クラリネット記事 音楽に真摯に向き合い、音楽を理解し、自分の職業を愛すること─それが演奏家に必要なことなのです
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vol.45 Cover Story│ミシェル・アリニョン

音楽に真摯に向き合い、音楽を理解し、自分の職業を愛すること─それが演奏家に必要なことなのです

ビュッフェ・グループ・ジャパンが主催する「欧日音楽講座」で長く指導に携わり、今年8月にも来日。そして10月にクラリネット・リサイタルのため再来日したミシェル・アリニョン。クラリネット奏者として、クラリネット界を牽引し続けてきた、重鎮の一人である。これまでフランスに渡り、また日本で開催されるマスタークラスなどで彼の薫陶を受けた人は、かなりの数に上る。日本に息づくフランスのクラリネットの世界は、彼の貢献なくしてはなしえなかったのではないだろうか。今回は、8月に来日した際、欧日音楽講座で取材を敢行した。10月に開催されたクラリネット・リサイタルのプログラムにもインタビューが掲載されていたが、ここではそこに補筆し、さらに「ミシェル・アリニョン」という一クラリネット奏者に迫ってみよう。
インタビュア・翻訳:郡 尚恵 / 写真:土居政則 / 取材協力:ビュッフェ・グループ・ジャパン

Player's Report│ミシェル・アリニョン氏との共演

2012.9/30-10/1 ミシェル・アリニョン クラリネット・リサイタル
Text by モルゴーア・クァルテット ヴィオラ奏者 小野富士

今年(2012年)に入った頃だったと思う。
N響首席クラリネット奏者の松本健司君から「自分がフランス国立パリ高等音楽院で師事していた先生とモルゴーア・クァルテットで共演してもらえませんか?」と電話をもらった。
モルゴーア・クァルテットにとって本番を計画するとき一番大きな問題は「4人のスケジュールが合うかどうか?」だ。
今までも“残念ながら”実現しなかった出演依頼は少なくない。
松本君曰く、日程はすでに決まっていて今年の10月1日に紀尾井ホールだという。
すぐさまメールでモルゴーア・メンバーに日程を尋ねると、奇跡的にその日は全員大丈夫だと言う。
加えてその前日も空けられる、ということでアリニョン氏が客員教授を務める大阪音楽大学での本番も9月30日に入った。
演奏曲目はモーツァルトとブラームスのクラリネット五重奏曲、という王道プログラムだ。

ミシェル・アリニョン氏は国立パリ高等音楽院卒業後アメリカのミシガン大学で研鑽を積み、1978年から1983年まで「アンサンブル・アンテルコンタンポラン」、1984年から1989年まで「パリ・オペラ座管弦楽団の首席奏者」、1989年から2009年まで「フランス国立パリ高等音楽院教授」、2010年から「スペインのレイナ・ソフィア高等音楽院名誉教授」、という経歴の持ち主だ。
9月28日午後、アリニョン氏を招聘しているビュッフェ・グループ・ジャパンのスタジオでリハーサルが始まった。
簡単な挨拶をして、モーツァルトの『クラリネット五重奏曲』から練習した。
第1楽章、弦楽四重奏のみの6小節後、アリニョン氏は何のてらいもなく演奏し始めた。
一つの楽章を通して演奏し、その都度ディスカッションして練習を進めていくのだが、アリニョン氏の演奏はほとんどディスカッションの必要がないほど彼の意図がはっきり伝わるものなので、今一緒に演奏したことを言葉で確認する程度で、練習はどんどん進んでいった。
優雅にして静かなたたずまいを持ちながら、曲が要求するコントラストを余すところなく表現しながらモーツァルトの練習を終え、休憩に入った。

私たち日本人に比べてヨーロッパ人のほとんどが陽気で自己主張が強い、と普段は感じることが多いが、アリニョン氏はむしろ、多くの日本人よりも物静かでシャイだ。
そのアリニョン氏が休憩後のブラームスでは強く激しい音楽を奏で始めた。
モーツァルトの時から少しは感じてはいたが、一瞬も止まらずに走る中で、まわりに見える獲物は決して見逃さない黒ヒョウのようなスピード感だ。
いったん演奏が始まると「狩猟」態勢になる。さすがヨーロッパ人!
もちろん、晩年のブラームスが持つ寂寥感あってのものだ。
さて、最初の本番である大阪公演の9月30日は台風が大阪を直撃してしまい、台風が来なければ超満員のはずだったのに、それでも750人のホールに400人のお客様の来場を得て行なわれた。
翌10月1日は新幹線で東京に戻り、紀尾井ホールでゲネプロ&本番。
この日の演奏会はライブ・レコーディングの予定もあり、本番で非常事態が起きたときのための言わば「保険」録音をゲネプロでするので、気の抜けない一日だった。

モーツァルトからブラームス、そしてアンコールとして演奏したウェーバーの『クラリネット五重奏曲』の第4楽章にいたるまで、アリニョン氏はそれぞれのフレーズを一筆書きにしたような明解なラインを見せながら、そのときその時のインスピレーション全開で、曲が欲しがっている表情を、ひらめきに満ち溢れた音で余すところなく歌い上げた。 久しぶりに心地よい緊張感と、音楽をする喜びを感じた数日間だった。

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