クラリネット記事
vol.57 Cover Story│ミシェル・アリニョン&フローラン・エオー

クラリネットという楽器に完璧は存在しない。だからこそおもしろい

フランスを代表する2人のクラリネット奏者、ミシェル・アリニョン氏とフローラン・エオー氏が、先日ビュッフェ・クランポンの創立190周年を祝して来日、デュオ・リサイタルを行なった。リサイタルの興奮覚めやらぬ翌朝、インタビューに応じてくれた両氏。長く築かれた師弟の信頼関係はインタビューでも発揮され、ビュッフェ・クランポン・クラリネットに対する思いを熱く語ってくれた。
通訳:中村真美(大阪音楽大学クラリネット・バスクラリネット講師)、写真:土居政則、取材協力:株式会社ビュッフェ・グループ・ジャパン

豊かな表情を表現したリサイタル

昨日の演奏会はドイツの作曲家とフランスの作曲家の作品がバランスよく配されていましたが、どのようなことを考えてこのプログラムにされましたか?
ミシェル・アリニョン(以下A)
今回の私たちのプログラムで、特にやりたかったのは表情豊かな演奏でした。輝かしさを求めたわけではなく、2つのソロ曲はヴィルトゥオーゾ的なテクニックが要求されましたが、トリオの作品の中ではロマンチックな表現を自分たちでも感じながら演奏ができました。本当によく計算しながらそのような方向に持っていこうと考えてつくられたプログラムだったと思います。
エオーさんに質問です。音の出だしのニュアンスが素晴らしかったのですが、発音の練習はどういうことをされていますか?
フローラン・エオー(以下H)
一般的にクラリネットの演奏を聴いていて思うことは、多くのクラリネッティストが細かいニュアンスに気を配れていないのではないかということです。まずは、どのように音を出したいと思うかどうかが重要です。だから、いつもfで練習するのではなく、常に音を出すときにニュアンスを意識することが重要です。そして練習のときには同時に音程・音質にも気をつけなければいけません。pのニュアンスで出た時は高くなるとか、fのときは低くなるとか、いろんなことが起こりえます。
普段の練習から意識しているので、pで演奏することは私の中ではすごく難しいことをやっていると感じていません。音楽的にきれいに演奏したいから、その場面でその音を出しているという感じなので、自然にそうなるのです。
もちろんpで演奏している奏者もいますが、本当にその音楽の表現にあったpの音質が出ているかというと、必ずしもそうではない。逆にfだったら強すぎる音を出している場合も多い。攻撃的な感じではなく広がりのある音が出ているか、というところに気を配れるかどうかが重要です。
だから練習ということでいえば、耳でよく聴くということ。それとニュアンス、自分がこうしたいと思えるかどうかが重要だと思います。
アリニョンさんは多くの曲でバセットホルンを演奏されました。ヴィオラのパートを演奏する場面が多かったと思いますが、ヴィオラとバセットホルンにはどのような共通項を感じられていますか?
A
バセットホルンとヴィオラは音域が同じ楽器ですよね。なので楽器の表現力も同じように可能性があります。バセットホルンは作品が多いわけではありません。だから、ヴィオラの譜面を演奏することで表現力の可能性を見せてみたいと思って演奏しました。
アリニョンさんは現代ではめずらしいC管クラリネットも演奏されました。
A
フランスの作曲家ドヴィエンヌによってC管のために書かれたソナタです。その作曲家が聴いたであろう音色を実現すること。私がイメージするには、当時の時代の音はそんなに大きくはなかった。だからそれを探すということに興味があったのです。
まず、このソナタがどういうものだったのかというのを原譜から探してみたり、いろんなことを研究したのですが、もともとオーボエのために書かれた曲であって、そのあとドヴィエンヌ自身がクラリネット用に編曲しています。その際にクラリネットのために書き換えている部分もあるようです。

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・クラリネットの熱意にあふれた眼差し
・楽器に携わるすべての人が築いてきた歴史

 

Michel Arrignon ミシェル・アリニョン
フランス国立パリ高等音楽院でクラリネット、室内楽のプルミエ・プリを得て卒業、 アメリカのミシガン大学で研鑽を積む。 1972年ジュネーヴ国際音楽コンクール第2位。 1984年から89年までパリ・オペラ座管弦楽団首席奏者。 1989年から2009年まで、ギイ・ドゥプリュの後任で フランス国立パリ高等音楽院教授として教鞭をとる。 2010年、スペイン、レイナ・ソフィア高等音楽院名誉教授に就任。大阪音楽大学客員教授、ビュッフェ・クランポン専属テスター。フランスを代表するクラリネット奏者として幅広いレパートリーを持ち、 その技術と共に、現代音楽の演奏解釈に定評があり、多くの作曲家から作品が献呈されている。活発な演奏活動と共に、数多くの録音も手掛ける。また、世界各地の講習会に招かれ、後進の育成にも情熱を傾けている。

 

Florent Héau フローラン・エオー
パリ国立高等音楽院で学び、プルミエ・プリ(一等賞)を獲得し同大学院へ進む。1991年トゥーロン国際音楽コンクールで第一位受賞。ピアノのジグマノフスキーと組んだエオー・ジグマノフスキー・デュオで1994年パリ国際室内楽コンクールと、1995年のFNAPEC室内楽コンクールで第一位受賞。また、ショー的な要素を取り入れた音楽カンパニー『レ・ボン・ベック』を1996年に結成。Voyage de notes(音符の旅)と銘打ったショー(クラリネットとパーカッションによる「音楽詩的なジョーク」)で、音楽とボディランゲージ(特にパントマイム)を融合させた新しい芸術的アプローチを生み出し、欧州各国で公演を行なう。 現在、リュエイユ=マルメゾン国立音楽院クラリネット科教授。

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