フルート記事
THE FLUTE vol.183 Close Up

新しいものさしを得て、楽しく歌おう│斎藤和志

この9月、東京オペラシティのリサイタルホールで公演を行なう。個人での本格的なリサイタルは実に20年ぶりだという斎藤さんに、そんな20年の歩みや、ここ最近出会った“ライフワーク”のこと、そしてもちろんリサイタルへの思いなど、たっぷりと伺った。
取材協力:株式会社プリマ楽器、株式会社三響フルート製作所

20年の濃密な時間

斎藤さん個人の本格的なリサイタルというのは、これまであまり見かけなかったような気がします。前回のリサイタルはいつのことでしたか?
斎藤
東京での大きなリサイタルは、日本音楽コンクールで優勝して、受賞者コンサートに津田ホールで出演したとき以来なんですよ。
日本音コンで優勝されたのは2001年のことでしたよね。ちょうど20年ぶりということですか。
斎藤
規模の小さいリサイタルや企画もののコンサートなどにはいろいろと出演してきましたが、数百人という客席数のホールでの本格的なものは、実は20年来やらずに来ました。その理由というのは、フォーカルジストニアを患っていたことが大きかったんですね。音を出しづらかったり、指が動きにくかったり……とにかく本調子じゃないな、ということが長年続いていました。もちろんオーケストラの仕事はずっと続けていたわけですが、よくやっていられたと思うほど、状態が良くなかった時期もありました。
フォーカルジストニアに悩まされる音楽家の話はよく耳にしますが、そんな不調をまったく感じさせない斎藤さんも、長年悩まれていたのですね。
斎藤
あの手この手でごまかしたり、逆に準備が足りていないのを不調のせいにするとか……むしろ利用したりして(笑)。というのは半分冗談ですが、あまり深刻にならないようにしつつ、病院に行ったり鍼治療やカイロプラクティックに通ってみたり、筋トレやストレッチをしてみたり、といろいろ試してはいましたね。そのうち治るでしょ、とあえて気楽に考えていました。
そんなわけで、何しろ久々の公演ですから、いろいろな思いを込めています。プログラムには、20年前のリサイタルと同じ曲も入れているんですよ。ピアニストも当時と同じ與口理恵さんにお願いして。当時考えていたことと、いま現在と……どれだけ成長したんだろうか、と我が身を振り返るとてもいい機会にもなると思っています。聴きに来てくださる皆さんにも、そんな今の僕の演奏をぜひ聴いてほしいと思っています。
ご自身にとって、この20年というのは?
斎藤
年間400公演を行なっている東フィルというオーケストラでの活動、そして東京シンフォニエッタという現代音楽集団で世界を回ったり、ジャズを学び、スタジオミュージシャンの仕事をしたり、そして人にフルートを教えたり……と、たくさんの素敵な音楽や人々との出会いがあり、貴重な経験もしてきました。音楽のアイデアもそれなりに蓄えてきましたし、とても濃密な時間を過ごしてきて、音楽に反映するものも大きい時期だったのだろうと思います。
コロナ禍が長引いていますが、コロナ前の音楽活動と比べ、変わったなと思うのはどんなことですか?
斎藤
いちばん変わったことはやはり、オンライン上での音楽活動というものが認知されるようになったことでしょうね。これまでになかった発表の場がたくさんできて、配信という新たな形で音楽を届けることが可能になった。それと、オンラインレッスンができるようになったことで、以前ならつながりようもなかった人や海外在住の人とも気軽につながれるし……そういう意味では可能性がむしろ広がった部分が大きいように感じますね。
最初の緊急事態宣言の時は全公演がすべて休止になりましたが、その時期はどう過ごしましたか?
斎藤
自宅でレコーディングや動画配信をしたりしていました。“牧神”(ドビュッシーによる『牧神の午後への前奏曲』)の全パートを自分で吹いて重ね録りした動画をアップしたり、曲を書いたり、ジャズの勉強なんかもしていました。“不謹慎”ということを考えると大きな声で言っていいのかわかりませんが、楽しい時間でしたし、まとまった時間を使えたおかげで技術的に上達もしたと思います。
だいたい日本のオーケストラは、通常が忙しすぎるので、長く身体を使う職業である以上は、もう少しオフの時間も必要だと思うんです。今回は思いがけず、そんなことをあらためて意識する時間になったんじゃないかと。

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・遠い世界の天才たちに感じる、人間臭さ

Profile
斎藤和志
斎藤和志
Kazushi Saito
東京藝術大学卒業。第5回神戸国際フルートコンクール第4位、第70回日本音楽コンクール第1位。第4回びわ湖国際フルートコンクール第1位。これまでに、パウル・マイゼン、オーレル・ニコレ、金昌国、佐久間由美子、中川昌巳、中野富雄、三上明子、ジャズ理論と演奏を菊地康正、太田朱美、土井徳浩、池田篤の各氏に師事。現在、東京フィルハーモニー交響楽団首席奏者。近年はクラシック音楽のみならず、ジャズやその他さまざまなジャンルの音楽、映像、舞踊、美術などとのコラボレーション、また自身で作曲・編曲も行ない、即興演奏も含め、異常に幅広いレパートリーを持つ「フルート界の奇行師」。2006年度アリオン音楽財団奨励賞受賞。レッシュ4スタンス理論マスター級トレーナー。
 
Information
 
斎藤和志フルートリサイタル
SANKYO FLUTES & PRIMA GAKKI presents
斎藤和志 フルートリサイタル
 
[日時]2021年9月28日(火)19:00開演(18:30開場)
[会場]東京オペラシティ リサイタルホール
[共演]與口理恵(Pf)
[曲目]カゼッラ: シシリエンヌとブルレスク Op.23、ヒンデミット: 8つの小品、ドビュッシー: ビリティス (6つの古代碑銘)、斎藤和志: フルート・ソナタ “2020”、ピエルネ: ヴァイオリン・ソナタ
[料金]全席自由/一般:¥4,000 (当日券 ¥4,500) 、学生:¥2,500 (当日券 ¥3,000) 
※新型コロナウイルス感染症対策として座席数を減じて開催
[主催]株式会社 プリマ楽器、株式会社 三響フルート製作所
[チケット取扱い]
株式会社プリマ楽器 ショールーム
03-3866-2223 (定休日:土・日・祝)
フルート工房 三響
03-5960-5750 (定休日:木)
東京オペラシティチケットセンター
03-5353-9999 (定休日:月)
[問合せ]
株式会社プリマ楽器 ショールーム
フルート工房 三響 info@sankyoflute.com

 

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