クラリネット記事 心の奥底に語りかけるクラリネットの音色
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The Clarinet vol.4 Cover Story │ ミシェル・アリニョン

心の奥底に語りかけるクラリネットの音色

パリ国立高等音楽院の教授であるアリニョン氏は、何度も来日し、多くの若者を教え育てている。
高い音楽性と飾らない人柄から発する演奏は多くの人々に強い感動を与えている。

インタビュア:大浦綾子

曲にあったリード選び

 
98年来日演奏会から。ブーレーズ、ベルクなどの現代曲やサン=サーンス、ブラームスなどが演奏された。ピアノは上田晴子氏
 
リードについてうかがいますが、リードを選ぶときに何に気をつけていますか。また、良いリードとはどういうリードでしょう?
A
まず大事なのは、当たり前のことですが、音が出ること(笑)。吹き込んだらすぐに音になることです。ちょっと薄いかもしれないし、音がかたいかもしれないし、こもっているかもしれないけど、とりあえず音は出る、というのが第一段階です。私は最初にリードを選ぶときは音色のことは考えません。鳴るかどうかです。そして第二段階として、吹く曲に応じて合ったリードを選んでいきます。例えば、私はブラームスのソナタとドビュッシーのラプソディーを同じリードでは吹きません。必要とされるものが違うからです。ドビュッシーでは繊細なpが出せなくてはいけないし、ブラームスでは丸い音色や力強さなどが要求されます。ですから、このリードはこの曲を吹くのにいいな、というふうに選んでいきます。そして、どれにも合わなくて残ったリードは、削るなどして手を加えて調整します。
削るのに何かコツはありますか?
A
それは人それぞれですが、一つだけやってはいけないのは、リードの心臓と呼ばれる中央部分を削ること。リードが厚くて少し薄くしたいとき、普通は両サイドと、必要なら先を少し削ります。
何を使って?
A
私はかみそりの刃やナイフを使います。サンドペーバーは、裏を平らにしたいとき、ペーパーの上をリードを動かして削ったりしますが、表面を削るには一点を削れない気がするので使いません。
いずれにせよ、リードをうまく削るようになるには、たくさん失敗することです。失敗しながら少しずつ学んでいくんです。

芸術の多様性を失わず

現在、それぞれの国にクラリネットのスタイルがあり、伝統がありますが、フランスのクラリネットの伝統とは何でしょうか。またそれは他の国、例えばドイツのものとはどういった違いがあると考えますか?
A
当然フランスとドイツのクラリネットは全く違います。
第一に使っている楽器が違います。穴の開き方も違えば指使いも違い、マウスピースも違うので、その結果が違ってきます。その上、演奏家の気質もフランスとドイツでは違います。
だからそれぞれのスタイルができてくるわけです。
ここで私が大切だと思うのは、それらのスタイルを保持すること。ドイツは現在、ドイツ式のクラリネットを使っている唯一の国で、他のほとんどの国はベーム式のクラリネットを使っています。ここでもし、ドイツ人がベームシステムを取り入れたら、音色の違いがなくなってしまい、何か大切なものを失ってしまうと思います。それは、好きとか嫌いの間題ではなく、オーケストラの中で聞こえてきたとき、「あ、ドイツのオケだ」と分かる音色のことです。例えばカール・ライスターや他のドイツ人のクラリネット奏者の音を聴いて、それと分かることが大事だと思います。
フランスについては、これまでその伝統を守ってきましたが、現在少しずつ変化がおきていると聞きます。それはオケの指揮者の要求によるもので、彼らはいろいろな国で指揮をしてフランスに帰ってきたとき、演奏スタイルの統一性を求めるんです。そのせいで、他の国と演奏スタイルが似かよってきます。指揮者にとっては、同じようにやってくれた方が楽ですからね。さて、それは良いことなのか悪いことなのか? テクニック的には良いことだと思います。
指揮者が各オーケストラを比較して、技術の高い方に低い方が近づくよう導いてくれるからです。でも美学的には私は反対ですね。だって、日本の伝統を持っているあなた達日本人に、アメリカ人のように吹いてくださいと言っても無理でしょう。もしそれを強制したら、それは自然に逆らうことです。芸術の美しさは、もちろんいろんな要素がありますが、とりわけ多様性だと思います。例えば、ミラノ・スカラ座のオベラを聴けば、それがスカラ座だと分かること、ウィーンフィルの演奏を聴けば、それがウィーンフィルだと分かることです。それがなくなってしまうことはとても残念なことです。

ブーレーズから多くを得た20代

現代曲には興味がありますか?
A
もちろんです。私は70年代に、現代曲を演奏するグループに入っていて、多くの現代曲の演奏家に接する機会があったので、若いときから現代曲に興味を持っていました。当時私は20代だったのですが、今思うと、大変影響を受けると同時に多くのことを学んだ時代でした。
現代曲というのは、他の音楽と同じでありながら、他の音楽とは違った語法で書かれています。問題は、聴衆の受け取り方で、彼らはこの新しい語法に慣れていないので、なんだか変わった音楽に職こえてしまう。でも本当は、現代曲も何かを表現している“音楽”に違いはないんですよ。
というわけで、私は20歳のころから現代音楽に目覚め、後にピエール・ブーレーズ率いるアンサンブル・アンテルコンタンポランに入りました。
それはいつのことですか?
A
結成した年の1976年から83年まで、7年間そこで活動しました。そこで私は幸いにも20世紀の主要な作品を演奏する機会を持てると同時に、ベリオなどクラリネットのために新曲を書いた作曲家とも知り合うことができました。そのことで、私自身、テクニック的にもとても勉強になりました。
例えば、ブーレーズは普段大変優しい人なんですが、反面非常に要求が多くて厳しいんです。ですから、彼の作品を演奏することによって、私自身の技術も向上しました。
最後に趣味をうかがっていいですか?
A
今はコンピューターにはまっています。子供たちの影響でもあるんですが。彼らは私よりずっと上手に使いこなしますからね。手紙や書類などを作れて便利なうえに、いろんな情報を得られるのでおもしろいですよ。百科事典にもなるんですよ。それから、コンビューターを始めて驚いたのは、子供の適応力です。子供たちは、難しいシステムを知らなくても最初から簡単に使いこなしてしまうんです。こっちは必死で勉強しないと使えないのに。今は忙しくてなかなか時間がありませんが、ビデオを撮るのも好きなので、それをコンビューターにつないで映像を取り込んだりもしたいですね。
ありがとうございました。
 
インタビュアの大浦綾子さん
 
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