【連載】THE FLUTE ONLINE vol.185掲載

【最終回】ふたたび、「あふれる光と愛の泉」

今号で最終回となるこのコーナー。今回はジャン・ピエール・ランパルとその父ジョゼフ・ランパルを取り上げる。

 

齊藤佐智江
武蔵野音楽大学卒業後、ベルサイユ音楽院とパリ・エコール・ノルマル音楽院にて室内楽とフルートを学ぶ。マリオン・マスタークラスIN JAPANをきっかけにマスタークラス、インタビューでの通訳、翻訳を始める。「ブーケ・デ・トン」として室内楽の活動を続けている。黒田育子、野口龍、故齋藤賀雄、播博、クリスチャン・ラルデ、ジャック・カスタニエ、イダ・リベラの各氏に師事。現在、東京藝術大学グローバルサポートセンター特任准教授。

~アラン・マリオンをめぐるフレンチフルートの系譜~
マルセイユ・スクールの巨匠たち
ジョゼフ&ジャン・ピエール・ランパル

(フランス・フルート協会誌La Traversière magazine 24/58-25/59号より、許可を得て転載改編)

2018年の20周忌を機に、アラン・マリオン氏の人生と氏が関わった人々、フルーティストたちという視点でお送りしてきた「ふたたび、あふれる愛の光と泉」の最終回は、“その出会いがなければ今の自分はいない”と常々口にされたジャン・ピエール・ランパルとその父ジョゼフ・ランパルを取り上げる。ここでは、1997年のフランス・フルート協会の会報「Traveresières」のランパル特集の際のマリオン氏の寄稿文と、当時の協会長Denis Verroust氏(現ランパル協会会長)がJ.P.ランパル氏の生涯を読者向けに書き下ろしたものを紹介する。

 

ジョゼフ・ランパル
マルセイユ・スクールの謙虚な大音楽家

息子ジャン・ピエール・ランパル、マクサンス・ラリュー、アラン・マリオン、ジャン・ルイ・ボーマディエ、フィリップ・ピエルロなど……マルセイユ音楽院で名教師として名だたるフルーティストたちを育てたジョゼフ・ランパルは、1895年宝石商の息子としてマルセイユに生まれる。父ラザールは海を愛し釣りに情熱を持つ傍らオペラ座に足繁く通う芸術愛好家であった。ジョゼフは12歳になるとピッコロを始め、アルテスのデュオで音楽を学んだ。18歳でパリ音楽院に入学するために上京するが、プリを取得後、演奏家としてパリでの華やかな活躍を期待されながら、折しも第一次世界大戦が起こり、衛生班に所属し前線に送られ、榴弾で負傷した経験や多くの悲惨な別離を目の当たりにした戦争の爪痕は心に強く残り、音楽と釣りをしながら送る穏やかな日常を求めてマルセイユに戻る。
「(パリに残っていたら)第一線で必ずや活躍していた! 練習の虫だったと思うよ。父は器用な指、音、スタイル、そしてやる気……すべてを持っていた。父は鋼の忍耐力で、絶対の安心感があった」とジャン・ピエールは語る。また「私は父の演奏を聴き、観察するのが大好きだった。とにかく特別で個性的な、感情のこもった人間味のあるソノリテだった。意識せずに父の演奏を聴くことなどできなかった。父はソリストの気質を持っていたのに、ソリストとしてのキャリアは積まなかった。でも協奏曲のソロをするときにはすべてを出しきっていた。その舞台上での存在感は強烈で、それは手本として私の役に立った。父にとって“大フルーティスト”とは理想であり、自分のエスプリを現すことであり、到達できないほど完璧であることであった。父の影響や励ましの言葉、父のお手本はいつも私から離れることはなかった。今でも演奏するときも何をするときも父は私とともにいてくれると感じている。父からは自分の音楽の才能をより豊かにすることを学び、また、人生を学んだ」とも。
1948年の終わり、ジャン・ピエールは古物商にあったバラバラになって袋に入った金のルイ・ロットを託され、夜行列車でマルセイユに向かった。ジョゼフは興奮して駅まで息子を迎えに行った。夕食もそこそこに、一つ一つ部品を調べながら夜を徹して組み立てに没頭した。1869年に製作され、J.レミュザが亡くなってからその行方がわからなかったこの世に唯一の18金のルイ・ロットは一つの部品を欠くことなく、元の形に再現された。朝5時、「ジャン、起きるんだ、早く吹いてごらん。素晴らしい楽器だ……」。ジョゼフは、こうしてこの世にひとつの金のロットを生き返らせ、奇しくも息子のキャリアに神秘的な伝説を加えたのだった。
(ベルナール・デュプレックス「ジョゼフ・ランパル」より許可を得て転載改編)

(次のページへ続く)
・ジャン・ピエール・ランパル 天から授かったフルートの才
・親愛なるジャン・ピエール
・後記

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