フルート記事
THE FLUTE vol.121 特集フルート力を上げよう(2012年発刊)

プロのウォーミングアップ

“ウォーミングアップ”と聞くと、アスリートたちが試合前に行なう準備体操を想像するかもしれません。でもフルートだけでなく管楽器奏者が楽器を吹き始める前に必要なこと……それがウォーミングアップです。ウォーミングアップの仕方はロングトーンやソノリテから始める人、エチュードから始める人、曲を吹きながら整えていく人、それぞれさまざま。もしかすると自分なりのウォーミングアップエクササイズを作っている人もいるかもしれません。でも自分に合うウォーミングアップ法に出会うまでには結構時間がかかります。
ここでは気になるプロ奏者のウォーミングアップ法を大公開!
プロの人たちのやり方を参考にして、「私スタイル」のウォーミングアップ法を見つけてください。
そうすればきっと練習も効果的になるはずです!

 

for Flute   リラックス&コントロール
      Walter Auer

 

リラックス&コントロール / Walter Auer ザルツブルグ・モーツァルテウム音楽院にてミヒャエル・コフラー、ベルリン・フィルのオーケストラ・アカデミーにてアンドレアス・ブラウ各氏に師事。またバーゼルにてオーレル・ニコレのマスタークラスに参加し研鑽を積んだ。ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団の首席フルート奏者、ハノーファー北ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団首席フルート奏者を歴任した後、2003年にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団首席フルート奏者に就任。ミュンヘン国際コンクールをはじめ、クレモナ、ボンなどの国際的なコンクールに入賞。ソリストとして、ダニエル・バレンボイム指揮のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と共演するほか、「オルソリーノ五重奏団」と「ウィーン・ヴィルトゥオーゼン」のメンバーとしても国際的に活躍している。ジュリアード音楽院やギルドホール音楽院など、アメリカやヨーロッパ、アジア各地でマスタークラスに招聘されており、指導者としての評価も高い。2010年にカメラータ・トウキョウよりCD「トリオ・ソナタ集」、2011年にナミ・レコードよりCD「Brilliant Flute 華麗な名曲集」がリリースされた。
Walter Auer 
ワルター・アウアー

私は、コンディションを整えるためのウォーミングアップ、日課練習などせずに、即演奏に入れます!実際毎日演奏しているので、すでに実践で身についているからです。しかし、子どもたちにはきちんと形作られたものをやるように勧めています。

たとえば、グラーフの「チェックアップ」などをやると技術が安定しますし、私も今でも繰り返しやっています。基礎の形作りには大変いい練習です。その他、ロバート・ディックのハーモニクスの練習などを使ってもいいでしょう。私が15、6歳の時、音楽院で学んでいたころは、モイーズとタファネル&ゴーベールの日課練習をたくさんやっていました。当時の私の先生の素晴らしいところは、音作りやフレージングの練習を教則本でやるのではなく、オペラのアリアや歌曲のメロディを例にとってやっていたことです。それは大変いいものでした。

このような練習をするとき大事なのは、毎日ほんの短い時間でもいいので、精神を集中させて、正しくやるということ。正しくないやり方で長々とやらないようにしてください。また、1週間の練習計画を立てて毎日違う基礎練習をやるのもいいでしょう。例えば、1日目はオクターブや跳躍の練習、2日目はスピードの速い息の練習、3日目はまた別の練習というやり方ですね。私も時間があれば、毎日少しでもやりますよ。

そして、大事なのは自分をコントロールすること、己を知ることです。自分の音をよく聴いて、聴いて、聴くことですね。自分自身が一番よい先生であるということを、往々にして人は忘れています。それは、音が十分に響いているのかいないのか、芯のある音が出ているか、音程は正しいか、身体はリラックスしているかなど、自分自身を常に厳しくチェックしなければいけません。落ち着いて演奏するためには、自分の身体がどうなっているのかを客観的に見る必要があります。自分をコントロールするためには、自分自身をよく知ることから始まります。その境地に到達するのは、大変難しいことです。どのように演奏するか、タンギングはどうなっているか、どのように響かせているのか、自分自身の問題点はどこか、それをどうすれば改善できるのか、練習をどのように楽しくやるか(誰にとっても練習は嫌なものです。私にとっても)、などなど、そういうところをひとつひとつ解決していかなければいけません。

 

私が楽器を吹くときには身体をリラックスさせることを心がけています。マスターコースなどで、よく「リラックスする」というテーマについて話します。けっして身体を緊張させないことが大切です。身体に力が入ってしまうと響きを邪魔することになります。もちろんエネルギー源を持つことは必要ですが、身体全体を共鳴させ、支えをしっかりすることが、唯一重要なことなのです。
その点、私は毎日世界でもっとも有名な歌手たちの歌声を舞台で聴いていて、彼らがどのように身体を使っているかをよく観察しています。彼らがどのようにして大きく響く声を出すのか、どのように緊張を緩和しているのかなどは、我々がコンサートで演奏するときもまったく同じなので、大変参考になりますね。身体の力を抜きながら、エネルギーを持ち続ける。この両方のバランスが大切なのです。人間は毎日変化するものであるし、毎日演奏するホールも違うかもしれない、そして毎日の気分も違います。どんな環境に置かれても、大事なことはいつも同じレベルの演奏ができることです。

私は常にこの「リラックス」と「自己コントロール」を心がけています。

Walter Auer
(インタビュー&翻訳:岩下智子)

 

 

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