クラリネット記事
Close Up Interview

本濱寿明 & 岡本知也 インタビュー Part.2

胸を借り、互いを信じ

本番前日に……。

岡本さんは、伴奏のときとコンチェルトのソロのときでスタンスに違いはありますか?
岡本
思い返すと、ちょっと前まではかなり意識的に変えてたというか、違うことを良しとしていたなって最近思います。つまり、今はあまり変えていない。意図的に変えるものにはしていないですね。もちろん自分の楽譜や役割が違う、というのはありますが。
若いころはコンチェルトだからと無理に引っ張ろうとしてオケと乖離しかけたり、今だったら絶対しないようなやり方とか歩みの進め方をしていました。ソリストだから引っ張らなくちゃって強く思ってたんだろうなと、最近は感じますね。
意識が変わるきっかけがあったんですか?
岡本
いろいろなシーンで弾く機会を多くいただいているので、相対的にソロは少ないけどオケ中や室内楽は多いのかも。そういうことをやっているうちに、結局大事な話はどんな場面でも一緒だよねと思うようになったのが最近でした。なので、経験を積んで、ということでしょうか。
本濱
同じメンツで何年も同じ曲やったりとか、そういうことを続けることは大切なことだと思いますね。
岡本
アンサンブルピアノの人って、伴奏者として抑える、邪魔にならない、という部分で悩む時期は多いはずで、自分もその辺の葛藤は濃淡あれどずっとあって、そこに起因することで本番前日にものすごい喧嘩したっていう。
なぜ喧嘩を?
岡本
コンクールのとき、ある方から「(本濱さんが)ホールで抜群によく鳴っている。前回受けたときよりも印象がすごい良かった。それなのにお前(岡本さん)の演奏はなんなんだ」と、詰められたんですね。つまり、ピアノがしょぼいと。自分としても思い当たる節があったのですが、そこを思いっきり真ん中突かれた感じでした。
本濱
これ、コンクール中ですからね。
岡本
コンクール中なんですよ。
それで最後のゲネプロで、試すならこれが最後のチャンス、そうしないと前回と同じイマイチな結果になるな、と思い切って弾いたら、本濱が「何をそんなガシャガシャ弾いてんだ」と。
本濱
秋吉台音楽コンクールって、本選の前日に本番のホールでリハをさせてくれるんです。だから、今できるベストをやってそれに対する議論をやりたいと僕は思ってたのです。それが突然、普段やったことないことをするから何事ですか!?って思って。
岡本
そうしたら、「そんな言われて気にするくらいだったらもうそんな事を忘れていつも通りに弾いてほしい」って言ってくれて。きっと、変わったことが嫌なのではなく、何かを気にしたことで元々の良かったところがなくなってるよって言ってくれたんだろうなって思っています。
という話を本人の前でするの初めてなんですけど。
本濱
恥ずかしい。
岡本
ともかくまた真ん中を突かれて、これで吹っ切れて次の日には新しい真ん中に行けたらいいなと、悶々とした気持ちで本選を迎えました。
だけど、自分もいろいろな人と仕事で一緒に弾いていますが、共演歴が深くない人だとあんなことは当然試せないですよね。そこは、勝手に胸を借りてやらせてもらっちゃってごめんねって感じなんです。
でも、本濱だったからあそこまで振り切って怒ってくれて、本当にありがたかった。
本濱
それは僕もトモさん(岡本さん)だからっていうのは絶対あるんですよ。だって、なにかしらの理由があるってやっぱり思いますから。それに、お互い年齢的にコンクールは最後かもしれないし、結果以上に心身ともに悔いのないように、あれが精一杯ですってしておかないとって思ったら、もう言わずにはいられなくて。
岡本
僕も危険だなと思いながら、やらない選択肢がなくて。だけどそんな事を前もって言うのもあんまり……なので、もう頼む!!って感じでした。
本濱
もしここで僕が言わなかったら、多分この先トモさんには思ったことを100%言えないやつだと思われるんじゃないか、そうなったら先はないんじゃないかと。トモさんの雰囲気的に、俺に思うところがあるというのは絶対に分かっているので、それをなんでもないとは絶対言えないと思ってました。
岡本
自分は普段、大丈夫大丈夫って言ってデンと構えているフリをするタイプなんです。一緒に演奏するときも。
本濱
大体僕がギリギリまで騒いでるんですよ。リードがないだとかなんだとか。
岡本
お前にリードがあった日があったかよみたいな。
そんな様な関係性だったのを、多分初めて狼狽しているところを見せたのがあの日だったのだと思います。
本濱
僕は、前回大会(2017年)のときは僕のせいで1位になれなかったとずっと思ってます。自分の演奏は、技術的にも音楽面や精神面にしてもいろいろなことが足りていない。なのに何をしたらいいのかわからない。でも何かを始めないと自分は今のままから成長できないって思ったんです。それから6年経って今回のコンクールだったので、僕はもう一次予選の前まで本当にしんどかったです。
もしここで悔いの残るような、僕自身の6×365日を完全否定するような演奏をしたらもう楽器を吹けなくなるんじゃないかって、すごい重圧を勝手に抱えて泣きそうで。
ある意味では、僕はずっと胸を借り続けたっていうか、僕はブラームスを演奏できる人間でありますか?っていうことを、喋るんじゃなくて演奏で示して、それに対してのレスポンスをもらおうと思い続けてきた6年です。
追い込んでしまったのでしょうか。
本濱
個人の評価じゃなくて、あれは1+1=2を1+1=3か4にするためのコンクールなので、自分のマイナス面で相手に影響することは避けたい、という一心でした。
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