ルイ・ロットから放たれる芳醇な音色─

白川真理、CD「エーテルブルー」リリース

初代、五代目と2本のルイ・ロットを愛用している白川真理氏が、満を持してアルバム「エーテルブルー」を4月28日にリリースする。ドビュッシーの『シランクス』からパッションを得た「エーテルブルー」という言葉に込められたもの、そして、ルイ・ロットの魅力を訊いた。

『祈りの曲』に込められた思い

「エーテルブルー」のCDが出来上がりましたね。
白川
ありがとうございます。このタイトルはドビュッシーの『シランクス』にあった言葉です。よく解説に書かれているムーレの詩は、曲と合わずずっと違和感がありました。でも偶然、その箇所より前の、通常無視されている部分に「エーテルブルー」という言葉をみつけ訳してみると「シランクスの魂は光を放ち、凛と垂直に舞い上がり、エーテルブルーの天空を突き抜け、魔法のように星々や神々のもとへと昇る」となり驚きました。この詩こそ、冒頭の5~8小節の音楽とぴったり合うと確信しました。その前の箇所も曲の冒頭から4小節目に符合し「エーテルブルー」のお陰でより楽曲への理解が深まったのです。CDのブックレットには、その翻訳した詩と相対するフルートソロの小節数を書いています。
とても素敵な言葉ですね。
白川
ええ。アリストテレスがエーテルを「宇宙に存在する気体」と唱えたことがルーツにあるそうです。
空は天気によって、また見上げる人のその時の感情によって、色が変わって見えますよね。今回のアルバムに収録した楽曲はリサイタルの楽曲そのままなのですが、様々な感情を呼び起こさせるものになっていると思います。その変化を味わっていただきたいですし、青空に染み入るように、私たちの演奏が皆様の心に届いてほしいという願いをタイトルに込めました。
収録曲の中には、2018年に亡くなられた川崎 優先生の『祈りの曲 第4番』も収録されましたね。
白川
私のフルート吹きとしての人生があるのは川崎先生のおかげだと思っています。2004年に先生の監修でテンハーツレコードの第一号のCD『SERENADE~flow~』(Pf/寺嶋陸也)をリリースさせていただきましたが、2日間の収録中つきっきりでご指導していただけたことはとても貴重な経験でした。
また東日本大震災の後、追悼と祈りの気持ちを込めてコンサートでバッハの『シャコンヌ』と共に『祈りの曲 第4番』を取り上げることにし、ご連絡した際には、広島で被爆された時の壮絶な体験を話してくださいました。そのコンサートのプログラムは2枚目のCD『無伴奏フルート作品の夕べ』となり喜んでいただけました。
2019年に還暦記念のリサイタルでも演奏しましたが、その2か月前に先生の訃報が届き、私にとってより一層特別な曲になりました。
広島の原爆犠牲者追悼の為のこの作品は、現在のコロナ禍の状況下、より心に響く、大きな慰めとなる作品だと感じています。

リスペクトの思いで選曲

他にも様々な曲を収録されていますね。
白川
皆これまでの自身の歩みと重なる想い出のある曲ですが、同時に共演の砂原 悟(Pf)さんと、山本 徹さん(Vc)の魅力がより輝く曲をと選びました。
チェルニーは子猫たちがくるくる走り回っているような愛らしい曲です。ピアノの粒立ちがはっきりわかる曲で、砂原さんの魅力が伝わると思います。
バッハではバッハ・コレギウム・ジャパンでも活躍されている山本さんがガット弦ならではの素晴らしい通奏低音を演奏してくださっています。またお二人とも曲ごとに同じ楽器とは思えない程、音色が変化されます。
他にも様々な曲を収録されていますね。
白川
楽曲のスタイルを尊重し、そうしたことがごく自然にできるのですね。私のロット達もその響きに調和し、共に変化するのが楽しかったです。
ドビュッシーとゴーベールはロットへのリスペクトです。当時のフランスの作品は、ルイ・ロットの音色を念頭に書かれていますからね。
カプースチンはジャジーで難しい曲ですが、以前、砂原さんから高校時代にジャズピアニストになるか、クラシックの奏者になるか本気で悩んだということをうかがい驚きました。それならば、と提案したところ、山本さんもこういう音楽は大好きだそうで、喜んで取り組んでくださいました。
最後のカプースチンで、とても楽しい気分でCDを聴き終えることができますね。
白川
音楽も含めて物事には「起承転結」があります。でもバッハの組曲は「結」で終わるのではなく、ジーグで弾んで開放して終わります。それはサムルノリなどの民族音楽にも通じていて、天を寿ぐからなのだそうです。リサイタルの最後は、お客様と一緒に踊るように天を寿いで終わりたいと、この曲にしたのでCDでも同様にしました。

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『水月』と『浮雲』の誕生
ルイ・ロットが教えてくれること

 

Profile

白川真理

白川真理

しらかわ・まり●武蔵野音楽大学卒業。青木明氏、佐伯隆夫氏に師事。84年~86年ミュンヘンにてM.ヘンケル女史の下研鑽を積む。故・川崎優氏率いる日本初の女性プロフルートアンサンブル『ムジカ・フィオーレ』の主要メンバーとして活動。その後はフリー奏者として室内楽等で活動。
2000年より植村泰一氏に師事。2003年より武術研究者・甲野善紀氏の下、その術理を楽器演奏に応用する研究に取り組む。
専門誌『ザ・フルート』に『古武術に学ぶフルート』を2年間連載。関連の講習会を日本フルート協会主催『第16回日本フルートコンヴェンション2013 in 高松』を始め、様々な学校、団体より依頼される。CD『SERENADE~flow~』(監修:川崎優、Pf.:寺嶋陸也)、『無伴奏フルート作品の夕べ~銀のロットと共に~』、フルート編曲譜『シャコンヌ/バッハ』がアルソ出版社より発売中。
 

Information

エーテルブルー

2021.04.28 release
CD「エーテルブルー」

【THFLOT-8002】テンハーツレコード
[演奏]白川真理(Fl)、砂原 悟(Pf)、山本 徹(Vc)
[収録曲]C.チェルニー:ロンドレット・コンチェルタント ヘ長調 Op.149、川崎 優:祈りの曲 第4番(solo)、J.S.バッハ:フルートと通奏低音のためのソナタ ホ短調 BWV1034、C.ドビュッシー:シランクス(solo)、Ph.ゴーベール:3つの水彩画、N.カプースチン:トリオ Op.86
 
水月,浮雲

楽譜「水月|浮雲」

演奏&マイナスワンカラオケCD付 アルソ出版 刊
[ISBN]978-4-87312-520-6
[仕様]A4判/12ページ パート譜付き/演奏&ギター伴奏CD付き
[作曲]白川真理/宇高靖人(ギター ソロパート)
[表紙題字]甲野善紀
 
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