フルート記事 世界的演奏家たちによるレッスンとコンサートを繰り広げる管楽器の祭典!
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Special Event│第31回 浜松国際管楽器アカデミー&フェスティヴァル

世界的演奏家たちによるレッスンとコンサートを繰り広げる管楽器の祭典!

REPORT

昨年に記念すべき30回目を迎えた「浜松国際管楽器アカデミー&フェスティヴァル」。
30年の歴史の中で多くの若き才能が飛躍的なステップアップを果たし、今では日本国内のみならず世界で活躍するアーティストへと成長していった。そして、今年も世界の錚々たるアーティストを講師陣に迎えたレッスンがみっちり5日間受講できる「アカデミー」と、講師陣たちも出演する「フェスティヴァル(コンサート)」で、充実のプログラムが組まれた。フルート専攻の講師には昨年と同じくフランス国立管弦楽団第二ソリストのミシェル・モラゲス氏が迎えられた。

(取材・文:谷川柚衣/写真提供:ヤマハ株式会社)

〈Academy〉

8月5日から開講した各楽器のレッスン。フルートの講師は、フランス国立管弦楽団第二ソリストや、モラゲス木管五重奏団などで世界中で活躍する、ミシェル・モラゲス氏だ。開講初日、音楽への情熱に溢れた氏のレッスンの一部始終をお届けする。

1コマ目は、中学・高校生のコースからスタートした。受講曲はP.タファネルの『「魔弾の射手」によるファンタジー』。受講生の演奏を「あなたの音楽はとても自然で感情的だ」と評価するモラゲス氏は、“中高生だから”と妥協せず、音楽表現に踏み込んだレッスンをしていく。ウェーバーが作曲した「オペラの部分」と、ウェーバーのオペラを元に「タファネルが作曲した部分」の、その音楽的な違いを理解すること、と話す氏の言葉は、作品への理解や見方に関する核心部分であり、氏自身が常に音楽に真摯に向き合っていることを体現しているようにも感じ、強く印象に残った。すでに高いテクニックを持つ受講生が、より表情豊かでドラマチックに演奏できるよう、導いていく。

ここからは演奏家コースの受講生のレッスンが始まる。受講曲はW.A.モーツァルトの『フルート協奏曲第2番 ニ長調』。「とても新鮮。D-durにとても合っている」と、受講生が自作したカデンツァにも触れながら、良い点と改善点をポジティブに伝えていく。その中でヴィブラートについては、先ほどの『魔弾の射手~』とも比較しながら、「ヴィブラートを常にかけて、いつも光っているのではなく、クラシカルなスタイルで」「音楽表現をヴィヴラートに頼らないこと」とアドバイスした。またモラゲス氏の「aperto(アペルト)」の表現の仕方や、リズムに関して「安定性は必要だが、真面目すぎてしまうので均等性は少し崩しても良いのでは?」という指示には、とても興味を惹かれた。それらの言葉からは、演奏家には作品のスタイルに応じた多彩な表現力と技術が必要であることを感じさせる。このようなレッスンを経て、受講生の演奏はさらにスケール感の大きいものに変化していった。

このあと、演奏家コース受講生による『「魔弾の射手」によるファンタジー』を聴く。この時レッスンで触れたことの一つが「ブレス」について。「(その箇所で)“ブレスをすること”を決めすぎて、音楽的な意味がなくなってはいけない」「ブレスが身体的に必要なのか、音楽的に必要なのかを考えること」と話すモラゲス氏。実際に氏の指導のもと、ブレスを変えて実践する受講生の演奏は、フレーズが自然体かつ伸びやかに聴こえ、オペラの主題部分では、歌や元の作品の要素をしっかりと伝えられるものへと変わっていったように思う。ブレスコントロールは指のテクニックとはまた異なった技術を必要とする。フレージングを適切に捉えるための知識や感性も必要だろう。「私たちはヴィルトーゾ(として魅せる場面)の練習をするが、フレーズをキープする練習が必要」と氏は解説した。

この日最後のレッスンはJ.S.バッハ『パルティータ イ短調 BWV1013』。「アルマンドは、プレリュードが書かれていないこの『パルティータ』にとってプレリュードのような感じ」「転調する喜びや、刺繍音を感じること」と、作品の構成に触れながら、演奏を構築していく。また「アーティキュレーションのみで、テンポは遅くならないように」という指摘も。受講生の演奏は、曲の構成や和声進行に基づいた表現に変わっていき、より作品に入り込んで楽しそうに演奏している姿が印象的だった。バッハの作品を演奏する上で、とても重要な要素が詰まった氏のレッスンは、受講生はもちろん、筆者をはじめ多くの聴講生にも響いたことと思う。

モラゲス氏のレッスン風景
通訳兼アドヴァイザーの山本純子さん(右)と伴奏ピアニストを務めた成田有花さん(左)に囲まれたモラゲス氏
 

モラゲス氏のレッスンでピアニストを務めたのは、このアカデミーの直前に東京で開催された氏のリサイタルでも共演した成田有花さん、そして通訳はこれまでも本アカデミーのフルートクラスで通訳を務めている山本純子さん。参加者がレッスンでより多くの内容を吸収できるのも、このお二人の的確なサポートがあってこそである。

今回レッスンはすべてのコマを聴くことはできなかったが、それでも作品単体にとどまらず、作曲家自身にも焦点を当てながら、広い視野と多くの知識を用いてレッスンが行なわれていたことが分かる。そしてフルートという楽器を使って、それぞれの作品をどう表現するのか?をとことん追究した、具体的で明確な内容が、氏の気さくな人柄とともに明るく伝わってきた。各受講生の演奏技術も非常に高く、どのコマでも濃厚で充実したレッスンが行なわれていた。

 
8月7日の夜には6年ぶりにアカデミーの講師を務めたチューバの巨匠ジーン・ポコーニー氏による特別講座「大切なこと」が多くの来場客を集めて開催された

〈Festival〉

第31回 浜松国際管楽器アカデミー&フェスティヴァル
一夜限りの夢の共演~オープニングコンサート

オープニングコンサートの前半、モラゲス氏を含む木管五重奏は2曲を演奏した。
プログラムの1曲目でもある『ユーモレスク』は冒頭、伸びやかなファゴットで始まり、続くフルートの旋律がキラキラと輝く。プロフェッショナルな奏者が集うアンサンブルは一体感が素晴らしく、躍動感も爽快だ。2曲目『3つの小品』では、長年トップ・プレイヤーの一人として活躍し続けるモラゲス氏ならではの、高い演奏技術と音楽性を目の当たりにする。他の楽器との調和はもちろん、低音域から高音域まで統一感のある美しい音色には、感嘆のため息が漏れる。High B(シ♭)のような最高音域であっても、まろやかに耳に届くのだ。そして各楽章の性格に合わせて、ときに歌い語るように、踊るように、鮮やかに奏でられる。

後半はヤマハ吹奏楽団とアカデミー講師陣らとの共演。1曲目の『生きる歓び』は熱量も高く華やかな幕開けを飾る。サックスの一音を皮切りに演奏されるアカデミー講師陣らのソロにも魅了された。続く『コロニアル・ソング』は打って変わって表情豊かなスローナンバー。穏やかな音楽を堪能したあと、最後の『ローマの松』へ。一丸となって音楽を作り上げる様子にこちらも高揚する。何より、終始楽しそうに演奏するモラゲス氏の姿に、音楽の真髄を見た気がしてならない。後半のプログラムでは、ヤマハ吹奏楽団のメンバーが心から演奏を楽しむ様子に心打たれるとともに、そんな面々を演奏で牽引するアカデミー講師陣らに、経験の重みとプロの技を感じた。

 
ヤマハ吹奏楽団と共演するモラゲス氏
木管五重奏の演奏
 

[日時]8月4日(月)19:00
[会場]アクトシティ浜松 中ホール
[出演]アカデミー講師陣〈M.モラゲス(Fl)、R.クロッシーラ(Cl)、須川展也(Sx)、J.ベルワルツ(Tp)、L.カーリン(Tb)、G.ポコーニー(Tub)〉、篠原拓也(Ob)、古谷拳一(Fg)、國末貞仁(Sax)、泉谷絵里(Pf)、菊本和昭(Tp)、高橋将純(Hn)、齊藤一郎(Cond)、ヤマハ吹奏楽団
[曲目]【木管五重奏】ツェムリンスキー:ユーモレスク、イベール:3つの小品【サクソフォン二重奏】モリコーネ(山口景子 編):ニュー・シネマ・パラダイス メドレー、長生淳:パガニーニ・ロスト ~2本のアルト・サクソフォンとピアノのための~【金管五重奏】ケッツァー:組曲「こどものサーカス」より 小さなサーカス・マーチ、ラモー(フェルヘルスト 編):「ダルダニュス」組曲より4つの楽章、グリーグ(ハーヴェイ 編)ノルウェー舞曲第2番【ヤマハ吹奏楽団×アカデミー講師陣】ブートリー:生きる歓び、グレインジャー:コロニアル・ソング、レスピーギ(鈴木英史 編):交響詩「ローマの松」〈アンコール〉ワーグナー(ヴェスナー 編):双頭の鷲の旗の下に




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