THE FLUTE vol.170

【第5回】新・国産フルート物語 4代にわたって受け継がれる歴史 ームラマツフルート

本誌THE FLUTE vol.166より新たに連載がはじまりました「新国産フルート物語」。THE FLUTE Club会員限定でオンラインでもご紹介します。

 

書籍「国産フルート物語」
アルソ出版社内にたった1冊だけ残る、貴重な1冊

1998年に刊行された書籍『国産フルート物語』。日本のフルートメーカーを丹念に取材し、トップメーカーから個人経営の工房まで、その黎明期から現代に至るまでの歴史と道のりをつぶさに書き連ねた貴重な記録だ。しかし現在はすでに絶版となっており、社内にある在庫もたった1冊のみ。20年の時を経ているだけに、このままでは風化し埋もれた存在になってしまうという危機感もある。世界中にその品質が認められるようになった現在の日本産フルート——ここまでそれらを先導してきた技術者たちと、メーカーや工房のあけぼのを知る人々も高齢化し、またすでに亡くなった人もいる。
そんな今、あらためて日本のフルートとそれを創り支えてきた人々の足跡を記すべく、「新・国産フルート物語」としてあらためて記録を残しておきたい。さまざまな国内メーカーが創業50年の節目を迎えるこの時期に、“日本で唯一のフルート専門誌”であるTHE FLUTEの使命の一つと考え、新たなフルート物語を紡いでいく。

前回は、ムラマツフルート(村松フルート製作所)から独立した人々のエピソードを紹介した。今回は、村松フルート製作所社長・村松明夫氏と、同相談役・曽根勝氏にインタビュー。日本のフルートメーカーの中では最も歴史が古く、100周年を目前に控える同社。“世界のムラマツ”となるまでの歴史を振り返りながら、現在のムラマツフルートがたどってきた道のり、そしてこれからについても聞いた。
(取材協力:村松フルート製作所)

 

第5回:4代にわたって受け継がれる歴史——ムラマツフルート

 

村松フルート製作所社長・村松明夫氏(右)と、同相談役・曽根勝氏(左)

 

村松フルート製作所は、1923年に初代の村松孝一さんがフルート製作を始めたところから始まり、現在の明夫社長は孝一さんの孫にあたる3代目ですね。
村松
私は正確に言うと、4代目なんです。初代の村松孝一が亡くなってから、その後20年くらいは孝一の妻で私の祖母のはなが社長でしたから。2代目と言われている村松治=私の父は、実際には3代目なんですね。祖父が60代で亡くなったとき、父はまだ18でした。
はなさんが20年も社長をされていたのですね。亡くなる前に編集部でも貴重なインタビューをさせていただきましたが、はなさんという人は、とても懐の深い方で、業界の中でも有名でしたよね。
村松
そうですね。いわゆる“肝っ玉母さん”ですね。
明夫社長は、たとえば幼少の頃からフルートに親しんでいたとか、工場で遊んで育ったとか……そういう環境的なことは?
村松
いや、そういうことは全然ないんです。そもそも、後を継ぐ気はまったくなかったんですよ。普通に大学に行って、縁もゆかりもない一般企業に就職して。父がどう思っていたのか今となってはわかりませんが、継いでくれと言われたこともありませんでした。
曽根
私からすると、「よく帰って来てくれた!」という感じです(笑)。これでムラマツはしばらく大丈夫だと。
村松
この業界では変わりダネかもしれません。楽器と関係のない仕事を9年間やってきて、名前が「村松」だったのでたまたま社長になった─というくらい、自分がこうなるとは思ってもみませんでしたね。もし父が健在だったら、間違いなく私はここにはいなかったでしょう(笑)。

村松明夫氏
では、最初は右も左もわからないという感じだったのですか?
村松
そうですね。でも、そういう立場だったので、わからないことをわからないと言いやすかったですし、私にとってはむしろやりやすかったのかもしれません。もしこれで、隣に父親がいてダメ出しをされたりだとか(笑)、そんな環境だったらとても続けられそうにないですから。
ありがたいことにもうすぐムラマツフルート100周年になりますが、これまでの社歴上、いつも順調に引き継ぎができずにきたわけですよね。初代の孝一は急に亡くなって、私の父もそこまで急ではないにしろだいぶ早逝しましたし。曽根さんもそうだったと思いますが、師匠がいなくなって、残された人たちが工夫しながらやってきたから頑張れた、ということを繰り返してきた会社なんです。

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