なことに大変驚いた。繰り返し現れるテーマを飽きさせず、毎回多様なニュアンスで訴えかける演奏は、和声感・技術ともに持ち合わせるマギーさんだからこそなしえるのだろう。
休憩をはさんでC.シューマン『3つのロマンス』。こちらもマギーさんご自身による編曲で、「この曲はクリスマスプレゼントとして作曲されたロベルトの同名曲に対する“お返し”だったのかもしれない」というプログラム・ノート(マギーさん執筆)も大変興味深かった。甘美なメロディをフルートで見事に作り上げ、音の質感や輪郭へのこだわりも感じ取れる。重厚感のある中低音と澄んだ高音が印象的だった。
続いて邦人作品『クリスタルの時』。今(12月)の季節にぴったりなこの作品をマギーさんの生演奏で聴けるのはとても幸運である。フルートにとってどんなに高音域でも、マギーさんの演奏には必ず「歌」があり、フレージングはもちろんのこと、テクニックもブレスも、すべてが音楽の中にある。残響までもが美しく、この作品の透明感が会場中に浸透していくようだった。
最後は『タンゴ・ファンタジア』。プログラム・ノートをあらかじめ熟読したが、大元となる曲にはなかなかに残酷で悲しい背景があることが分かる。実際に聴いてみても哀愁が漂いメランコリックな雰囲気が印象に残るが、中にはユーモアも少なからずあるように感じた。語るようなニュアンスが味わい深く、マギーさんの演奏は間も沈黙も絶妙で、まさに“自由自在”である。
ご本人の内面から溢れ出す「歌」や「語り」が大変魅力的なマギーさんの音楽。そして国内レーベルのアルバムをともに収録した石橋尚子さんとのアンサンブルは必聴だろう。これほどのボリュームにも関わらず「もっと聴いていたい」と思う、音楽を心から楽しんだ公演だった。

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フルート奏者カバーストーリー