フルート記事
THE FLUTE vol.190 Close Up

アルバム「フルート音楽でめぐる18世紀、パリの風景」をリリース

ルネッサンスから現代に至る400年間に変遷を遂げたさまざまなフルートを駆使する有田正広氏が、7月にリリースしたアルバムに選んだのは「18世紀のパリの音楽」だった。自作のフルートでの演奏や、ライナーノーツに小説風の解説を書くなど演奏以外にも多彩な才能を見せてくれる有田氏に話を訊いた。
取材協力:日本コロムビア株式会社

小説風のライナーノーツの意図

今回のCDで18世紀のフランス音楽を選んだ理由を聴かせてください。
有田
個人的には好きな音楽が多い時代なんですね。ただ、日本では18世紀、特に前半のフランスのフルート音楽はあまり演奏される機会がありません。僕は約50年間演奏活動をさせていただいているので、大好きなオトテールやブラヴェ、ルクレールなどを取り上げたいなと思って録音しました。
日本で18世紀の音楽が浸透しない理由はどんなところにあると思われますか?
有田
フルートに限らず、18世紀前半のフランスの音楽は、とても細かく理論立てて作られています。演奏法もフランス風ですが、ドイツやイタリアではそれをなかなか受け入れがたく、フランスのみで発展していきました。
細かい理論というのはフランス語でいえば“オルドル”というのですが、制度、矯正、秩序といった意味があります。それを300年以上経った今日の我々がどうやって受け止めて演奏するか。
こういう音楽を僕は少しでもわかりやすく演奏し、みなさんに興味を持っていただきたいと思いました。
今回のライナーノーツは小説風のものを有田さんが書かれていますね。これも親しみを持ってもらうためでしょうか?
有田
最初はいわゆる普通の楽曲解説を書く予定だったんです。これまでも多くの解説を書いてきましたが、今回はなぜか解説に気持ちが動きませんでした。それはオルドルをどう説明するか、ということもあったと思います。でも解説で音楽を捉えるということではなく、むしろ生きた彼ら(作曲家)たちの音楽や音楽人生を知ってほしいと思って小説風にしました。18世紀のパリは現代のパリとはずいぶん違う要素がありますが、人々は一体どんなふうに生きていたんだろうかということを書き綴りました。
実は文章を書くのは苦手で、過去にはダメ出しされたこともあります(笑)。
小説風に書いたのは今回が初めてですが、そのバックグラウンドとしては大学での授業をする経験がありました。
授業では理論的な話をするのですが、その中で当時の習慣などを余談で話すと生徒たちが目を輝かせて聞いてくれるのです。それでライナーノーツにそういうことを活かすのはどうだろうと、日本コロムビアの担当者に相談して実現しました。

次のページへ続く
・自分で楽器を作り上げた意図
・18世紀の人たちが目の前にいるように感じてほしい

 
Profile
有田正広 Masahiro Arita
1972年、桐朋学園大学を首席で卒業。同年、第40回NHK・毎日音楽コンクール(現・日本音楽コンクール)で第1位を獲得。翌年、ベルギーのブリュッセル王立音楽院に留学。74年からはコレギウム・アウレウムのメンバーとして、ヨーロッパ、日本などで活動。75年、ブリュッセル王立音楽院をプルミエ・プリで卒業。同年、ブルージュ国際音楽コンクールのフラウト・トラヴェルソ部門で第1位となる。77年、オランダのデン・ハーグ王立音楽院に入学、半年で最高栄誉賞つきソリスト・ディプロマを得て、卒業。帰国後もクイケン兄弟など、内外の名手たちとも盛んに共演。ルネサンスから現代に至る400年間に変遷を遂げたさまざまなフルートを駆使する演奏で人々を魅了しつづけるアーティストとして高い評価を得ている。
1989年には「東京バッハ・モーツアルト・オーケストラ」を結成。2006年にはモーツァルト生誕250年を記念し、モーツァルトのフルートとオーケストラのための作品全5曲を自身の指揮と演奏により一晩で演奏するという快挙を成し遂げ、話題を呼んだ。09年には同オーケストラを更に発展させ、「クラシカル・プレイヤーズ東京」を結成。 録音は「ドイツ・バロックのフルート」(レコード・アカデミー賞2部門と文化庁芸術作品賞)などアルヒーフ、DENONアリアーレ、avex-CLASSICSからリリース多数。
第21回サントリー音楽賞受賞。桐朋学園大学特任教授。
 
 
フルート音楽で巡る18世紀、パリの風景
【COCQ-85586】日本コロムビア
[演奏]有田正広(Fl)、有田千代子(Cemb)
[収録曲]アンヌ=ダニカン・フィリドール:フルートと通奏低音のためのソナタ ニ短調~「フルートと通奏低音のための作品集 第1巻 第4番」、ジャック=マルタン・オトテール ≪ル・ロマン≫:フルートと通奏低音のための≪プレリュード≫ ホ短調~「プレリュードの技法 作品7」、ジャン=マリー・ルクレール:フルートと通奏低音のためのソナタ ホ短調 作品2-1 ~「ヴァイオリンまたはフルートのためのソナタ集 第2巻」、フランソワ・クープラン:フルートと通奏低音のためのコンセール 第1番 ト長調~「王宮のコンセール」、ジャック=マルタン・オトテール ≪ル・ロマン≫:フルートと通奏低音のための組曲 第2巻~第2番 ハ短調 作品5-2~「フルート、またはその他の楽器と通奏低音のための作品集 第2巻 作品5」、ミシェル・ブラヴェ:フルートと通奏低音のためのソナタ 第2番 ニ短調 作品2-2~「混合されたソナタ集 作品2」
[ボーナストラック]ミシェル・ピニョレ・ドゥ・モンテクレール:フルートと通奏低音のための≪プレリュード≫ ニ短調 ~「フルートと通奏低音のためのコンセール集 第2番」、ジャン=マリー・ルクレール:フルートと通奏低音のための≪ガヴォット≫ ニ長調 ~「ヴァイオリン、またはフルートのためのソナタ集 第1巻 ソナタ第2番より」
 
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