クラリネット記事
The Clarinet vol.76 Cover Story│チャールズ・ナイディック&大島文子

基礎や高度なテクニック、そして哲学も学べる、北軽井沢ミュージック・セミナー

クラシックから現代音楽までを高いレベルで演奏する、世界的なクラリネット奏者のチャールズ・ナイディックさん。1982年のミュンヘン国際音楽コンクール(最高位)に加え、1985年にアメリカで最も権威のあるナウムバーグ・コンクールで優勝したことで名実ともに世界のトップクラス入りを果たし、現在では最も魅力的なヴィルトゥオーゾの一人として世界的に認められています。そして、彼の一番弟子であり、妻でもある大島文子さんも世界的に活躍されているクラリネット奏者です。
そのお二人はともに、2005年より毎年夏季に開催されている北軽井沢ミュージック・セミナーを主宰しています。クラリネットの基礎から高度なテクニックまで技術的なことはもちろん、「演奏するとはどういうことか?」を徹底的に学べる講習会として、国内だけでなくアジアやアメリカなど海外からの参加者も多く、高い人気を誇っています。今年はコロナ禍により日本国内からの参加のみとなり、会場も石森管楽器に変更されましたが、開催することを決定。このセミナーのために来日したお二人をキャッチしました!
撮影:井村重人

生徒のために始めたセミナー

今回の来日は2005年より毎年夏に開催している北軽井沢ミュージック・セミナーのためですね。このセミナーを始めた経緯は?
大島文子
(以下O)
私と彼(チャーリー)は霧島国際音楽祭でマスタークラスの講師をしていました。その活動は12年続き、ありがたいことにずっと通い続けている方もいました。2005年も当然開催されると思っていましたが、その年の4月ごろに中止の連絡がありました。我々は中止になっても大きな影響はありませんが、待っている生徒さんがいるので急きょセミナーを企画したんです。
どこで行なうかを考えていたとき、北軽井沢に私の両親が購入した別荘があったので、そこを拠点にできないかといろいろ調べていたら、私の母校である桐朋学園の合宿所がありました。そこは、桐朋学園OBの親族が寄付を集めて北軽井沢に作った「北軽井沢ミュージックホール」という名称の音楽ができる空間でした。実は桐朋学園で最後に合宿を行なったときに私も参加していたんです。建てられた当時はこのホールでコンサートなども行なわれていたのですが、しばらくするとこの建物が長野原町に寄付されました。そのときすでに建物自体が傷んでおり、ほとんど管理されていなかったようです。
そして、2005年に私はこの建物がどうなっているのか長野原町に確認して、使いたいと話しました。雨漏りがするし使わないほうがいいと言われたのですが、説得して開けてもらいました。しかし、建物の痛みがひどかったので修繕費用の寄付金を集めるため、セミナーの前日にベネフィットコンサートを開催しました。このコンサートを地元の新聞に大きく取り上げていただきました。あとから聞いた話では、新聞に掲載されたことで長野原町役場に電話が殺到したそうで、その後修復のための予算が組まれたそうです。
北軽井沢ミュージック・セミナーの内容、特徴を教えてください。
チャールズ・ナイディック
(以下C)
コロナ前は10〜12日間行なっていました。参加者の年齢制限は設けず、オーディションなども行なわず先着順にしています。
O
内容は私のレッスンが2回、チャーリーのレッスンが2回、それからゲストのレッスンが1回の計5回。また、私は基礎練習法、チャーリーのレクチャーも2〜3回あり、クラリネットアンサンブルも行ないます。最後の3日間は地元の方々を招待して生徒のコンサートを開催しています。
2020年の夏からはコロナ禍によりオンラインでセミナーを行なっています。韓国、中国、日本、アメリカ、ヨーロッパと参加者がいるのですが、時差があることでスケジュール調整が大変でした。今年7月もすでにオンラインセミナーを行ないました。
それに加えて今回は期間を短くして北軽井沢でやろうと考えていましたが、参加者は1週間ほど共に生活をすることになるのでコロナウイルス感染のリスクが高いと考え、東京に通える人だけを対象に石森管楽器さんの協力のもと開催することができました。
 

>>次のページに続く
・センセーショナルな演奏
・モパネの音色は素晴らしい

 

チャールズ・ナイディック Charles Neidich
現在最も聴衆を魅了するアーティストであると言われるチャールズ・ナイディックは、「ニューヨーカー」誌において「クラリネットの達人であり、もはやクラリネット奏者の域を超えている」と評されるように、最も魅力的なヴィルトゥオーゾの一人として世界的に認められている。魅惑的な美音と目もくらむほどのテクニックは、世界の批評家はもちろん、音楽仲間からも、満場一致の賞賛を得ている。 母親にピアノを、7歳からは父親にクラリネットを習う。17歳の時にクラリネットの指導者として高名なレオン・ルシアノフに師事。イェール大学で文化人類学を学んだ後、旧ソヴィエト連邦への初のフルブライト奨学生としてモスクワ国立音楽院に留学。クラリネット奏者のボリス・ディコフ、及びピアニストのキリル・ヴィノグラドフに師事した。1982年ARDミュンヘン国際音楽コンクールで最高位(1位なし2位)を獲得。1985年にはアメリカで最も権威のあるナウムバーグ・コンクールで優勝し、ソリストとしての地位を確立した。最近は指揮者としても意欲的に活動を行なっており、東京フィル(指揮者、ソリストの二役)、兵庫芸術文化センター管弦楽団(指揮者、ソリストの二役)、サンディエゴ交響楽団(指揮者、ソリスト、作曲家の三役)、アヴァンティ室内管弦楽団、ヘルシンキのタピオラ・シンフォニエッタ、ニュー・ワールド交響楽団、ブルガリアのプロヴディフ・フィル等を指揮した。後進の指導にも熱心で、ジュリアード音楽院、ニューヨーク市立大学、マンハッタン・スクール、マネス音楽大学で教えている他、これまでにフィンランドのシベリウス・アカデミー、エール音楽院、ミシガン州立大学の客員教授も歴任。世界中からマスタークラスの要請がある。

 

大島文子 Ayako Oshima
ソロクラリネット奏者及び室内楽奏者である大島文子は桐朋学園大学音楽科を卒業後、アメリカ、イーストマン音楽院に留学。その後、第2回日本管打楽器コンクール第2位、第55回日本音楽コンクール第1位、第17回ベオグラード国際コンクール第3位および聴衆と批評家が選ぶベストパフォーマーに贈られる「ゴールデンハープ賞」を受賞。1989年のカザルスホールでのリサイタルを始め、日本各地で数多くのソロリサイタルを行なう。夫のクラリネット奏者チャールズ・ナイディックとともに古楽管楽器アンサンブル「モッツァフィアット」を結成。これまでに東芝EMI(ソロアルバム)、ビクターエンターテインメント、ソニークラシカルよりCDをリリース。全曲アメリカ人の作曲家による3枚目のソロアルバム「American Snapshots 時空をこえて」を姉の大島直子とオクタヴィアレコードよりリリース。「レコード芸術」「音楽の友」各誌に取り上げられ、朝日新聞では今月の10枚に選ばれる。現在ニューヨークを拠点とし、世界でも数少ない現代クラリネット及び古楽器クラリネット奏者として、日本、アメリカ、ヨーロッパ各地で演奏活動を行なっている。また、2005年より毎年夏に北軽井沢において姉直子とミュージックセミナーを開催。さらに、2006年、2007年はサイトウ・キネン・オーケストラのメンバーに選ばれるなど、多方面に活躍している。指導者としてもジュリアード音楽員講師、およびニューヨーク州立パーチャス音楽院助教授、2022年秋にコネチカット州のハートフォード大学のハート音楽院で准教授に就任。

 
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