フルート記事 音楽を生きる糧にしている人々。彼らのために、できること─ 藤井香織
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THE FLUTE 158 Cover Story|藤井香織

音楽を生きる糧にしている人々。彼らのために、できること─ 藤井香織

ARTIST

ニューヨーク在住のフルーティスト、藤井香織さん。2014年、発展途上国の音楽家に音楽教師育成プログラムを提供する非営利団体 Music Beyondを設立し、現在、中央アフリカのコンゴ民主共和国を訪れながら指導にあたっている

ニューヨーク在住のフルーティスト、藤井香織さん。2014年、発展途上国の音楽家に音楽教師育成プログラムを提供する非営利団体 Music Beyondを設立し、現在、中央アフリカのコンゴ民主共和国を訪れながら指導にあたっている。
家族全員が音楽家である音楽一家に生まれ、様々なコンクールに史上最年少での優勝を果たすなど、才能を開花させる。その後“新たなステージを求めて”アメリカへ─そんな華々しい経歴の持ち主である彼女に、あるとき訪れた転機とは? 内戦が頻発する貧困国として知られるコンゴという地で、人々とどんなふうに関わり、何を目指すのか。常に世界を捉える視線を持ち、チャレンジを続ける藤井さんを現在の拠点であるNYに訪ね、インタビューを行なった。
インタビュア:本多由佳(三響フルート製作所)

“自分しか見ていなかった”ことに気づいて…

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Music Beyondを始めた経緯を教えてください。
藤井
私は日本でフルーティストとして活動していましたが、その後、新たなステージを求めてアメリカに活動の場を移しました。2014年にニューヨークのコロンビア大学で異業種サミットがあり、そこに音楽家として招待されました。私のほかには、有名なビジネスコンサルタントの方や、陸軍の特別任務を担っている方、物理学者などがいらっしゃいました。彼らのスピーチの内容を聞いてショックを受けたんです。彼らは、自分たちの技術やその立場からどうやって世界に貢献しているか、ということに焦点を置いていたのです。私が準備した内容はというと、音楽家というのはどんなに素晴らしいものか、音楽とはこういうものだ──といった、音楽に焦点を当てたスピーチでした。そこで気づかされたのは、私は今まで自分しか見ていなかった、ということなんです。自分の受けてきた音楽教育や、出場したコンクール、共演してきた人々など、すべてが自分のこと。ある意味では自分のことにしか興味を向けていなかった、そう感じました。
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そこで、大きな転機が訪れたのですね。
藤井
まず思ったのは、音楽家としての私は、一体なにができるのだろう、ということです。世界の僻地や戦場へ行って音楽会をするというようなその場限りのことではなくて、もっと恒久的に続けられる活動はないだろうか、それを考えてみようと思ったのです。 考え続けて、何ヶ月か後に頭に浮かんで来たのは、私の周りにいた恩師たちのことでした。私は三上明子先生、ポール・マイゼン先生、両親も含めて、とても多くの「メンター」の人々に、フルーティストとしてだけではなく人間として育ててもらっていたことに、改めて気づいたんです。この「メンター」を、私も次の誰かに渡していくことができるだろうか。例えば、音楽教育が整備されていない環境で音楽の楽しさを伝えたり 、音楽教育の環境を作る手伝いをすることがまた次の世代につながっていく─そんなことができないだろうか、という思いから、音楽教育を広げるためにNPOを立ち上げました。
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ふとしたアイディアから、リスクを恐れずに行動を始めて、ついには組織を形成されたのには本当に驚きます。どのように進められたのですか?
藤井
Googleです! Googleで検索することから始めました。NPOで働いたこともなければ、そういったコネクションもなかったので、とにかく調べながら進めました。ただ明確だったのは、これは私がやりたかったことであり、実際に行ってみて、コンゴ民主共和国の彼らもそれを求めているということがわかりました。大切なのは彼らが欲しているものと必要なものを結びつけること。やりようは必ずあるはず。そしてこういった活動は、NPOであれば募金という手段が取れると思い、Googleで“NYでNPOを始めるには”と検索しました。Googleってなんでも教えてくれるんですよ(笑)!

次のページの項目
・「自分で何とかしてみよう」とコンゴへ
・「生きがい」という言葉の真の意味

 

Profile
藤井香織
藤井香織
Kaori Fujii
東京藝術大学卒業後、シュトゥットガルト国立音楽大学ソリスト・クラスに留学、最優秀で卒業。フルートを三上明子、J.ゴールウェイ、W.シュルツ、A.ニコレ、J.バックストレッサー、P.マイゼン、J.C. ジェラール、ソルフェージュを茂木眞理子の各氏に師事。国内においては「第7回日本木管コンクール」、「第14回日本管打楽器コンクール」、「第67回日本音楽コンクール」のすべてにおいて史上最年少第1位を獲得、海外においても「第44回マリア・カナルス国際コンクール」(スペイン)で史上最年少第2位入賞、併せて特別賞を受賞。ドイツで開催された「第 10 回クーラウ国際コンクール」デュオ部門にて、ピアニストの姉、藤井裕子とともに日本人初の第2位に入賞した。2014年、発展途上国に存在する音楽家に、音楽教師育成プログラムを提供する非営利団体 Music Beyond, Inc.を設立。現在自ら中央アフリカのコンゴ民主共和国を訪れながら指導にあたっている。ニューヨーク在住。 使用楽器は、三響フルート14K-3ST。(photo:Eric Cecil)
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