クラリネット記事
The Clarinet vol.58 Cover Story│コハーン・イシュトヴァーン

クラリネットのリストを目指して

昨年立て続けに国内のコンクールで第1位を受賞、一躍日本のクラリネット界のニューヒーローに踊りでたコハーン・イシュトヴァーン氏。ハンガリー出身の彼が日本を活動の舞台に選んだ理由、そしてリストとパガニーニを尊敬すると語る彼の素顔に迫った。
写真:橋本タカキ 協力:株式会社ヤマハミュージックジャパン

とてつもないエネルギーを注ぎ込んだコンクール

コハーンさんは昨年、第4回秋吉台音楽コンクール、第26回日本木管コンクール、そして第84回日本音楽コンクールのクラリネット部門において第1位を受賞されました。おめでとうございます。まずは喜びの声をお聞かせください。
コハーン・
イシュトヴァーン(以下K)
今までたくさんコンクールを受けてきましたが、2015年はコンクールを受ける最後の年にしようと決めて臨んだので、多くのエネルギーを注ぎ込んだ年でした。もちろんすべてがうまくいくようにという強い思いがあってのことでしたが、去年はとにかく必死だったので、その大きさがわかりませんでした。コンクールが終わってから、そこにどれだけ大きなエネルギーが注ぎ込まれたかということを実感することができて、うれしい気持ちと同時にホッとした気持ちになりました。
例えば3年前に同じような状況にあったとしても、絶対成功できなかったということは確信しています。私は天才でも特別な人でもないので、たくさん努力したことが報われたのだと感じています。
コンクールだけでなく、コンサートも学業もこなしながらで大変だったのではないですか?
K
本当に忙しいというのは感じていましたが、辛い忙しさではありませんでした。いつも課題やコンクール、コンサートがあったので、毎回達成感がありました。昨年は、10月の日本音楽コンクールが終わるまではコンサートがたくさんありましたが、コンクールが終わった後の2ヶ月間は3つしかコンサートがなかったので、今まで忙しかった分、逆に「どうしよう」となりました。
でも冷静に考えれば、練習しなければいけないですし、曲を書きたいという気持ちもあります。未来に向けて新しいプロジェクトなどもいろいろ考えなければならないと思っているので、そこは今後も充実させていきたいと思っています。

父の背中を追って励んだクラリネット

コハーンさんが、クラリネットと出会ったきっかけは何ですか?
K
私の父がクラリネット奏者ということもあり、生まれた時から常に身近にクラリネットがありました。なので、この質問は私にとって両親と出会ったきっかけは何ですかと訊かれているのと同じような感覚です(笑)。保育園くらいの時からすでに楽器に触りたかったのですが、まだ小さいからと止められていました。子どもの時からいつも目標として父のようになりたいと思っていました。
母はフルーティスト、祖父はファゴット奏者でした。全員プロフェッショナルです。ハンガリーでは音楽一家に生まれた子どもは音楽をやるという習慣があります。そのような一家では、子どもに楽器をやらせたい時に他の先生に頼むことが多く、父もよく指導を頼まれていました。ただ、私の場合は父が直接教えてくれました。一度も厳しいと思ったことはないですが、他の友だちに言わせると特別厳しく教えているように感じたそうです。
クラリネットを自分の職業にしようと考えたのはいつ頃でしたか?
K
何度かそう考えたことがあります。最初は9歳の時に初めて舞台に立った時です。その時に経験した、大勢のお客さんとの音楽でのコミュニケーションは今でも覚えています。「こういう世界があるんだ、もっと勉強したい」と思ったのが最初の経験です。その後12歳のとき、バルトーク音楽院という日本では高校にあたる学校に英才教育のコースで入学しました。そこでさらに本格的に音楽を勉強し始めたのですが、みんな本格的に音楽を学んでいる人たちばかりなので、もっと勉強しなきゃとスイッチが入りました。その後リスト音楽院に進んで、卒業したのが21歳だったのですが、その頃に周囲の後押しなどがあって、本格的にプロとしてやろうと心に決めました。

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・初めてのメンテナンスは日本で!
・大作曲家たちを魅了したハンガリーの音楽
・目指すはリストの後継者!
・すべての基本はスケール
・クラリネットがソロ楽器として輝く世界へ

 

István Kohán (コハーン・イシュトヴァーン)
ハンガリー出身のクラリネット・ソリスト。6歳でハンガリー国立音楽学校へ入学し、ソルフェージュとリコーダーを、8歳で父の手ほどきでクラリネットを始める。幼少の頃から才能を発揮し、12歳でバルトーク音楽院(高等学校)英才教育コースに入学すると、J.リヒテルクラリネットコンクール第1位、カルリーノ国際音楽コンクール第1位、アントンエベルスト国際クラリネットコンクール第1位、ICA国際クラリネットコンクール第1位など、ハンガリー在住中より数多くの国際コンクールで優勝・入賞する快挙を成し遂げる。リスト音楽院卒業後の2013年7月に活動拠点を日本に移した。2013年、第11回東京音楽コンクール第1位及び聴衆賞受賞。ハンガリーの若手芸術の分野で最も権威のある賞「ジュニア・プリマ・アワード」受賞。2015年第4回秋吉台音楽コンクール第1位及び山口県知事賞受賞。第26回日本木管コンクール第1位及びコスモス賞、兵庫県知事賞、朝日新聞社賞、神戸新聞賞を受賞。第84回日本音楽コンクール第1位及び岩谷賞(聴衆賞)、E.ナカミチ賞を受賞。2016年3月東京音楽大学大学院修了。これまでに新日本フィルハーモニー交響楽団(アントニオ・メンデス)、東京フィルハーモニー交響楽団(梅田 俊明・円光寺 雅彦)、紀尾井シンフォニエッタ(澤 和樹)、ジュールフィルハーモニー交響楽団(ハンガリー:カールマン・ベルケシュ)、東京音楽大学シンフォニーオーケストラ(現田 茂夫)とコンチェルトを協演、またソロリサイタルや室内楽の活動を展開する他、2014年からは作曲家としても活動の幅を広げる。

CD Information

コハーン・イシュトヴァーン 2nd Album 「Message From France」

メサジェ:ソロ・デ・コンクール
ラボー:ソロ・デ・コンクール
ピエルネ:カンツォネッタ
ヴィドール:序奏とロンド
ドビュッシー:第一狂詩曲
サン=サーンス:クラリネット・ソナタ
プーランク:クラリネット・ソナタ (曲順未定)

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