THE FLUTE ONLINE連載

山元康生の吹奏楽トレーニング!│第5回

新型コロナの影響で延期になった2020年の吹奏楽コンクール。課題曲はそのままスライドして、今年2021年に開催される予定です。
今からフルート演奏の基礎を見直して、「良い音」「正しい音程」「音量のコントロール」「正確で俊敏な指使い」を手に入れられるトレーニングをしてみませんか?

♪♪♪

今回は音量のコントロールについて掲載します。

フルート奏者なら誰でも、よく鳴った美しい音を正しい音程で吹きたいと思うのは当然です。しかし、それが思い通りにならないのも事実です。
第3回の「音作り」と第4回の「ハーモニクス」で、力を入れるべきところ、抜くべきところが分かってきたと思いますので、今回はそれらを発展させたエクササイズを練習していきます。

「音質」と「音色」

第3回で「構えの圧力」と「お腹の圧力」が大切であると書きました。そのために、足部管の端を握って前方に押す「デボスト式」を紹介しました。

どうして圧力をかけて楽器を顎に固定しなくてはならないのか、という理由を説明しておきます。

その理由は大きく2つありますが、そのうちの1つは唇と歌口のエッヂ-Edge(刃物の「刃」という意味でフルートでは頭部管の穴の向こう側を指します。管の内側に入る息と外側に逃げる息が分かれるところです)の距離を常に一定にするためです。

音や音域、強弱の違いによって距離が変わってしまうと、均一な音質が得られず音が不安定になります。

また、構える圧力が弱いと指使いが速くなったり、音域が変わったときに唇に力が入ってしまいます。

理由のもう1つは、唇とエッヂの距離を近くするためです。

突然フルートに関係ない話になりますが、弓道場に立ったことはありますか? 私は立ったことはありませんが、横から見たことがあります。的は直径1メートルあるそうです。しかし弓を射るのは60メートル離れた場所なので、的は10円玉のように見えると思います。
弓道を行なう方々は、大変難しいことをやっておられるのですね!

ちなみに、アーチェリーの的は直径122センチメートル、距離は70メートルということですから、感覚的には弓道と同じぐらいしょうか? 60メートルの距離から弓道の経験のない私が射ても、的に当たるどころか的がある所まで矢が届かないかもしれませんね。

そこで、的を私から1メートルくらいの所に置いたらどうでしょうか? これなら私でも的に当てられるかもしれません。

さて、ここで話をフルートに戻します。

フルートに吹き込む息の流れは、唇を出た瞬間が最も速くて圧力があります。ちなみに「息の流れ」を英語ではAir stream、フランス語ではColonne d’Air(空気の柱)と呼びます。

その息の流れは、唇から遠ざかるほど拡がって速度が落ちていきます。圧力をかけないで楽器を構える人は、遠いエッヂまで唇を絞って空気の柱が太くならないように頑張ります。60メートルの距離から弓を射るような難しい奏法です。しかし、その奏法だと音が響かなくなり、音程が極端に悪くなります。

圧力をかけて楽器を構えて唇とエッヂの距離を近くするとどうでしょうか? 息は唇を出てからすぐにエッヂに当たって音になるので、唇を絞る必要がありませんね。自分の1メートル前に的を置いた状態です。

簡単な奏法を選んだほうが楽ではないですか?

ただし、頭部管を自分側に回して距離を近くすることのないように注意してください。歌口を半分以上ふさぐと、音が暗く音量が出なくなって音程も悪くなります。



まず、大きな音を出すことができるようになりましょう。
もちろん良い音質・音程でなくてはなりません。
ここで「音質」と「音色」の違いについて書いておきます。
CDで、巨匠たち……例えば、ランパルとニコレとゴールウェイによる演奏を聴いたとき、誰でも、それぞれが明らかに違うと分かります。

ジャン=ピエール・ランパル
オーレル・ニコレ
ジェームズ・ゴールウェイ

それは、それぞれの巨匠が特徴的な音色を持っているからだと思います。もちろん聴く人によって音色の好みは違いますので好き嫌いはあると思いますが、その巨匠たちのすべての音がすばらしいのは、音質が良いからです。

日本語で「音質」と「音色」と言うと、言葉が似ていて違いが分かりにくいのですが、英語だと「音質」は「Quality」「音色」は「Color」になります。つまり、ランパル、ニコレ、ゴールウェイの音色-Colorは大変違いますが、それぞれの音質-Qualityがすばらしいので良い音と言えるわけです。

音質-Qualityとは、フルートの場合、息がムダにならず、効率良く音になっているかどうかだと私は思います。

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山元康生

山元康生│Yasuo Yamamoto
1980 年、東京藝術大学音楽学部器楽科卒業。同年6月渡米し、ニューヨークでのジュリアス・ベーカー氏のマスタークラスに参加し、ヘインズ賞を受賞。その後2ヵ月間にわたってベーカー氏に師事。1982年、宮城フィルハーモニー管弦楽団(現・仙台フィル)に入団。1991年より、パリ・エコールノルマル音楽院に1年間学ぶ。1997年から度々韓国に招かれマスタークラスやコンサートを行なう。また、2006年にはギリシャとブルガリアにてマスタークラスとコンサートを行なう。2002年、Shabt Inspiration国際コンクール(カザフスタン)、2004年、Yejin音楽コンクール(韓国)、仙台フルートコンクールに審査員として招待される。

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