THE FLUTE 166号 はみだしインタビュー

特集 VIVA! オーケストラ :東京交響楽団首席フルート奏者・甲藤さち

東京交響楽団の皆さんにご協力いただき、オーケストラのリハーサルから本番までのバックステージに密着させていただいた、今号の特集。東京交響楽団首席フルート奏者・甲藤さちさんに、「オーケストラの仕事」についてインタビュー形式でお話を聞いた。雑誌には載っていない、オンライン限定のインタビューをおおくりする。(取材協力:公益財団法人東京交響楽団)

東京交響楽団,オーケストラの仕事

“聴く”こと、コミュニケーション……オーケストラの一員であるということ

――
オーケストラ奏者という仕事は、どんなところが特に大変なのでしょうか。
甲藤
仕事上、出番が決まった以上は、まずは来てくださるお客様に楽しんでいただきたいと思っています。ですから、苦手な曲や苦手な指揮者等だからといって、逃げるわけにはいかない……というところでしょうか。
――
雑誌166号のカバーストーリーインタビューでは、指揮者との関係についてもいろいろ語っていただきました。
甲藤
指揮者からは「今、そこを、こういうふうに吹いてください」と音量、音色、テンポ、ニュアンス等について、様々な注文がその場で出てきます。どんな要求であっても、基本的にその場でできないといけないというところは、オーケストラならではですね。自分のリサイタルならば、吹き始めるタイミングは選べますし、室内楽でも多少は融通を利かせてもらえますよね。オケの場合は、指揮者が存在して、大人数と一緒に演奏する限り、自分のタイミングで吹く事は99.9パーセントありません(笑)。
――
まさにインタビューの話に出てきた“指揮者と共に作曲家の世界観を実現させる”という世界なのですね。
甲藤
そういう意味では、赤の他人が作った曲を演奏するわけなので、作曲家が何を聴かせたいのかを理解できる想像力と共感できる感性がないと、そもそもクラシック音楽に携わることは難しいですよね。
そして、個人的にどんな悲しいことがあっても、ドン底に落ち込んでいても、明るく吹くべきところは元気に演じなければならない――という部分もあります。これはオーケストラ奏者に限らず、すべてのパフォーマーの宿命かもしれませんね。
――
甲藤さんが、オーケストラの仕事をするうえでいつも心に留めていることというのは、何でしょうか?
甲藤
引き出しをたくさん作る、ということですね。同じ曲でも、指揮者や隣の奏者の数だけ違う吹き方がある、ということを楽しむ余裕も大事。その違いをいつでも柔軟に音として実現できることがオーケストラ奏者のスキルであり、醍醐味や楽しみでもあります。そのために一生懸命練習しているんだな、と思います。
――
オーケストラに入りたい、という人はたくさんいると思いますが、オケの一員として大切なスキルは、ほかにどんなことがありますか?
甲藤
オケ全体の音や、木管セクションの響き、また、音楽の方向をみんなで作ることなどに関心や興味がないと、フルート奏者にとってオーケストラはつまらない仕事になってしまうでしょう。自分が演奏するということだけでなく、“聴く”こともとても大事だし、それこそがオーケストラの一員であることの意味じゃないかな、と。それから、コミュニケーションのとり方もかなり重要です。問題点があったら、一緒に演奏する相手を尊重して相談を持ちかけるようにそれを伝える。「これを直して」という言い方はしてはいけない……などなど、私も経験の中で一つずつ学びながら今に至っている、という感じです。
東京交響楽団,オーケストラの仕事

  

プロフィール
甲藤さち Sachi Katto
高知出身。東京藝術大学卒業。フルートを甲藤卓雄、林リリ子、峰岸壮一、吉田雅夫、金昌国、ハンス=ペーター・シュミッツの各氏に、室内楽を森正氏に師事。1982年日本楽器製造株式会社ドップラー・コンクール第3位(1位なし)。1984年第53回日本音楽コンクール入選。1985年第2回日本フルート・コンヴェンション・コンクール優勝及び委嘱作品最優秀演奏者賞受賞。新星日本交響楽団を経て、1987年東京交響楽団入団、1990年より同団首席フルート奏者として現在に至る。楽団内外のコンチェルト・ソリストを務める他、「精霊・神話」「アメリカのコンプレックス」などの企画リサイタルのソロ活動は、特に高い評価を受けている。8人の管打楽器奏者による「マジカル・サウンズ」設立に携わる他、木管五重奏団「レサン・コントール」主宰など室内楽にも力を注ぐ。昭和音楽大学非常勤講師。高知フルート新人会顧問。ドルチェ・ミュージック・アカデミー講師。


東京交響楽団,第666回
東京交響楽団,第666回
名曲全集
名曲全集

Information
東京交響楽団 第666回 定期演奏会
12月15日(土) 18:00開演 サントリーホール


名曲全集 第143回〈後期〉
12月16日(日) 14:00開演 ミューザ川崎シンフォニーホール
[出演] 指揮:ジョナサン・ノット
フルート:甲藤さち(東京交響楽団 首席奏者)
[曲目] ヴァレーズ:密度21.5 (無伴奏フルートのための)
ヴァレーズ:アメリカ (1927年改訂版)
R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」 op.40
詳細はこちら https://tokyosymphony.jp

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