コンサートレビュー

デニス・ブリアコフ フルートリサイタル2017 東京公演

2017年6月23日(金) JTアートホール アフィニス
[出演]デニス・ブリアコフ(Fl)、石橋尚子(Pf)
[曲目]ブラームス:クラリネット・ソナタ第1番 ヘ短調 Op.120-1/タクタキシヴィリ:フルート・ソナタ/エネスコ:カンタービレとプレスト/プロコフィエフ:フルート・ソナタ ニ長調 作品94
*アンコール曲* フォーレ:夢のあとに/サラサーテ:序奏とタランテラ

“ブリアコフ2017東京公演”

今年も、ブリアコフがやってきた。2015年からロサンゼルス・フィルの首席奏者として活動、また今秋よりカリフォルニア音楽大学の教授に就任が決まったというタイミングである。
恒例となっている、ヴィルトゥオーゾの真髄極まるヴァイオリン曲からのアレンジ作品を携えて……と思いきや、今年はちょっと違うのだ。さっそく、コンサートの模様をレポートしよう。

幕開けは、ブラームスのクラリネットソナタから。ブラームスの最晩年に書かれた作品で、彼が完成させた最後のソナタである。4楽章からなるこの作品は、メロディの中にクララ・シューマンへのメッセージが隠されているなどとも言われる秘密めいた部分もありながら、ブラームスらしいピアノパートの美しさにも彩られた曲だ。Allegro appssionato から始まる1楽章だが、ブリアコフはいつもの涼しげなフォルムの中にも情熱を込めた演奏で、聴衆を引き込んでいく。
共演歴の長い石橋尚子さんとの息もぴったりで、重厚で技巧的なピアノの美しさと響き合っていたことも、演奏に多彩な要素を添える重要な役割を果たしていたことは間違いない。

その後はタクタキシヴィリ、エネスコと、ヴィルトゥオーゾらしい選曲が続く。タクタキシヴィリのソナタは、冒頭から伸びやかかつ華やかなメロディで始まる。グルジア出身のタクタキシヴィリの音楽は民謡風の響きが旋律に時折混じり、近隣国であるクリミアに生を受けたブリアコフならではの解釈が生かされているのかもしれない。
エネスコの『カンタービレとプレスト』は、1904年にパリ音楽院のコンクール課題曲になった曲。作曲家であると同時にヴァイオリニストでもあり、ピアノの名手でもあったエネスコによるメロディアスな旋律を、ブリアコフは優雅にテクニカルに演奏する。演奏時間にして6分少々という小曲だが、耳に心地よく残る演奏であった。

プログラムの最後は、プロコフィエフのソナタ。今回のハイライトとなる曲だ。4楽章からなるが、フルートソナタとしては演奏時間の長い大曲として知られる。メロディラインがシンプルで簡潔なだけに、ピアノとの掛け合いもとても意味のあるものになってくるが、やはり石橋さんとのコンビネーションは絶妙。壮大さ、性急さ、抑制の利かせ方……すべてが、ブリアコフの演奏と見事にマッチして響き合うハーモニーをつくるのだった。
終演後に大きな声援を送っていた客席の紳士に、思わず同感(!)この大曲を演奏するにあたって、ひとつ彼の演奏を参考にしてみようか……などという目論見を持った学生などがもしいたとしたら、あまりの迫力に圧倒されたのではないだろうか。

フルート曲のレパートリーに飽き足らず、コンサートでは必ずヴァイオリンの難曲をプログラムしてきたブリアコフだが、そんな試みは続いていくのか、また新たな道への模索が始まるのか――来年からのコンサートツアーも、ますます楽しみである。


デニス・ブリアコフ(フルート)ライヴ・イン・東京2016

“ブリアコフ2017東京公演”

【WWCC-7839】¥2,300(税抜)


[曲目]
ヘンデル:フルート・ソナタ ロ短調作品1 第9番 HMV367b
シャミナード:コンチェルティーノ 作品107
サン=サーンス:ロマンス 作品37
ユー:ファンタジー、フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調(フルート版)
サン=サーンス(編曲:デニス・ブリアコフ):ワルツ形式の練習曲による奇想曲
J.ウィリアムズ(編曲:デニス・ブリアコフ):シンドラーのリスト
F.ショパン(編曲:デニス・ブリアコフ):幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66


フルート奏者カバーストーリー