THE FLUTE ONLINE連載

山元康生の吹奏楽トレーニング!│第5回

無理なく良い音を作るために

では、実際のトレーニングを始めます。

まず、無理なく大きな音が出せるようになりましょう。

譜例1

譜例1にあるように、かなりゆっくりとした、幅の広いヴィブラートを付けて最大音量で吹きます。実際の演奏にはありえないヴィブラートですが、トレーニングとして行なってください。最大音量で吹くことによって、自分の能力を伸ばすことができます。

これはスイスの巨匠、ペーター=ルーカス・グラーフ氏が勧めていたトレーニング方法です。

他にも、元・ベルリンフィル首席奏者のアンドレアス・ブラウ氏は「毎日、必ず最大音量での音作りを行なう」とインタビューに答えていましたし、私が初めて習った外国人の先生、ジュリアス・ベーカー氏(元・ニューヨークフィル首席奏者、元・ジュリアード音楽院教授)は著書『Daily Exercises for the Flute』の中に、ffで均等なヴィブラートをつけたエクササイズを載せています。

ペーター=ルーカス・グラーフ
アンドレアス・ブラウ
ジュリアス・ベーカー

ここで、基本的な注意点をあげておきます。
第3回の連載に書いたことと重複する点もありますが、もう一度確認してください。



①頭部管は顎のくぼみにリッププレートの広い面積を、右手親指でしっかり圧力をかけて構えてください。

右手親指は楽器の下から支えるのではなく、自分側を前方に押します。これは、たくさんのフルーティストが重要であると教えていて、前述のジェームズ・ゴールウェイ氏やミシェル・デボスト氏は、それぞれの著書に書いています。



②唇の両端は、やや下に引いて、中央はリラックスさせます。

前述のゴールウェイ氏が、たくさんの聴衆の前で教えている興味深い動画がYouTubeにあります。残念ながらすべて英語で、日本語の字幕がないので私には良く解りませんが、その中でゴールウェイ氏が私にも解る英語で「Smiling enbouchure is really no good」(微笑んだようなアンブシュアは本当に良くない)と教えています。

同様に、ミシガン大学教授のエイミー・ポーター女史は「不機嫌なときのように唇の両端を下げて」と教えています。

息の方向については、イギリスの名教師トレヴァー・ワイ氏が、著書『フルート教本』の中で何回も「息の流れが上を向かないように」と書いています。

なぜでしょうか?

答えは簡単!頭部管の歌口は唇より下にあるからです。

顔を上げて吹いていると、息は前に出ているように見えますが、実際は下に出ているのです。息を前や上に出す人は、歌口がないところに吹いても音が出ないので、音を出すために、うつむいてしまいます。

うつむかないように注意しましょう。また、顎や下唇を前に出さないように。当然、上唇は下唇より前に出た状態になります。こうすることによって、息の柱の太さを保つことができます。

上下の唇はリラックスさせてください。下の唇を固くすると、せっかく圧力をかけて唇からエッヂまでの距離を近くしようとしても、エッヂが遠くなってしまいます。


③唇の中央は絶対に固くしないでください。

音量を出したいときに唇を固くしがちになります。
私の学生時代の恩師、小泉剛先生(元・読売日本交響楽団首席)は「唇は暖簾(のれん)のように」と教えてくださいました。

藝大時代の恩師、小泉剛先生
 

当然のことですが、暖簾は自分自身で動く力はありません。強い風が来ると大きくなびきますが、弱い風のときは少しだけです。

同様に、fでたくさんの息が出るときには上唇は息の力で大きく開かれなくてはなりません。出て行く息を上唇によって制限してはいけないわけです。

「去るものは追わず」という言葉があります。fで吹くときには「出て行く息は遮らず」と意識してください。



④口の中は狭くしたほうが鳴りが良くなります。

また、次回以降に連載する音程のコントロールやタンギングも容易になります。



⑤お腹からの圧力を常に意識してください。
第3回の記事にある「逆ボクシング式」を、もう一度確認しましょう。

水または空気が入ったポリ袋をイメージしてみてください。片手でポリ袋の口を握って、もう一方の手でポリ袋の底を持ち上げると、ポリ袋の口から中の水や空気が勢いよく出ますね。これが「ボクシング式」です。

ポリ袋を机の上に置いて上からポリ袋を握った手で下に押し付けると、やはり水や空気が勢いよく出ます。これが「逆ボクシング式」。これをイメージしてください。

フルートや声楽の先生の中に「体の重心を下げて」と教える方がいます。人間の体の重心など簡単に変わるものではないので、第3回に述べた迷信のような教え方ではありますが、「逆ボクシング式」を実行するためにイメージすると、ある程度有効かもしれません。

譜例1ではG1以下の音域だけを示しましたが、第3回の2ページ目にある譜例を見て、すべての音域を最大音量でトレーニングしてみましょう。
★…がつけられたところでは、右手で足部管の端を握って前方に押してください。
前述のアンドレアス・ブラウ氏もジュリアス・ベーカー氏も、超一流の完璧なオーケストラ奏者でしたので、高音域をfで吹いたときに音程が上がるような吹き方はしなかったはずです。

恩師、小泉剛先生は「良い吹き方をしていれば音程なんて自然に合ってしまうんです」と、おっしゃっていました。事実、学生時代に読響を何度も聴きに行きましたが、小泉先生の音程、音量は常に完璧にコントロールされていました。

こういう実力・実績のあるフルーティストたちの練習方法や教え方には重みがありますね!

fで柔軟で良く響いた吹き方ができるようになったら、pでも良い音で吹くことができるようになりましょう。



まず、次の3つの事ことを心に留めておいてください。



《1》pfより難しい

《2》ディミヌエンドはクレッシェンドより難しい

《3》subito psubito fより難しい(注 subito p 読み:スビットピアノ 意味:急に弱く)

>>次のページへ続く

 

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