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木村奈保子の音のまにまに|第48号

世界のカルトと対象喪失によるセラピー映画

カルト問題が政治にかかわることで報道は続いているが、世界の実在するカルトを扱ったドキュメント映画が配信メディアでもあることがわかり、なにかと興味深い。

ドラマ仕立ての映画は、カルトを扱っていても、俳優の魅力から、エンタテイメントの魅力を語らずにはいられないが、ドキュメントは、直接的に問題定義を行なう。
映画でも、社会問題を考えるジャーナリズムの分野だ。

同テーマを集めたドキュメント「カルト集団と過激な信仰」のシリーズでは、“ネクセウム”(性奴隷)、“神の子供たち”(組織的な児童虐待)など実在の話が、配信(アマゾンプライムビデオ)で見ることができる。

ドキュメント映画の制作ポイントは、作り手のビジョン、方向性が明確にあり、問題を掘り下げていくため、深い意義がある。日本のワイドショーがときおり陥る、ばらばらのコメンテイターの個人的な見解により、テーマがそれてしまうようなことはないため。描く世界がまとまりやすい。

元信者が、過去の自分を振り返りながら、カルト教団にふれるきっかけから始まり、このとき自分は何を思い、どう動いたのか、それにより、何がどう間違っていたのかをはっきりと意識しながら、教団の真実を観るものに伝えていく。

このシリーズのインタビューは、アンカーウーマン、エリザベス・バーガスが一貫して行なっている。彼女自身も有名なキャスターながら、アル中から逃れられなかった心の病を持っていた。

さて「カルト集団と過激な信仰」シリーズのエピソード1「ネクセウム」は、元信者の女性が、友人女性を引き込んだことを心から悔やみ、謝り続ける姿勢で、教団内部を語っていく。
自己啓発セミナーから始まり、全財産を教団に継ぎこんだというタイミングを経て、やがて教団の正体を知るとき……。
カルトは、教団が物理的に何をするか、以上に、信者がどう感じていくか、の心の動き、変化を見せるのが、理解を促すのに、大事なポイントだろう。
多くの被害者を生み出し、被害者たちは、さらに加害者になる。
この教団の規模はそれほど大きくはないはないかもしれないが、洗脳方法のえぐさに、恐怖を感じる。若い女性がターゲットになる意味は、もちろん、性的な加害があるからだ。

エピソード5「世界平和統一聖殿」は、統一教会を母体とするサンクチュアリ教会の実像を語るもの。文鮮明の7男が創立し、ライフルを持って合同結婚をする団体だ。
トランプの集会にも登場したライフル教団として知られる。
このドキュメントでは、田舎町で、集まる人々は、200人ぐらい。
意外にも規模が小さいと思うのは、最近話題の母体のほうが、余りに大きすぎるからだろうか。インタビュアーのバーガスが教祖へのロングインタビューを試みるところが見どころ。

適度な宗教信は人々の心の救済となるが、それを悪用するのがカルト。
もちろん、本来信者の救済をするべき宗教団体の中にも、悪い事件は起こっており糾弾されるべきところはあるが、そもそもの目的ではないはずだ。
が、カルトはそもそもが、救済を装いながら、教祖個人の欲望を果たすために、宗教的な行為を利用しているにすぎない。

ここに描かれた7教団のエピソードは、社会的に有害な思想、危険な宗教的活動について
元信者の視点から、作り手や取材者の正義感が盛り込まれ、解決に向けた前向きな展開のドキュメントになっている。
どんなにおぞましい話でも、作り手の正しい視点があるとき、意義ある作品となる。
観客も、自ら社会的な問題意識を持つ良い機会となるはずだ。

昨今のカルト問題について、テレビ番組(ミヤネ屋、報道特集ほか)が専門のジャーナリストや弁護士たちの正義感をもって、救済に向かう姿勢を見せているが、一方あまりに多くの政治家が、関係しすぎていて、過去の関係をごまかすためのエネルギーだけが使われているのは残念な状況だ。

「カルト集団と過激な信仰」のシリーズをまず、政治家全員に見せるべきではないだろうか。
ただ、映像の力をもってしても、“観るものが、自ら社会的な問題意識を持つ力”を失っていれば、響くものはもはやないのかもしれない。

政治家が、朝から晩まで選挙のことを考えて、出世の道に駆け上る策略にとらわれ、不快な問題はもみ消し、邪魔者を消しながら、まんまと生きていくさまを描く「ハウス・オブ・カード 野望の階段」(ケビン・スペイシー主演、製作総指揮/TVシリーズ 2013~2017)が、その答えという気がする。

 

つづいて、スピリチュアルな新作を紹介したい。
セリーヌ・シアマ監督の「秘密の森の、その向こう」(2021/仏、2022,9月末、日本公開)は、ハートに響く、実に心地よい作品だ。

ヒロインは8歳の女の子。
祖母が亡くなり、父親と3人で、祖母が暮らした森の家に行くが、母親は喪失感のあまり、姿を消してしまう。

ヒロインは、母の帰りを待ちながら、森の中で小屋を見つけるが、そこから自分と似た少女が現れる。
その少女は8歳で、名前は、母と同じだった。
そこから、ヒロインと見知らぬ少女との友愛関係が始まる。
父には小屋が見えないという。
いったい、どういうことなのか?

ヒロインが、幼いころの母親に出会うというスピリチュアルなドラマはあまり観たことがないが、その発想もよいうえに、出演する二人の姉妹があまりにかわいらしく、目が離せない。

初出演の実の姉妹に演技をさせるわけではなく、二人の自然の動きに任せたという監督の演出力には、舌を巻く。
私のように、子供、動物ものには泣かされない、というタイプでも純粋な二人のナチュラルな愛らしさ、動きにくぎ付けだ。

本作は、大切な人を失ったときの“対象喪失”期間に、どんなことがあれば、人は乗り越えられるのかを映像で試みたセラピー映画の傑作。

森の中の色合い、葉っぱの音が聞こえるような背景のなかでゆったりとした音楽があり、懐かしいような暖かい時間が流れる。

 
 
 

どんなに強く明るい人間でも、心はいつも満タンというわけにはいかない。
カルトに取り込まれる人も、対象喪失のタイミングに始まることが多い。
映画も、心を扱うメディアのひとつとして救済に役立つだろう。

MOVIE Information

「秘密の森の、その向こう」
9月23日(祝・金)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
[監督・脚本]セリーヌ・シアマ『燃ゆる女の肖像』
[出演]ジョセフィーヌ・サンス/ガブリエル・サンス、ニナ・ミュリス、マルゴ・アバスカル
[配給]ギャガ
© 2021 Lilies Films / France 3 Cinéma

 

木村奈保子

木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com

 

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