フルート記事 紫園香X藤井一興 対談 「フルート&ピアノ・アンサンブルの魅力」
  フルート記事 紫園香X藤井一興 対談 「フルート&ピアノ・アンサンブルの魅力」
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藤井一興氏最後のインタビュー

紫園香X藤井一興 対談 「フルート&ピアノ・アンサンブルの魅力」

ARTIST
[この記事の目次]

THE FLUTE本誌でもおなじみの紫園香氏は、ピアニスト・作曲家である藤井一興氏と長年共演を続けてきた。その藤井氏は2025年1月に病気のため急逝されたが、昨年2024年に二人は対談を実施。その内容をTHE FLUTE ONLINEでお届けする。藤井氏の最後の対談となった貴重なインタビューだ。
文・写真提供:紫園香

音量より音色

2023年5月オールバッハCD録音@風のホール。日本時事通信芸術部門特選CD。
ぶらあぼ誌、音楽現代誌で、優秀録音CDとして推挙

 

紫園
共演を重ねていただいて40年にもなりますね。
藤井
そうですね、ずっと私たちならではのアンサンブルを追及して来ましたね。
紫園
今回は、幅広くフルート&ピアノ・アンサンブルの魅力、また音楽家の成長に必要なことについて伺わせてください。
藤井
はい、よろしくお願いします。
紫園
いつも感じることですが、藤井さんと合わせていると「音量」ではなく「音色」で表現できる喜びが常にあります。
藤井
そうですね、大きな音をベースにすると音楽が平坦になりますね。
紫園
う〜ん、微妙な問題ですね。フルートは音型が細かいので、ピアノに大きい音で弾かれてしまうと、パッセージが埋まってしまうので厳しい。さりとてピアノが小さければ良いかというと、それは違う。音楽までチンマリしてしまっては本末転倒。その様な問題にぶつかります。
藤井
そう、そこですね。私は高校生の時から林りり子先生に叩きこまれて、フルートとの合わせは死ぬほど練習しましたよ(笑)。その秘密の一つは「倍音」です。

倍音の考え方

紫園
音量ではなく音色で勝負するための秘訣の一つは「倍音」ですか?
藤井
その通り。和声的な音楽の造りを理解した上で、ですが、和音の中身の響かせ方を変えて、音量が出過ぎないようにしたり、色合いを強調したり、いろいろやっています(笑)。それに低音から倍音を乗せて高音を作っていく音づくりにおいて、私と紫園さんは昔から一致していますよね。
紫園
はい。いつも興味深く思うのは、練習室のピアノ調律が微妙に狂っている時なんです。藤井さん、調律しながら弾いておられるでしょう?
藤井
そうなんですよ、タッチや倍音の乗せ方で正しい音程に聞こえるように、言わば「調律しながら」弾いています。
紫園
この間リハーサルが終わる時に「さすがにここまで狂っていたら無理だったわ」と仰ってましたね(笑)。
藤井
そうでしたね(笑)。いつも自分で音程の選びをして響かせていますね。フルートこそ、そうでしょう?
紫園
ええ。先日ドビュッシーの『ビリティス』を王子ホールのリサイタルで吹いた時、フルートとピアノの倍音で、湯気のような、蜃気楼のような不思議なものが生まれたでしょう?
藤井
そうなの。ドビュッシーをはじめ、あの「湯気」が私は大好きで、あれが出始めると張り切っちゃう(笑)。
紫園
音量だけでは表せない別次元の表現ですね。
 

次ページにインタビュー続く

紫園香 Kaori Sion

東京藝術大学音楽学部同首席卒業、同大学院修了。御前演奏。スイスにてM.モイーズに師事、マスターコース修了。その後も薫陶を受ける。第7回「万里の長城杯」国際コンクール他入賞。NHK洋楽オーディション入選、以来世界中のTV、ラジオ出演多数。外務省招聘「文化交流使節団」等により世界24ヶ国でリサイタル開催。ジュネーヴ国際芸術祭、ブラジル移民110周年記念音楽祭、韓国復興節記念音楽祭をはじめ国際音楽祭招聘多数。国内でも「音楽の友」誌で年間コンサートベスト1位に2021、2024年に選出(毎年ベストテン入り)、レコード藝術・日本時事通信特選CDにも度々選出される等、その演奏は常に高い評価を得ている。音大教授を経て現在、MFLC講師。ケニア・コイノニア教育センター特別講師他、国際要職。キリストの平和音楽伝道師。NGOハンガーゼロ親善大使。曲集・著書3冊・CD17枚を発売中。

藤井一興 Kazuoki Fujii

東京藝術大学在学中に渡仏し、パリ国立高等音楽院を作曲科、ピアノ伴奏科ともに1等賞で卒業。パリ・エコール・ノルマルを高等演奏家資格1位で卒業。作曲をO.メシアン、ピアノをY.ロリオ、M.クルチオに、ピアノ伴奏をアンリエット・ピュイグ=ロジェの各氏に師事。入賞した世界コンクールは10以上に及ぶ。ヨーロッパや日本国内でのソロ・リサイタル、室内楽、オーケストラとの共演のほか、フランス国営放送局、NHKなどで多くの録音を行う。紫園香とは8枚のCDを録音。世界初のフォーレ・ピアノ作品全集の校訂を担当(春秋社)。作曲家としても多くの作品が演奏、録音されている。多くの国際コンクールで審査員を務める。東邦音楽大学大学院教授、東邦音楽総合芸術研究所教授、桐朋学園大学特任教授。2025年1月急逝。

 
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