木村奈保子の音のまにまに|第13号

ブルーノートのレジェンドたちに感じる「アーチスト・ファースト」

音楽映画というと、マーチン・スコセッシのような音楽的に洗練されたベテランの映画監督が撮るとは限らず、新進監督が手掛けることもあり、作品の当たり外れがある。好きなミュージシャンや音楽ジャンルを扱っていても、監督の視点が甘すぎたり、浅すぎたり、使用できる映像が不足すると、ドキュメントの価値は低い。

最近の「ブルーノート・レコード ジャズを超えて」(2019,米)は、本作がデビュー作となるソフィー・フーバー監督が、ブルーノートレーベル設立80周年を機に、その歴史を振り返る傑作ドキュメント。私はあえて劇場で鑑賞したが、思いを持つジャズファン世代の人々で、渋谷の夜の席は全部埋め尽くされていた。

 

 

第2次世界大戦時に、ドイツからアメリカに移住した二人の白人のジャズファンが、NYで「ブルーノート」レコードを立ち上げるところから始まる。彼らは、プロデューサーぶらず、素直にファンで、演奏者に指図はしない。ジャズとアーチストがとにかく大好きで、一緒にいるだけで嬉しくてたまらない。これが原点だ。

アーチストが、どうやれば受けるか、ヒットするか、儲かるか、などとは考えない。ただ、演奏者のためにスタジオを準備し、心の赴くままに演奏した曲をせっせと録音していく。それだけだ。

 

まさに、「アーチスト・ファースト」の精神がそこにある。

「彼らは、心の真実を求めた。音楽を求める心の真実だ。心は、時代に動かされていく」

「ブルーノートのレコードを聴くと、彼らが何のために、何を求めて戦っているのかがわかる」

 

4作目
「On the Avenue」

*74年発表、スティーヴィ・ワンダーの名曲"Golden Lady"のカヴァーを収録したジャズ・ファンク名盤。ブルーノートからリリースされた第4作目は、“On the Avenue”でした。[Youtube:https://youtu.be/BWEf6eCpL84

 

映画は、若手の「ブルーノートオールスターズ」と、ジャズレジェンドのハービー・ハンコック、ウェイン・ショーターのセッションを中心に、歴代のアーチストらがブルーノートとともに歩んだ音楽の歴史を感動的なセリフで証言していく構成である。

音楽ドキュメントで好きなポイントは、集められた映像、掘り出しの音源を見聴きするほか、音楽家たちの人生哲学が、常に生き生きとしたセリフで語られるところ。彼らは"音"を主体に生きているのに、思想や生き様を、実に深みのある"言葉"でも表現できる。

音楽ドキュメントでは、そんな表現者たちの思いが言葉で語られる魅力がある。

何より、始まりは、ユダヤ人ビジネスマンによる黒人ミュージシャンへの愛とリスペクトであり、「アーチスト・ファースト」を謳う姿勢が、清く美しい。もちろん、いつまでもこの状態が続くわけではない音楽ビジネスの現実も描かれていくのだが…

私がメディアの仕事を通じて、感じてきたのは、日本では、「アーチスト・ファースト」が最も生かされにくい土壌ではないかということだ。テレビに出る、レコードを出す、ステージに出るなど、ポピュラリティーを求めると、アーチストを牛耳る企業側、スタッフ側の力こそ絶大だ。

自分で勝手にアイドルにはなれないし、プロ活動にもサポートが必要だ。ビジネスマーケットのなかで、エンタテイメントのあり方は裏方により計算され、作られていく。そのなかで、エンタテイナーに選ばれた人は、その範囲でやるべきことを受け入れるか否か。

エンタテイナーを仕立て上げる裏方が、より確実なビジネス形態を作っていくことで、エンタメ界は保たれていくというビジネスセンスに、もはや疑問はないのだろう。

そうしたビジネスマンは、本作のアーチストを見て、どう思うのか。"日本には、そういうアーチストはいないから、関係ない。"ということか?
 
かくして、日本映画のエンディングに、ビジネスマーケットで用意されたアイドルのコマーシャルソングが、とってつけたように流される。なぜか、監督や制作者が求めたとは思えないアイドルが、必ず一人、主演に用意される。アートかどうか、の前に、プロモーションビジネスありきの状態だ。

こうしたビジネスキャスティングで、アートの本質からはどんどんかけ離れていく。どうして、権力しかもてない凡庸な人物が、エンタメを仕切るのか?才能、センスのないスタッフが、アーチストと客の間に存在すると、質が落ちると考えるのは私だけではないだろう。せめて、スタッフは、アーチストのファンであってほしい。
 
私が、映画の番組制作を始めたとき、演出スタッフとして、「俳優・ファースト」を貫いたことだけは、間違っていなかったと思う。

一方、自分が出演する番組を数え切れないほどこなしてきたが、素晴らしいスタッフは、能力があっても、「出演者・ファースト」で、影になってサポートをするタイプの人であり、歓迎できないのは、仕切りたがりの権力志向の人である。

現場のディレクターやプロデューサーで、権力しかもてない凡庸な人物がいる。彼らが出演者に忖度され、勘違いすると、個人的な権力に溺れ、文化基準は下がる一方だろう。

昨今、さらに問題となっているのは、報道番組の制作スタッフや出演者の気骨さえ失われかねないほど、権力者たちの支配が見え隠れしている状況だ。

アートもジャーナリズムも、心の真実に向かうべきだ。そういう人々の顔は、例え自己の人生につまずきがあっても、汚れていない。他方、権力で嘘に向かうと、その顔つきは、隠しようもなく醜い。心がけが顔に出るという美醜問題に昔は気づかなかったが、最近とみにそれを感じるようになった。

さて、映画の予告編にも使われた、ブルーノートのミュージシャンについての印象深いセリフを再度、紹介する。

「彼らは、心の真実を求めた。音楽を求める心の真実だ。心は、時代に動かされていく」

「ブルーノートのレコードを聴くと、彼らが何のために、何を求めて戦っているのかがわかる」

何かを求めて戦うことの美しさを、ブルーノートのレジェンドたちから感じ取りたい。

 

『ブルーノート・レコード ジャズを超えて』

ブルーノート・レコード ジャズを超えて

マイルス・デイヴィスからノラ・ジョーンズまで、80年にわたりジャズをリードしつづける革新的レーベル「ブルーノート・レコード」。レアなアーカイヴ映像、そして歴代のブルーノートのアーティストたちや、レーベルと密接に関わった人々との対話を通じて、80年にわたり世界中の音楽ファンを魅了しつづけるジャズ・レーベルの真実に迫る傑作ドキュメンタリーだ。

 

≪Bunkamuraル・シネマ 上映スケジュール≫
◆10/10(木)までは上映予定
[~10/3(木)] 10:30 / ★20:45〜(終)22:10
[10/4(金)〜10/10(木)] 11:00 〜(終)12:40
★マークのある回は予告編なし、本編からの上映

https://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/19_bluenote.html


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LAの楽器フェア開催後、ジャズ・ファンクのレジェンド、フィル・アップチャーチさんの自宅に集合。
凄いメンバーが集まり、奥様の歌手、ソーニャさんも私のヴォーカル参加を許してくれたというのに、あろうことか、私だけが当日高熱を出して、ダウンしました!!やはり、神は許さないのであ~る!!


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PHILL UPCHARCH 
&Yutaka Sasaki(NAHOK Adviser、Drummer)

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