今回は番外編として、フライブルク音楽大学とフランクフルト音楽・舞台芸術大学で古楽科の教授を務め、フライブルク・バロックオーケストラの首席フルート奏者として約30年活躍されたカール・カイザー氏にお話を伺いました。現在も古楽界の第一線で活躍するカイザー氏は、私がフランクフルトで学んでいた際に師事し、その深い知識と的確な指導に感銘を受けた恩師でもあります。
昨年12月には、カイザー先生の著書『バロック音楽の基礎知識』を私が翻訳し出版しました。この本は、バロック音楽についての疑問を抱え、文献を読み解くのに苦労していた私自身にとっても、非常に大きな助けとなった一冊です。翻訳を通じて、カイザー先生の豊富な知識とわかりやすい説明を多くの方に届けたいと願っています。
今回のインタビューでは、フラウト・トラヴェルソの魅力や教育者としての経験など、貴重なお話を伺いました。どうぞお楽しみください。
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ドイツのフラウト・トラヴェルソ奏者・教育者 カール・カイザー氏に訊く《オンライン特別編》
※どなたでもお読みいただけます
フラウト・トラヴェルソを吹くきっかけは何でしたか?
カール・カイザー(以下 K) 私はケルン出身で、ケルンのラジオ放送局は1950年代から特に古楽を特集していました。子供のころによくその放送を聴き、またピリオド楽器でのコンサートにも足を運んでおり、その音楽や音色に早くから魅了されていました。ベーム式フルートを勉強していた大学時代に、副科としてフラウト・トラヴェルソを演奏する機会を得て、その後それが情熱に変わりました。
ドイツで歴史的な楽器を演奏するフルーティストとしての活動について教えていただけますか?
K 学生時代、バッハの受難曲からベートーヴェンの交響曲まで、ピリオド楽器で演奏する幸運に恵まれました。1980年にはケルン・カメラータのフルート奏者となり、1982年にはフライブルク・バロックオーケストラの首席フルート奏者となりました。両グループで大規模なコンサートツアーを多く行ない、非常にたくさんの曲を学びました。
現在は「アルディンゲロ・アンサンブル」で古典派やロマン派の室内楽曲を多く演奏しています。フラウト・トラヴェルソ奏者として、40年以上前から様々な種類のフルートを演奏してきました。フランスの低いピッチを持つフラウト・トラヴェルソや一鍵式のバロック・フルート、古典派、ロマン派時代の多鍵式フルート、バロックや古典派時代のピッコロ、そして初期のベーム式フルートなどです。
ドイツの音楽界は、一般的に現在使われている楽器を使用した、常設の国立交響楽団やオペラ管弦楽団が存在する一方で、個人によって運営されている古楽や現代音楽のアンサンブルが数多く存在します。個人で運営されているアンサンブルもまた音楽文化に非常に深く根付いており、特に古楽の大半はこのようなアンサンブルによって演奏されています。こうした多様性があるにも関わらず、フラウト・トラヴェルソだけで生計を立てられる人はごく少数です。
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Profile
カール・カイザー Karl Kaiser
フランクフルト音楽・舞台芸術大学およびフライブルク音楽大学のフラウト・トラヴェルソと古楽科の元教授。ケルン室内合奏団、ラ・スタジオーネ・フランクフルトおよびアルディンゲロ・アンサンブルの首席フルート奏者。元フライブルク・バロックオーケストラ首席フルート奏者。バロックからロマン派に至るまでのピリオド楽器を用いた室内楽曲や、ヴィヴァルディ、テレマン、バッハおよびその息子たち、アーベル、ホルツバウアーなどの作曲家によるフルート協奏曲の録音を多数残している。著者としては18世紀および19世紀の歴史的実践および方法論に関するテーマを研究対象としている。
Profile
白井美穂 Miho Shirai
名古屋芸術大学音楽部を首席で卒業。渡独後、ロベルト・シューマン音楽大学のディプロマを最優秀で取得し、室内楽科を最優秀で卒業。18世紀バロック時代の演奏慣習に興味を持ち、エッセンおよびフランクフルト芸術大学の古楽学科、多鍵フルートのマスター過程を終了。ドイツを拠点にヨーロッパ各地で古楽奏者として演奏会に多数出演。ゲーテ・インスティトゥートのドイツ語検定C2(最高レベル)を取得し、翻訳、通訳活動も行なっている。2023年6月、拠点を日本に移し演奏活動を行う傍ら、後進の指導にも力を入れ、最近ではバロック時代の演奏法について、オンラインでのレッスンも行なっている。
http://www.mihoshirai.com
Information 書籍・教則本新刊
書籍新刊 『バロック音楽の基礎知識』盛期および後期バロックの器楽曲について
カール・カイザー 著/白井美穂 訳
【出版社】アルファベータブックス
【発売日】2024年12月24日
【定価】1,980円(税込)
【ISBN】978-4-86598-119-3
【購入】島村楽器、山野楽器などの各楽器店のほか、Amazon、楽天ブックスなどの各オンラインショップにて好評発売中!
難解なバロック音楽の理論を分かりやすく学べる入門書の決定版!
フランクフルト音楽・舞台芸術大学のプログラム(歴史的演奏実践)の一環として出版された、バロック音楽の入門書。対話形式で書かれており、要点が簡潔にまとめられているため、難解なバロック音楽を分かりやすく学ぶことができる。巻末には付録として用語集とミニテストを収録。学生、音楽教師、音楽家から愛好家まで、バロック音楽の知識を深めたい方に最適な1冊。
教則本新刊 「Back to Basics」フラウト・トラヴェルソのための練習帳
アンニャ・トーマン 著/白井美穂 訳
【出版社】Edition Walhall
【発売日】2024年12月24日
【定価】外貨定価:EURO 23,50
【ISMN】979-0-50265-282-1
【購入】
Amazon https://amzn.asia/d/fm7WBPe
村松楽器ほか各楽器店、各オンラインショップにて順次販売予定。